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18.はじめてのお風呂

俺たちはゲートの中を歩き元の世界の、会社の屋上に戻って来た。


ジーさんはしばらくしたらまた来るって言って居なくなった。


「よっこらせっと。ふー、たった数日なのに随分と久しぶりに感じるな。」


「ええ、会社を懐かしく感じるなんて思ってもみなかったです。」


「山崎、ここはどこじゃ?」


「ん、ここか? ここは俺と松田が普段働いている場所だな。」


「こんな所で働いておるのか? ここは屋根すらないぞ。」


「そうじゃなくてこの建物の中。ほら、こっちついてこい。」


俺と松田、そしてパインは編集部に戻り編集長に挨拶する事にする。


一応今までの旅は編集長公認の出張だが特殊すぎてどう会社に報告すればいいか分からないのでまずは編集長に報告するのだ。


「編集長、山崎と松田です。異世界出張から戻りました。」


「おっ戻ったか。どうだった? 異世界は。」


「いろいろ大変でしたよ! まず……」


「いや、やっぱ話さなくていい。あとで報告書にして出しといて。それと、はい。」


編集長は大量の書類を机の上に置く。


「編集長、その書類はなんですか?」


「書類じゃない、原稿だ。お前達が異世界に行っている間に溜まった新人の異世界モノの持ち込みだ。全部目を通してくれ。」


原稿の山はどう見ても50センチはある。

横にUSBメモリーが三本添えてあるのは気のせいだよな。多分パセリ的な感じで添えただけだよね?


「これ、今週中にはチェック入れて本に出来そうなのとかは俺に報告してくれ。」


そう言えば今日は何曜日だ?

異世界の暦は月火水土日だったからな、曜日感覚が狂ってる。

カレンダーを見ると木曜日だった。


「編集長、今週中って金曜までって事ですか? 流石にそれは無理なんじゃ……」


「安心しろ、今週中ってのは日曜までだ。思う存分働け。」


休日出勤しろってか!

俺と松田はどんよりして机に向かう。


「山崎、暇じゃ。お主の仕事の説明をしろ。」


そう言えばお子様がいたの忘れてたな。


「簡単に言うと小説家を目指す奴らが書いて来た原稿を読んで面白いものがあったら本にするって感じかな。」


本当はもっといろいろあるが面倒くさいので今やってる事を大雑把に伝える。


「なるほどの。これが原稿か?読んでもいいか?」


パインは原稿の山の一番上から一つを手に取る。


「読んでもいいけど汚すなよ。」


「汚さぬわ! どれどれ、タイトルは[落ちこぼれの僕が異世界に転生したら最強だった] か。長いの。」


パインは地雷臭がプンプンする奴を引き当てたようだ。 てか字読めるんだな。向こうの世界とこっちは字まで同じなのか。


俺、松田、パインはしばらく新人の原稿を読み続ける。


結論から言うと前よりも異世界モノ読んでるときストレスを感じるようになった。特に合法ロリに対してのストレスは半端じゃなかった。

結局その日は夜まで原稿を読んでいたが半分程しか終わらなかった。今までなら悪くないと思ってたものも本物を見た後じゃリアリティに欠ける。ゲームに入る奴とか現代知識でのチートモノとかは今まで通りなんだけどな。


「じゃあ、そろそろ帰るか。松田、パインまた明日な。」


俺は事務所を出ようとする。

しかし松田が声をかける。


「ちょっと待って下さい先輩! パインちゃん忘れてますよ。」


くそッ、松田も気づいてたか!


そう、パインには今泊まる当てがない。

つまり俺か松田の家に泊めるしか無い。

俺はおそらくパインの好奇心が暴走して面倒くさいことになると思い気づかないふりをして松田に押し付けるつもりだったのだ。


「先輩、僕家に嫁さんいるんで無理ですよ。 一人暮らしなんだからお願いします。」


そうなのだ。こいつは大学生の頃に付き合っていた彼女と入社を機に結婚している。新婚夫婦の家に誰のか説明できない子供を預けるのはまずいだろう。その点俺はまだ独身。俺がパインを泊めるのは自然な流れなのだ。

俺はため息をついてパインを泊めることにした。


「パイン、道では静かにしてろよ。この世界には魔王とか勇者とか言ってる奴は痛い奴扱いだからな。」


俺はパインに一応最低限の注意をして外に出る。


とは言っても電車とかに乗せたら煩くなるのは簡単に予想できたのでタクシーで帰る。タクシーはタクシーで


「凄い!なぜ馬も無いのに動いておるのじゃ! しかもなぜ夜なのにこんなに明るい?」


「そだねー、そだねー、そだねー。」


好奇心の洪水を華麗にスルーすること30分。やっと俺の住むマンションの前までつく。


エレベーターにも驚いてやっと家に着く。

誰も居ないのにただいまを言い久々の帰宅だ。


「お邪魔するぞ。ここが山崎の家か、狭いな。」


「うるせーよ。一人暮らしならこんくらいで充分なんだよ。」


「ふむ、それもそうか。それより山崎、腹が減ったぞ。」


作れってか? まぁ作るけどさ。


俺は適当な具材で炒飯と野菜炒めを作る。


「ほれ、食え。」


「ほう、なかなかいい匂いがするのう。味は……うまい、我が城のシェフ10人の腕前をまとめて30で割ったくらいのうまさじゃ。」


よく分からん例えが出た。シェフ10人割る30くらいの腕前って三分の一人前の実力ってことか? 取り敢えず満足してるようなのでよしとする。


食べ終わった後

俺は食器を片付ける。


「おい、パイン。俺が食器洗ってる間に風呂入っとけ。」


「そのことなんじゃが……。」


「なんだ? まさかお化けが怖いとか言わないよな? どっちかって言うと魔王の方が怖いからな。」


「違うわ! いや、着替えの服を持ってくるの忘れてしもうたんじゃ。どうしよう。」


「はあ? 服?」


そう言えばこいつ異世界くるってのに手荷物一つ持ってなかったな。いや俺もだけどさ。


しょうがないので風呂の前に近くにある洋服屋に行くことにした。


俺は店の前まで案内して、お金を渡し会計の仕方を教えて店の前で待つ。流石に下着とかも一緒に購入するのは恥ずかしいだろうしな。


しばらくしてパインが出てくる。5、6パターンの服は買えたようだ。


ついでに俺とパインは別の店にも寄って、歯ブラシなどの日用品も揃え帰宅する。


こうして無事風呂問題も解決し、その後は特に問題もなく俺とパインは眠りについた。


えっ?パインはどこで寝たかって?


ご想像にお任せします。







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