17.世界の一歩
「山崎殿! これは何の冗談ですか⁈ 特権の撤廃など……」
「まぁまぁ国王様、そういう事はこれから話しますから。おい、松田!」
実況席の松田は頷く。
「 では、よくルールがわからないという方の為にディベートのルールを説明します。ディベートとは一つの議題に対して、肯定側、否定側に分かれ討論することです。基本的な流れですが、
肯定側の主張→否定側の質問→否定側の主張→肯定側の質問→否定側の反論→肯定側の反論→肯定側の最終弁論→肯定側の最終弁論
となっております。今回は異世界人特権は撤廃すべかでないのか?について議論していただきます。肯定側、つまり撤廃すべきでないと主張するのは国王、否定側は先輩、じゃなかった山崎選手。どちらの勝ちかを判断するのは観客の皆様です。」
「国王様、ルールはわかったろ?」
「分かりはしましたが、しかし何故このような事を……」
「いいから腹くくれ、この舞台には外の奴が入ってこれないよう結界が貼ってある。出るには俺とのスペシャルマッチを終わらせるしかない。」
「はぁ、ではやるしかないではありませんか。」
俺は松田に準備開始の合図を送る。
「では、試合開始ーーー!まずは国王様の主張です。」
国王は覚悟を決めたようだ、力強くマイクを握る。
「では、私の主張を言わせてもらおう。異世界人特権は必要だ。皆も知っていると思うが少し前までこの世界は魔王という脅威が存在した。そしてその脅威を倒してくれたのは異世界人である勇者達だ。今は魔王に次ぐ脅威はないがいつ次の魔王やそれに匹敵する脅威が現れるかは誰にも予想出来ない。その時に備えとして勇者は必要なのだ。国が勇者を保護するのは平和のためでもあるのだ。以上が私の主張だ。」
闘技場のみんなは国王の意見に一応は納得してるようだ。
「では次に山崎選手、質問をお願いします。」
松田は次に進める。
「では、国王様に質問させて頂きます。勇者が魔王を倒す冒険の過程で行った犯罪についてはどう思われますか?
「そっ、それは……。」
「具体的には、無断で民家に侵入したケースが合計251件、そのうち210件は何かしらのアイテムを持ち去られてます。また、レベル上げと称して封印されていた伝説の魔物を復活させ戦闘を行いました。この時の被害ですが家屋倒壊が3件、軽傷者が12人います。これらの、他の冒険者なら罪に問われることも特権で無罪とされてますがそこまでしてでも特権は必要とお考えですか?」
「くっ、しかしそれらは魔王を倒す為に必要な事だったと国も認めているのです!」
「そうですか、こちらからの質問は以上です。」
「では続いて山崎選手、主張をお願いします。」
次は俺の番だ。
「俺は異世界人特権は撤廃すべきと考えている。理由はそんなもの無くても充分脅威に対処するの力をこの世界の人達は持っていると思うからだ。俺からの主張は以上だ。」
「では、国王様の質問です。」
「具体的にどう守るのですか?勇者が現れるまでは魔王に勝てた冒険者はいなかったのですよ⁈」
「そのことだが、調べたみた結果、勇者達は四人それぞれがパーティーを結成し四つのパーティーで同時に魔王と戦ったらしいな。魔王に挑んだ中では一番人数が多かったそうだ。それに、竜王から奪った牙からできた武器をそれぞれが持っていたそうだな。これも魔王に挑んだ中で最高の装備だ。」
「何が、言いたいのです? 」
「つまり勇者だから勝てたんじゃ無くしっかり準備して数を揃えたから勝てたんだ。これは異世界人以外でもできることだ。」
「なるほど、分かりました。」
これでお互いの主張が終わる。
次は否定側の反論、つまり俺の反論だ。
「まず、脅威に備える為に国で勇者を保護することが必要と言っていたが今の試合でも分かるように勇者に勝るものはこの世界にもいる。勇者だって絶対じゃないんだ。勇者にも寿命も老いもある。今みたいに勇者に頼りきりのままじゃそのツケを払うときがきっと来る。だから自分達で脅威に対抗する力をつける為にも特権は撤廃すべきだ。」
続いて国王の反論。
「勇者には我々にない力があリます。神から頂いた特別な力が。勇者の特権を認め代わりに側にいてもらうことで新たな脅威にも迅速に対応できるのです。」
もう反論になってないな、まるで勇者を信仰する信者だ。
ディベートは最後の場面に移る。
俺と国王の最終弁論だ。
俺はこの依存した世界をぶっ壊すべく叫ぶ、訴えかける。
「おい、国王様、そしてここに来ている奴ら全員、よーく聞け!今までの戦いを覚えているか? 実力で勝ったシュランにノヴァ、工夫により勝ったパイン、それに、何度叩きのめされても諦めずに戦いついには勝利したタイガー、こいつらの戦いをを見てもまだ勇者が絶対的な力だと思うか⁈ そうじゃないだろ、この世界にも勇者になれる奴はいるだろ、頭を使い工夫できる奴はいるだろ、諦めずに戦える奴はいるだろ!」
ざわめきが起こる。俺は続ける。
「この、勇者に依存した世界はまるで強者に守って貰わないと不安で仕方ない弱者だ。それでいいのか⁈ そのままでいいのか⁈ 弱者だからといって別の世界から来た奴らに媚び売って、へりくだって、悔しないのか⁈ 」
「黙れ!」
国王が叫ぶ。
「私が何も考えてないと思っているのか⁈プライドも知恵もない奴だと思っているのか? 違う。私だって、悔しいのだ。」
「悔しい?」
「当たり前だ、一国の王が、力はあるとはいえ、平民に媚をうるなど内臓が千切れるほどに悔しい。しかしそのような意地を張っても国の為にはならん、国王たるもの自分のプライドより国の平和を優先して何が悪い!」
国王の心からの、誤魔化しなしの言葉。
これを待っていた。
俺はディベートの流れは崩れたが止めないよう合図し、話す。
「悔しいなら、何故この世界の可能性を信じない。悔しいなら、どうして自分達でなんとかしようとしない! 国の平和の為か? 違う、お前は本当の意味で悔しいと思ってない。」
「なんだと⁈」
「お前が勇者に頼ることで依存してしまった世界には力がなくなる。そして新しい脅威が生まれたらどうする?また次の勇者に頭を下げるのか⁈ 先祖代々、別の世界からやってくる救世主に頭を下げ続けるのか⁈ そっちの方がよっぽど悔しくはないのか⁈ 自分達には戦う力がないって認めて悔しかないのか⁈ 」
「それは……。」
俺も本気の言葉をぶつける。
本気の言葉には本気の言葉しか通用しないのだから。
国王はまだ少し迷っているようだ。
おそらく自分のプライド一つで俺の意見を認めることは出来ないのだろう。
国王が認める事は、すなわち異世界人特権の撤廃を意味するのだから。
無くすことは容易い。しかしなくなった後を考えると、後一歩躊躇してしまう。
俺がもう一押ししようとしたその時ーー
「国王様!失礼ながら申し上げます、僕は悔しいです!」
ひとりの子供が叫んだ。
「僕だっていつかは勇者になりたいんです! だから異世界の人しか勇者になれないなんて悔しいです!」
これがきっかけだった。
「国王が!私も悔しいです!」
「俺もです!」
「俺も!」
「私も!」
どうやら本気の言葉はみんなの心に届いたようだ。
これが一押しだった。
ノヴァが言っていた最後の一歩、魂の強さの証明の一歩をこの世界の住人達は踏み出したのだ。
国王がマイクを口に近づけ叫ぶ。
「これより私の最終答弁に入る! これより異世界人特権を撤廃する! 全ての国民は知恵をつけ、工夫し、努力し、脅威に備え国王の名の下に団結せよ! 以上だ!」
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
魂の叫びが闘技場、いや世界中に響き渡った。
俺は笑って、
「これは国王の圧勝だな。」
そう言い舞台を後にする。
舞台裏には松田、ノヴァ、タイガー、シュラン、プリン公爵がいた。
「先輩、やりましたね!」
「ああ、上手くいった。まぁほとんど勇者に勝てるっていう事実を作ってくれたみんなのお陰だけどな。」
「何を言う、山崎殿、この場を作ったのは他でもない君だ。」
「そうだな、俺とタイガーじゃ逆立ちしたってこんな事はできやしねぇよ。」
「俺とお前を一緒にするな!」
ー我も久々に骨のある奴と共闘できて楽しかったぞー
みんなと笑って少し話した。おそらく最後の会話だろう。
話が終わる。
俺と松田は闘技場を後にし、馬車に乗り最初の街まで戻る。
もう二度と眺めることはないであろう景色を眺めながら。
この世界に初めて来た時の場所まで戻る。
「先輩、これでよかったんですよね。もうこの世界は大丈夫ですよね。」
「ああ、大丈夫だ。」
俺と松田は言い知れぬ達成感に包まれていた。
「それにしても迎えって本当にくるんですかね?」
「それだよな〜、あのジーさん世界を救ったら迎えにくる〜とかアバウト過ぎんだろ。」
「何処がアバウトじゃ。」
あれ? 後ろから声がするぞ?
恐る恐る振り返る、そこには白髪の老人の幽霊が……。
「誰が幽霊じゃ! 儂は神だと言っておるじゃろ! てか分かっててやったじゃろ!」
後ろには俺たちをこの世界にスーツ一つで送り込んだジーさんがいた。
「おい、ジーさん。よくものこのこ現れたな。俺たちがどれだけ苦労したと思ってんだ! 最低限のこの世界の説明書とか異世界人情報とかくれても良いだろうが! 松田、やれ。」
「はい、松田流、タイキック改!」
「待て待て、お主達、儂をやってしまうと元の世界に帰れないぞ? いーのかなー、一生この世界でいーのかなー?」
「あっ、ジジイ足元見やがって! だったらさっさと元の世界に戻しやがれ! 元の世界で寿命を縮めてまっとうさせてやる!」
「先輩、それまっとうって言わないです……。」
「ええい、もういい、さっさと帰るぞ!ゲートオープン!」
うんざりしたジーさんがゲートを開ける。
この世界もこれで終わりか……短い間だったけど楽しかったな。
俺と松田は帰ろうとする。しかしーー
「待て、山崎。」
俺を呼び止める声が。
振り返るとそこにはパインがいた。
「パインちゃん⁈」
「お前、なんでここに。」
「つけて来たんじゃ、悪かったの。二人には言いたいことがあってな。」
「言いたい事?」
「ああ、儂は実はノヴァから山崎が異世界人だと聞いておったんじゃ。計画が成功したら元に世界に帰ってしまうことも。」
成る程な、ノヴァは心が読める。パインには俺たちが異世界人である事も帰る事も言ってなかったが知っていたのか。
パインはおそらく別れの言葉を伝えに来たのだろう。俺はしっかりと言葉を受け取るべくパインを見つめる。
「山崎、儂は、儂は……山崎の世界に興味がある! 一緒に連れて行け!」
は?
「あれ? 別れの言葉じゃないの⁈」
「そんな事の為にわざわざここまで来るわけ無かろう! 先に言っても話をはぐらかされると思ってな、この世界から居なくなる直前を狙ったんじゃ!」
「はぁぁぁ⁈」
ドヤ顔のパイン。
そんなパインにジーさんが話しかける。
「お主この世界の魔王か? 異世界間の移動はそんな軽い気持ちでして良いものではないんじゃ。悪いがダメじゃ。」
そうそう、ジーさんたまにはいい事いうじゃん!
「チャームスペル!」
「一人くらいなら行ったり来たりしても大丈夫ですよ〜、パイン様〜。」
「ジジイィィィイ!」
「それじゃいくぞい!」
俺と松田、そしてパインとジーさんがゲートに入る。
それはつまり俺達が必要無くなったって事だ。
なんやかんやあったがこの世界はもう誰かに頼らなくても大丈夫だろう。
とかいい感じにまとめてみたけどそんな事はもうどうでもいい。
この好奇心の大魔王どうしよう⁈
と言うわけで王国編の完結です。
どんな感じにするか悩んでしまい投稿が遅くなってしまいました。
ここまで読んでくれた皆さん、本当にありがとうございます!
次章からもよろしくお願いします。
あと、天下一武道大祭の続きは近いうち番外編でやる予定です。




