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15.剣は届かずとも


「さぁ次は三回戦です! 赤コーナー、元城将軍、タイガーーー! 青コーナー、ゴムゴムのコーンポタージュを食べゴム人間になってしまったマンキー・D・ルーシーーー!」


「ザンザレスさん、ズバリ、この試合の見所はどこでしょうか?」


「そうですね、ゴム人間のルーシー選手には打撃も関節技も効きませんから普通の人は苦戦するでしょうがタイガー選手は城将軍時代は剣の使い手として有名でしたからね。相性が悪いルーシー選手の対応力などは気になりますね。」


「松田、解説はそう言ってるけどどう思う?」


「うーん、たしかに有利かも知れませんけどタイガー将軍って他の三人に比べてパッとしないっていうか…。先輩はどう思うんですか?」


「まあ、お前の言う通り一番ギリギリの試合になるとしたらこの試合かもな。でも、俺は将軍の勝利は疑って無いよ。」


「へ?なんでですか?」


「戦いは倒れなきゃ負けない、そして今の将軍は絶対倒れないからだよ。」


俺たちが話してる間に試合は始まる。


「三回戦開始ーーーー


まず動いたのはルーシーだ。

腕を伸ばし高速のパンチを繰り出す。

しかしーーー


「ふんっ!」


将軍は剣の腹でパンチを受け流しルーシーの懐に入る。

そしてーーー


「悪いがこれで終わりだ! 」


あっさり胴体に斬撃を加える。勝負は決したように見えたが、


チュインッ!


切られたはずのルーシーは無傷だった。


「かかったな、おっさん!等速直線パンチ!」


将軍の腹に直撃した拳はどんどん伸びてゆき将軍を反対の壁に叩きつける。


「クハッ、貴様、それは鎖帷子か!」


「ああ、そうだ。弱点が一つなら対策してない訳ないだろ?」


「じゃあ俺の一撃を受けたのも……」


「もちろんお前に確実にパンチを当てるための罠だ。あんたに勝ち目は無いよ。」


渾身の一撃を防がれ、さらに渾身の一撃を浴びる。


開幕早々かなり不利になってしまった。


しかし将軍は諦めない。すぐに立ち上がりルーシーに立ち向かう。


「鎖帷子をつけてるなら首をはねてやる!」


がーーー


「等速直線パンチ・連舞!」


まるでマシンガンのような連打の前に成す術なく再び壁に。


「だから言ったろ? あんたじゃ勝てない。」


将軍は立ち上がるがーーー


「連舞!」


三たび壁に打ち付けられる。


広範囲に早く、重く、多くの拳を全て剣一本で捌ききるなどとても無理だった。


勝ち目は無い。


よく頑張った。


もういいじゃないか。


誰もがそう思った。彼とその仲間を除いては……。


彼は立ち上がる。


「いい加減にしろ! 連舞! 」


立ち上がる。


「いい加減くたばれ! 連舞!」


立ち上がる。


「倒れろ! 連舞‼︎ 連舞‼︎ 連舞‼︎ 連舞ゥゥゥヴ!!!」



将軍はゆっくりと立ち上がる。さも当然の事のように。



「俺は、倒れ ねえよ。」


将軍は剣を握り立ち上がる。


「ゼー、もう、お前だって 限界だろ? 何度 切りつけたか 分からん程だからな。」


途切れ途切れの言葉で呟く。


将軍の言うとうりルーシーの拳は血だらけだった。将軍は最初からルーシーの攻撃を避けるつもりも捌くつもりもなかったのだ。


「クソが! 何故だ、何故お前は倒れねえ? 何故こんなふざけたことが出来る!」


「ゼー、俺は、お前達 勇者の 出現で、城将軍の座を失った、 部下を失った、王の信頼を失った。」


「そんなのお前の実力の問題じゃ……」


「ゼー、分かってる、全てを失ったのはお前達 のせいじゃ無い。俺が 逃げたからだ。俺が 剣を握り立ち向かうのが 怖かったからだ。」


「なら、何で。」


「ゼー、簡単だ、俺を仲間にしてくれた奴がいた。俺の仲間になってくれた奴がいた。俺の忘れてたものを取り戻させてくれた奴がいた。」


将軍は剣を握り走り出す。


「全てを失ったからこそ、それだけ、それだけは絶対には失うわけにはいかないんだよ!」


拳が限界を迎えたルーシーは蹴りを繰り出す。しかしーーー


ガシッ‼︎


「何だと⁈」


将軍はルーシーの足を掴む。ゴムの性質上伸びたら縮む。足を掴んだまま将軍はルーシーの懐まで到達した。


「忘れたか?俺に斬撃は効かない!お前の剣は届かない‼︎ 」


「剣でダメでも、牙なら届く!」


将軍は剣を投げ捨てる。

そしてルーシーの驚いた一瞬の隙をついてヘッドロックをかける。


「いくらゴム人間でも呼吸が出来なきゃ死ぬだろ⁈ 柔らかい分簡単に気道が占められる!」


「くっ、離ッ!」


ルーシーは必死に抵抗する。ゴム人間なので背後を取っている将軍にも攻撃は出来る。しかし将軍は動かない。


「さぁ、俺がくたばるのが先か、お前が窒息するのが先か、我慢勝負といこうじゃないか!」


ルーシーは体ごと地面に叩きつけて将軍を振りほどこうとする。


そして、とうとう将軍の手がルーシーから離れた。


二人とも立ち上がらない。


「えーと、ザンザレスさん。この場合勝敗はどのように決まるのですか?」


「先に立ち上がった方ですね。」



「先輩! タイガーさんが……。」


「松田、信じろ。」


奴は立つ。 奴にはまだ牙も爪も残っていた。立つための脚が無いわけない。


立て。



ピクリと将軍の体から動き出す。


ゆっくりと、だが確実に勝利に向けて、これ以上失わないように、自分を誇るように、彼は立ち上がった。



「勝者!タイガーーーーーーー!」


「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ

ォ!!!!!!!!」


割れんばかりの拍手と歓声。


今日一番の歓声を浴びた将軍は誰も分から無い程小さくガッツポーズをし、長らく忘れていた勝利の味に酔いしれた。


今度こそ彼は守りきったのだった。

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