13.ソロ最強の実力
「さぁ、始まりました。天下一武道大祭。種族、性別、年齢、問わず最強との呼び声の高い8名の中で最強の座に君臨するのは果たして誰なのかーーー!」
祭当日、闘技場には一万人近くの人々が押し寄せていた。俺と松田は貴賓席に座って観戦している。近くには国王や貴族、大臣も沢山いた。
「 実況は私ゴンザレスが行います。えー、そして、今回解説に来ていただいたのはザンザレスさんです。」
「解説のザンザレスです。今日はよろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。ということで、ザンザレスさん、とうとう始まりましたね。」
「ええ、記念すべき第一回大祭に解説という形で参加できて光栄です。」
「おっと、もう始まるようです。今回の祭の主催者、プリン・プルルン公爵の挨拶です!」
「ご紹介に預かりました。プリン家代表プリン・プルルン公爵です。皆さま、今日はこれほどの数の人々に集まって頂き主催の私も感激でございます。とまあ、挨拶はこの辺にして、第一回! 天下一武道大祭これより開幕!」
「「「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ‼︎」」」
盛り上がってるな、だがまだまだだ!とでも言わんばかりにゴンザレスはさらに盛り上げる。
「さぁ盛り上がって参りました、では早速一回戦に移りたいと思います。赤コーナー、冒険者ギルド最強のソロ、シュラン選手ーーー!青コーナー空間転移と超速回復により最強の前衛と名高い、ナオト・スズキ選手ーーー!」
コールされた二人が闘技場の中央に設置された石で出来た舞台に上がる。
もちろん舞台もその周りにも国家魔導師そうでで結界を張っているのでどれだけ暴れても問題はない。観客にも被害は及ばない。
二人は舞台に立つと会場の空気が変わった。なかなかの迫力だ。
「では、試合開始ぃぃぃぃい!」
試合開始の合図とともに二人が動き出す。
「一発で終わらせてやる!」
先に仕掛けたのはナオトだ。
即座に瞬間移動してシュランのバックを取る。しかし
「最初の一発目はやっぱ真後ろだよな!」
読んでいたシュランが背後に現れたナオトをぶん殴る。驚いたナオトはかろうじて左手の盾でガードしたものの吹っ飛ばされる。
「俺の一撃を防ぐどころか反撃までするなんてな、やるな。」
「ふんっ、期待外れもいいとこだ。勇者ってのはその程度なのか?」
「一撃当てたくらいで調子にのるなよ!」
再度ナオトが仕掛ける。ナオトは再び瞬間移動でシュランの背後に回る。
「芸がない奴だな。後ろをとっても俺はとれねえよ!」
「違う、前だよ。」
ナオトは背後を取った直後今度は前に瞬間移動、シュランの背後に回ったのはフェイントのようだ。しかし……、
「通じねえよ!」
シュランはこれにも反応した。シュランは左手でナオトの盾を掴む。
「な⁈」
「いちいち驚いてんじゃねえ!」
シュランは盾を引っ張り防御不能にし、今度は顔面に一撃を決めた。
ナオトの顔の骨が砕け、体は吹っ飛び闘技場の壁に激突する。しかしすぐに傷は治り立ち上がる。
「くそっ、何故だ⁈ 今の攻撃も、最初のも、完全に視覚をついていたはずだ!」
「それがどうした。視覚をついたくらいで負けるようならソロ最強なんて言われてねーよ。」
大したことではないと言った顔をしてシュランはそう言った。
シュランは当然のようにソロで活動しているが実はそれはかなり難易度の高いことだ。
基本的にパーティならば多数の敵に一斉に襲われても背中合わせに戦えば前の敵のみに集中できる。しかしソロは背中を預けられる仲間がいない。洞窟など狭い場所ならともかく広い場所で囲まれると殆どやられてしまうのだ。
シュランのように長年ソロでやってきた者にとっては何処から攻撃が来るかわからないなどいつものこと。常に感覚を研ぎ澄ませ全方向に対応する事において彼の右に出るものなどいないのだ。
「一箇所からしか攻撃が来ない時点でお前は俺に勝てないんだよ。諦めろ。」
シュランはナオトに向けて降伏を促す。
「確かにお前のいう通りだ。でも俺の得意分野は短期決戦じゃない。持久戦付き合ってもらうぞ。」
ナオトは諦めない。長期決戦ならいくら攻撃を受けてもいい方とそうでない方、どちらが有利かなど議論するまでもないのだ。
「俺は男と付き合う趣味はねぇ。もう終わらせるぞ。」
シュランはやっと剣を抜く。そして今度は右斜めうしろに現れたナオトの目を切った。
「ぎゃぁぁぁぁ⁈」
ナオトの悲鳴が響く。しかしナオトにとっての地獄はここからだった。
「お前さっきから瞬間移動する時毎回移動先に目線を向けてたな。もしかして見える範囲でしか移動できないんじゃねえか?」
そういってシュランはもう一度目を切りつける。
「瞬間移動で回避しないってことは図星か? 叫ぶってことはいくら回復しても痛覚まではなくなってないんだろ? 発狂するまで切り刻んでやる。」
その言葉でナオトの心は折れた。
「ギブアップ!ギブアップ!もう終わりだ!」
「「「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ‼︎」」」
再び闘技場に歓声が響いた。
最初の勝負は俺たちの圧勝だった。




