12.立て、飲み干せ、ぶっ壊せ
祭りの許可が出た後祭りの準備は急ピッチで進められた。
まぁ準備とは言っても元々街には一般の人が冒険者と魔物の戦いを見て楽しむ為の闘技場はある。その為やるべき事は祭り運営の為の人手の確保、各地の街や村への祭り開催の告知くらいだ。
祭り開催の三日も前には街には続々とこの世界の最強を見ようと色んな種族が訪れ今までにない程活気に満ちている。
今回の天下一武道大祭は初回ということもあって予選を行わず主催であるプリン家からの推薦で出場者を決定した。
祭りは8名のトーナメント形式で行われる。
これが祭りの対戦カードだ。
一回戦 シュラン VS ナオト・スズキ
二回戦 魔王パイン VS アラタ・ヤマダ
三回戦 タイガーVSマンキー・D・ルーシー
四回戦 ノヴァ VS タケル・サトウ
ここまで見ればわかると思うが全て異世界チートの勇者とこの世界の強者の対決になっている。
もちろんワザとだ。プリン家が主催の為この程度の事は簡単に出来る。
大切なのは何故こうしたかという事だ。
一つ整理しておこう。俺たちの目的である異世界人を追い出すとは具体的にはどういうことか。
それはすなわち異世界人特権の撤廃だ。
俺たちが無償で城に泊まり続ける事が出来ているように現在この国では異世界人というだけで特権が生じる。
多少の犯罪は追求されず、本来王に後継ができなかった時のみ認められていた重婚、働かずとも保証される衣食住、全てが異世界人特権だ。
こんなことを認めれば多少の不満が出るのも当然だが魔王を倒した実績もあるため声を大にして非難することも出来ない。
王としてもいつ現れるかわからない脅威への対抗策として勇者は必須と考えている。
だから特権を認め勇者を囲っておく。
そして異世界人のチート能力に依存した世界が生まれた。
だから俺たちは異世界人特権の撤廃を目的とする。
特権撤廃とは、イコールこの依存した世界の破壊なんだ。
そして撤廃させる為に、異世界人の力も絶対ではないと納得させ、この世界の人でもやれると自信を持たせる。
異世界人が目の前で倒される姿を見せつけてやる。
これがこの祭りの対戦カードの意味だ。
5回戦以降の勝負なんてただのオマケだ。
本番は4回戦までで、俺たちの、この世界の勝利条件は1回戦から4回戦までの全勝。
俺、松田、将軍、シュラン、パイン、ノヴァ、プリン・プルルン公爵の七人はプリン家に集まり計画の確認をした後、最高の料理で楽しく晩餐会をしていた。ノヴァはちゃんと人型になってる。
俺と松田はリサーチしておいた勇者の弱点や癖を教えようとする。
しかしプリン・プルルン公爵によって拒否された。
「悪いな、山崎殿、松田殿。これはここに集まった皆の総意なのだ。」
公爵は話を続ける。
「さて、今宵集まってくれた諸君。魔王から竜王に至るまでよくぞ仲間になってくれた。明日は本番、明日が本当の修羅場である事はもはや言うまでもないだろう。これが最後の、異世界人に依存している世界での最後の晩餐だ。もう我々が異世界人より弱者であると思い道を譲るのは終わりだ!この世界は我々のものなんだ! 全員立て!立ち上がれ‼︎」
皆がワインを片手に立ち上がる。
「さぁ、こんなふざけた世界は今日で飲み干せ。」
その言葉と同時に一斉にワインを飲み干す。
「ぶっ壊せ‼︎」
全員が勢いよくワイングラスを後ろに放り投げる。
パリンッ
「「「「「我らの時代はすぐそこだ!」」」」」
すぐにグラスは地面に衝突、粉々になる。
これがこの世界での革命を起こす時のお約束らしい。
古い世界は自分の後ろで砕けていろ、そういう意味が込められているのだ。
みんなの士気は十分、いや、それ以上。
弱点などいらない、実力で叩き潰してやると、各々の目が語っている。
これなら大丈夫、上手くいく。
さぁ、いよいよ天下一武道大祭の始まりだ。




