第24話 運の良し悪し儘ならぬ
前回のお話……ローリエ対ルト
(ロ ゜Д゜)ワン!
(ル ゜Д゜)ニャン!
「出し惜しみなし!」
空間収納から自動式拳銃型のエアガンを取り出し、左手に構える。
「頼むぜ、ミキちゃん!」
全身を巡っていた魔力を魔力付与の要領でエアガンに流し込めば、途端に黒い銃身から光が溢れ出した。
「トルムッ、セントッ、耳塞げぇ!」
二人に注意を促してから銃口を前に向ける。
周囲には盗賊共が壁を作っているため、狙いをつける必要がない。
躊躇うことなく引き金を引くと、耳に痛みを覚えるような銃声と共に鋼色の弾丸が吐き出された。
「ギャア!?」
弾丸は盗賊の一人の肩に着弾。
撃たれた盗賊は肩の傷口を押さえ、絶叫を上げながら地面の上をのたうち回った。
「おいッ、どうした!?」
「な、なんだ今の!?」
毒ガス―――と盗賊共は勘違いしている―――に続き、正体不明の攻撃を受けて倒れた仲間の姿を目にした盗賊共は、恐慌状態に陥り掛けていた。
どうやら連中は銃を見たことがないらしい。
果たして異世界に銃器の類が存在するのかは知らんけど、今ばかりは好都合だ。
俺は立て続けに引き金を引いて魔力弾を撃ちまくった。
二発、三発と弾丸が発砲される毎に撃たれた盗賊が一人、また一人と倒れていく。
倒れた仲間の身体に躓いて転倒する者や鳴り響く銃声と絶叫を耳にして、更なる恐慌をきたす者が続出する中、俺の身体にも限界が訪れた。
七発目の弾丸を撃った直後、銃身を覆っていた鋼色の光が急激に弱まり、やがて光が消えると同時に俺の身体からも力が抜け、立ちくらみに襲われた。
「―――ッッ、魔力切れか……!」
貧血直後のような倦怠感と押し寄せてくる眠気の所為で視界がボヤけてきた。
ブンブンと何度も頭を振り、それらをまとめて追い払う。
こんな状況で寝たら死ぬぞ。
幸い盗賊共が俺の異変に気付いた様子はない。
ニースから人間の平均以上の魔力は有ると太鼓判を押されてはいるものの、決して人並外れて大量の魔力を有しているという意味ではない。
今の俺が保有する魔力量では、精々が日に十発撃てるかどうか。
エアライフルに至っては二発が限度だ。
既に身体強化に幾らかの魔力を使っていた為、通常よりも限界が早まってしまったのだ。
「でも効果はバッチリだな」
盗賊共は完全にパニックを起こしており、誰一人として俺達に注意を向けていない。
ついには逃げ出す者まで出る始末だ。
まさに千載一遇のチャンス。
「一気に畳み掛けろ!」
「あいよ!」
「うっす!」
俺からの号令に応じたトルムとセントが同時に動き出す。
トルムは装備のあちこちから投げナイフを取り出すと、片っ端から盗賊共に投げ付けた。
一見、無造作にばら撒かれているようにしか見えないナイフが、ヒュンと風を切って飛び、盗賊共の剥き出しの肌に次から次へと突き立っていく。
偶然防具の上から刺さって無傷で済んだ者もいれば、一人で三本も四本も喰らうという悲惨な目に遭っている者もいた。
相変わらず見事な投擲術だ。
そしていったい何処にあれだけの数を隠し持っているのだろう。
「ずぅぅらぁああああああッ!」
雄叫びを上げながら駆け出したセントは、手近な所に立っていた盗賊に接近すると、手にした鎚矛を全力で相手の顔面に叩き付けた。
鎚矛の直撃で顔面を潰された盗賊の身体が、風車の如く縦に一回転し、そのままベチャッと地面に落ちた。
こちらからは後頭部しか見えないので、あの盗賊の顔面が今現在どのようになっているのか俺には分からない。
知りたいような、知りたくないような。なんか色々と飛び散っているような気もするし……。
「どらぁぁあああああッ!」
そんなことなど気にも留めていないセントは、次なる標的目掛けて鎚矛をブン回す。
鉄の塊を膝頭に叩き込まれた盗賊の脚が鈍い音を立て、曲がってはいけない方へ折れ曲がった。
「腕力だけならミシェル並みだな」
いや、体格で勝ってる分、素の腕力ではミシェルよりセントの方が上かもしれない。
頭といわず胴といわず、セントは当たるに任せて鎚矛を豪快に振り回し、一人また一人と確実に戦闘不能へ追い込んでいく。
凄い暴れっぷりだ。
ここまで我慢を重ねて溜まっていた鬱憤が爆発したのかもしれない。
そうでなくともセントにとっては弔い合戦の意味もあるのだ。
嫌でも気合が入るに決まっている。
この調子ならなんとか凌げるかもしれない。
なんて甘い考えを抱いていると大体碌なことにならない訳で……。
「テメェらオタつくんじゃねぇ!」
団長に一喝され、大騒ぎしていた筈の盗賊共が静まり返った。
同時にトルムとセントの動きも止まった。
いや、お前らまで固まってどうする。
「この煙は毒なんかじゃねぇ! 奴らを見てみろ。本物の毒だったらさっさと逃げ出してる筈だ。ハッタリだ。騙されるんじゃねぇ!」
「余計なことを……!」
この状況でよく気付けたものだ。
団長の声を聞いた盗賊共の瞳から恐怖の色が消え、代わりに怒気と殺気が膨れ上がる。
「こっちの方が数は多いんだッ、押し潰しちまえ!」
「お頭の言う通りだ、テメェら行くぞぉ!」
『おおおおおおおおッ!!』
ついさっきまでのパニック状態が嘘のように奮い立つ盗賊共。
幾らなんでも立ち直るのが早過ぎるぞ。
言葉一つで部下の不安を取り除き、見事に立て直してみせた盗賊団団長。
悔しいがこの男、リーダーとしては中々に優秀なのかもしれない。
それだけの能力がなければ百人規模の組織―――盗賊だけど―――を率いていける筈もないか。
俺達にとっては全く有り難くない事実だが……。
「あのアホみたいな格好も伊達ではなかった、と」
「感心してる場合じゃないよ!」
仰る通り。
前に出ていたセントが下がり、再び三人で背中合わせになる。
彼我の距離がジリジリと詰められていく度、胸の内に焦燥感が募っていく。
トルムもセントも一対一なら絶対に負けはしないだろうが、あれだけの数に一斉に攻撃されては対処の仕様がない。
瞬く間に袋叩きにされて終わりだ。
「俺が突っ込みます。フカミさん達はその間に―――」
「駄目に決まってんだろ、ボケ」
戯けたことを口走ろうとしたセントの肩を強めに小突く。
「このバカタレ。どうせ知恵絞るんなら、もうちょいマシなこと考えろ」
「でもこのままじゃ……!」
「さて、どうしたもんかねぇ」
セントの言いたいことも分かるが、破れかぶれの特攻を仕掛けたところで、この状況を打破出来るとは思えない。
よしんば俺とトルムが囲いを突破出来たとしても、残されたセントが犠牲になるだけだ。
そんな真似をさせられるものか。
「相談は終わったかぁ?」
見ればきっと万人がイラッとするであろう不快な笑みを浮かべている赤毛団長。殴りたい。
「待っててくれるなんて、随分と気が利くじゃねぇの」
「なぁに、今生の別れになるだろうからなぁ。最後くらいは存分に語らせてやろうかと思ってよ」
「なんともお優しいこって。そんじゃあと二時間ばかり語らせてもらってもいいかね?」
「語らせてやりてぇのは山々なんだがよ。生憎と俺ぁ気が利く以上に、せっかちっていう欠点を抱えててなぁ」
「……つまり?」
「待つのも飽きたから殺すわ」
前言撤回。微塵も気が利かない男だった。
盗賊共の包囲網が更に狭まり、トルムとセントが厳しい表情でそれぞれの武器を構える。
このまま諦めるなんて真っ平御免だ。
とことんまで足掻いてやる。
口には出さず、内心で覚悟を決めた俺は、未だ充分な力の戻らない腕を持ち上げ、ナイフを構えた。
そんな俺達の覚悟を嘲笑うかのように―――。
「嘘だろおい……」
―――茂みの中を掻き分けながら、集落へと近付いてくる盗賊共の姿を確認した。
正確な数は不明だが、視界に映るだけでも十数人はいる。
「お? 森ん中走らせてた連中が戻ってきたか。お前らも運がねぇなぁ」
赤毛団長のニヤついた顔が癇に障る。マジでブン殴ってやりたい。
ここに来て敵の増援とは、天はいよいよ俺達を見放したか。
徹底抗戦の決意が揺らいできた……。
「なんか……様子おかしくない?」
「あん?」
増援の盗賊共を見て、怪訝な表情を浮かべるトルム。
いったい何がおかしいと言うのだろうか。
よく目を凝らして見ている内にトルムの疑問の意味が分かった。
集落に向かってくる盗賊共の姿は、皆一様にボロボロだったのだ。
衣服はあちこちが破れ、全身に大小様々な傷を負っており、誰一人として無傷な者はいない。
どんな恐怖体験をしたのか、全員が血の気を失った真っ青な顔を晒しており、汗やら涙やら鼻水やらで顔面が大変なことになっている者も少なくなかった。
その様は増援というより、何かから必死に逃げているようにしか見えない。
ではその何かとは……答えは程なく判明した。
「待てッ、逃げるなぁぁぁ!!」
怒声を張り上げながら茂みを突き破って現れた一人の女性。
長剣片手に赤茶色のポニーテールを振り乱す彼女の正体とは、他でもないウチのミシェルさんだった。
「貴様ら一人残らず……輪切りにしてやるぅぁぁあああッ!!」
悪鬼のような形相でとんでもなく恐ろしいことを口走るミシェル。
そんなことを言われたら誰だって逃げるわ。
お口が悪いですよ、ミシェルさん。
どうやら奴らは増援ではなく、ミシェルに追い立てられた結果として逃げてきただけらしい。
ミシェルに続き、エイルやローグさん達もやってきた。
こちらに気付いたエイルが手を振ってきたので、俺も手を振り返す。
「こ、こりゃいったいどうなってんだ!?」
冒険者に追い回されている部下達の有り様を見て、顔を引き攣らせる赤毛団長。
表情にも口調にも先程までの余裕は既になかった。
「どうと言われても……見ての通り?」
「はぁ? なんだよそれ。ふざけんなクソッ、クソクソクソがッ! いったいなんなんだよぉ!?」
事態の急変に思考が追い付かないのか、平静さを失った赤毛団長が頭を掻き毟りながら、大声で喚き出した。
突然豹変した団長の姿を目の当たりにしたことで、周囲の盗賊共にも動揺が広がっている。
「案外打たれ弱いのな」
「ああッ!?」
血走った目で俺を睨み付けてくる赤毛団長。
「仮にもお前リーダーだろうが。想定外の事態が発生したからって取り乱してんじゃねぇよ。器が知れるぞ」
情緒不安定か。能力はあるのかもしれないけど、メンタルがこれでは駄目だ。
俺の言葉を受けて赤毛団長が悔しげに身を震わせる中、ミシェルに追い付かれた連中がバッタバッタと斬り捨てられていく。
もうあいつ一人でいいのでは?
「いやぁ、それにしてもこのタイミングで助けが来るなんて思わんかったなぁ。ラッキーだなぁ。ツイてるなぁ。やっぱ日頃の行いが良いからかなぁ。おい赤毛」
出来るだけ、見た人がイラッとするようなニヤケ面を意識しつつ、一人で勝手に打ちひしがれている赤毛団長に向かって―――。
「お前らも運がねぇなぁ」
―――奴自身が口にした台詞を、そっくりそのままお返ししてやった。
お読みいただきありがとうございます。




