第18話 盗賊撲滅作戦・開始
前回のお話……真澄くん、土下座
(真 ゜Д゜)申し訳ございません
ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!
街道を外れ、平原をしばらく進むと森が見えてきた。
木々が密集するようにして出来た森への入口。
そこから30メートル程離れた位置に馬車を止める。
するとこちらが止まるのを待っていたのだろう、然して間を置かずに森の中からぞろぞろと人影が現れた。
人数は八人。全員が薄汚れた身なりの男達。
各々の手には武器が握られているものの、刃毀れや錆が目立つものばかりだった。
きっと使ったら使いっぱなしで、碌に手入れなどしてこなかったのだろう。
「よぉギジーロ、今回は随分遅かったじゃねぇか」
森から出て来た者の一人が、馬車の御者席に座る男に向けて声を飛ばす。
森の中から出てきた男達は盗賊の一味だ。
見張りと併せて、仲間が運んでくる物資や情報を受け取るために外縁部に身を潜めていたのだろう。
声を掛けられた男は、目深に被ったマントのフードで顔を隠したまま、声は発さずに頷きだけを返した。
「ったくよぉ。まともに戦えねぇってんで、連絡や買い出しをさせてやってんのに、その仕事すら碌にこなせねぇのかよ? だからオメェはいつまで経っても下っ端のままなんだよ」
御者席の男に嘲りの言葉をぶつける盗賊。
何が面白いのか、それを合図に他の盗賊連中もゲラゲラと笑い声を上げ始めた。
嘲笑の対象とされた本人は特に反応らしい反応を見せることなく、御者席に座ったまま押し黙っていた。
その態度が気に食わなかったのか、別の盗賊が舌打ちをし、足音を立てながら馬車へと近付いてきた。
「おいギジーロ、何無視してやがんだよ、アァッ?」
「……」
「チッ、テメェ下っ端の分際で調子乗ってんじゃねぇぞコラァ!」
意図的に無視をされていると思ったのだろう。
凄まれても尚反応を示さないことに憤慨した盗賊が、男に向けて手を伸ばす。
胸倉でも掴むつもりなのか、それともフードを剥ぎ取るつもりなのか。
今の盗賊は有り体に言って隙だらけだった。
だがそれも仕方のないことかもしれない。
盗賊の行動は何か考えがあってのものではなく、衝動的に行われたものであり、また相手を自分達の仲間―――それも下っ端だと侮っているのだから警戒心など生まれる筈もなかった。
良くも悪くもその盗賊は……否、盗賊共は迂闊だった。
最初から疑うこともなく御者席の人物をギジーロであると決め付けていたのだから。
「おいっ、なんとか―――」
いったい何を言おうとしたのか、盗賊が最後までそれを語ることは許されなかった。
空中に一筋の銀閃が疾った次の瞬間、伸ばされた腕ごと盗賊の首が宙を舞っていたからだ。
それを成した張本人である男の手には、いつの間に抜き放ったのか、一振りの剣が握られていた。
『はっ?』
残り七人となった盗賊が何が起きたのかも理解出来ず、異口同音で間抜け面を晒す中、男は今まさに自らの手で殺めた盗賊の胴体を蹴り倒すと、被っていたフードを取り払った。
「ふぅ、やっぱフードなんて被るもんじゃねぇな。暑くて堪らねぇぜ」
ギジーロに扮して御者を担っていたローグさんが、愛剣の両手剣片手に盗賊共を睥睨する。
睨まれた盗賊共の肩がビクッと跳ねる様を見たローグさんの口元に太い笑みが浮かんだ。
元々の厳つい顔立ちも相俟って、子供が見たら泣き出しそうなくらいには凶悪な笑顔だった。
「―――ッッ、にげ、逃げろぉ!」
蛇に睨まれた蛙よろしく硬直していた盗賊共の誰かが撤退を叫ぶが、樹上から飛来した三本の矢がそれを許さなかった。
鉄製の鏃が喉や眼球などの急所を正確に射抜き、瞬く間に三人の盗賊を絶命させる。
物言わぬ骸となって転がる仲間の姿を目にした盗賊の足が止まると、追い打ちのように木立の合間から投擲された数本の投げナイフが、盗賊共の身体に突き刺さった。
「ギャア!?」
「ぐひぃッ!?」
更にそこへ馬車を飛び出した二人の女剣士―――ミシェルとジュナが身動きの取れない盗賊共に接近し、手にした得物で素早く斬り伏せた。
僅か一分足らずの間に盗賊共は一人残らず命を散らすこととなった。
「これで全員か?」
地面に転がる盗賊の死体を数えたローグさんが呟けば、近くの茂みの中からトルムが、樹上からはエイルが軽やかに飛び降りてきた。
「近くに潜んでる奴はいないっすね」
「盗賊の本隊にはぁ、気付かれてないと思うの~」
二人からの報告を受けたローグさんが頷き、後ろの荷車を振り返る。
「滑り出しとしちゃあ、まぁ上等な方なんじゃねぇか。なぁマスミ」
そうですねぇと返しながら御者席の方に顔を出せば、待機していた他の面々も続々と荷車から降りてきた。
その中には、猫耳と尻尾を備えた獣人娘ニナの姿もある。
「作戦の第一段階は無事成功っと。そんじゃ時間もないし、ちゃっちゃと次に移りましょうか」
パンパンと軽く手を打ち鳴らしながら、今回はスピード勝負ですよぉと告げれば、全員が頷きを返してくれた。
さぁ、行動開始といこうかね。
年若い娘さんに色々とやらかしてしまった翌日、俺達は盗賊団が根城とする森へやって来た。
勿論、目的は盗賊団の壊滅とニナの仲間―――囚われた獣人達の解放。
怯えるニナがまともに会話出来る程度にまで回復するのを待ってから―――この間、俺はずっと土下座の姿勢を維持していた―――話を聞いたところ、やはりニナは好き好んで盗賊に協力していた訳ではないことが判明した。
元々ニナを含めた獣人達は、何年も前からこの森の中に小規模な集落を作って暮らしていたらしい。
僅か百人足らずの本当に小さな集落で、主に野草や果実といった森の恵みを採取したり、食べられる獣や魔物を狩ることで生活を営み、ほとんど森の外へ出ることはなかった。
今年に入ってからは、ニナも男衆に混じって女だてらに狩りを行っていたそうだ。
代わり映えはなくとも平穏な日々。
集落で暮らす獣人達の心はそれだけで満たされていた。
だがそんな穏やかな暮らしも、無法な盗賊共の手によって壊されてしまった。
集落の総人口を上回る大規模な盗賊団による突然の襲撃。
無論、獣人達も黙ってやられた訳ではないが、数で劣る上に住民の半数以上は戦えない子供や老人で、実際の戦力になる者は二十人にも満たなかった。
如何に獣人が強くとも多勢に無勢。
しかも戦えない者達を守りながらとあってはどうしようもあるまい
抵抗むなしく、集落は盗賊団に占拠されてしまった。
生命こそ奪われはしなかったものの、獣人達は奴隷のような生活を強いられ、ニナのように若く戦力となり得る者は盗賊への協力を強要された。
本人がどれだけ望まなくとも、家族や友人を人質に取られている以上、逆らうことも許されず、悪事に加担する日々を送ることとなった。
以上がニナの口から語られた真相である。
「役人に突き出されてもいい。犯罪奴隷にされたって構わない。全部終わったらニナはどうなってもいいから……みんなを、助けて」
声を震わせ、懸命に涙を堪えながらお願いしますと頭を下げるニナ。
幸いなことに、そんな少女の必死な願いを断るような輩は一人も居なかった。
俺達が引き受けた依頼は盗賊の討伐なのだ。
連中が森の中にある獣人族の集落を拠点としているのなら、囚われた住民の救出は依頼遂行のためにも絶対必要となってくる。
「どちらにしろ、避けては通れんからな」
「だなぁ。まぁ盗賊をぶっ潰すついでみたいもんだろ」
ローグさんとジュナが今後のことについて話し合う傍ら、立ち上がったニナが俺の方に近寄ってきた。
「どしたの?」
「……殴ったり蹴ったりして、ごめんなさい」
そう言って、ニナは再び頭を下げた。
手足が微かに震えているのを見るに、まだ俺のことが怖いのだろう。当然だな。
それでも自らの行いに対して謝罪の言葉を述べたのだ。ええ子や。
「謝る必要なんてないよ」
間違いなく俺の方が酷いことしてるからとは告げず、出来るだけ穏やかな声で返す。
ニナに顔を上げさせると、今度は俺が膝を曲げて目線の高さを合わせる。
「悪いけど、ニナちゃんの手も貸してくれ。なんせ集落の場所を知ってるのは君だけだからな。協力して仲間を助けようじゃないの」
よろしくと手を差し出して握手を求めてみる。
ニナは何も言わず、眼前に差し出された手と俺の顔とを何度も見比べるばかりで、一向に応じてくれそうな様子はない。
これは駄目かなぁと諦めかけた時、一度大きく頷いたニナが恐る恐ると、だが確かに俺の手を握り返してくれた。
「分かった、頑張る。あと……ニナでいい」
ホンマにええ子や。
「ああ、お互いに頑張ろう。ニナ」
ちなみにニナが盗賊から受けた仕打ちの数々について話したところ……。
「大変だったな苦労したなよく頑張ったなうわあぁぁぁぁんッッ!!」
と号泣したミシェルが、その有り余る腕力全開でニナを抱き締めたりしたものだから、ニナが窒息し掛けるというトラブルが発生した。
苦労してミシェルからニナを引き剥がしたら、今度はジュナが「盗賊許すまじ」とか言いながら、ギジーロを斬り捨てようとした。目が本気だった。
腐っても鋼鉄級冒険者。止めるのも割りと命懸けである。
あんたそんなキャラじゃなかったろうに。
……閑話休題。
準備を終え、充分な休息を取った後、俺達はすぐに作戦を決行した。
盗賊共はギジーロが捕まった事実をまだ知らない。
奴が使っていた馬車を有効活用した結果、案の定油断して釣られた見張りを労せずに始末することが出来た。
ギジーロ本人は盗賊の一味として、一足先に村役場に突き出しているのでこの場には居ない。
「……俺も随分と変わったもんだ」
「マスミは元々変わっているぞ?」
「ほっとけ」
ミシェルが余計な茶々を入れてきた。失礼な奴め。
人が殺される瞬間を目の当たりにしたというのに、然したる動揺もなく、冷静に事態を受け入れている自分がいる。
幾ら相手が殺されても文句の言えない悪人とはいえ、流石に目の前で人が死んで何も感じないような無感情な人間ではなかった筈なのだが。
むしろ自分は感情豊かな方だと思っていた。
それだけ精神的にタフになったということなのか、それとも単に慣れてしまっただけなのか。
……考えたところで仕方ない。
ショックを受けて思い悩むよりはマシだと前向きに解釈しておこう。
頭を振って余計な思考を追い出し、改めて周囲に目を向ける。
「暗いなぁ」
俺達は現在、ニナに先導してもらう形で森の中を移動している。
鬱蒼と茂る木々の葉が日光を遮り、昼間とは思えない程に暗く、視界も悪い。
森に慣れているニナがいてくれてよかった。
「エルフだってぇ、森には慣れてるも~ん。むしろぉ、森とお友達だも~ん」
エイルは何に対抗意識を燃やしているのだろう。
あとお前の場合はハーフエルフだろうが。
「そろそろかね」
今は固まって移動しているが、これから俺達は二手に分かれて行動する。
作戦は至ってシンプル。一方の班が囮となって敵の注意を引き付けつつ、各個撃破で戦力を削る。
もう一方の班が手薄となった集落に侵入し、囚われた獣人達を救出する。
囮となるA班のメンバーはミシェル、エイル、ローグさん、ディーンさん、ヴィオネ、ジュナ、ミランダ、ドナート。
獣人達の救出を担当するB班のメンバーは俺、ニナ、ローリエ、トルム、セント。
「派手に暴れて下さいよ」
「おう、そっちも頼んだぞ」
俺とローグさんは互いの無事と健闘を祈る意味を込めて、コツンと軽く拳を合わせた。
それからすぐにA班のメンバーが、ニナの先導とは別方向に移動する。
ちなみに別れ際、ミシェルとエイルが俺のお守りをローリエに頼んでいた。
「ローリエ、マスミを頼んだぞ」
「無茶だけはぁ、させないで~」
「任せて下さい。絶対にマスミさんから目を離しません」
何故そんなことを態々頼むのか。
そして何故当たり前のように請け負うのか。
納得のいく説明を求める。
「愛されてんねぇ、マスミくん」
「喧しい」
ニヤニヤと笑うトルムを張り倒してやりたい衝動に駆られるも、作戦行動中なので我慢する。
あとで覚えておけよ、この野郎。
「わたしはマスミさんのこと大好きですよ?」
「……」
俺の肩に手を置き、突然そんなことをのたまうローリエ。
フォローのつもりなのか、ギャグなのか、はたまた本気で言っているのか。
判断に困るコメントは差し控えていただきたい。
きっと今の俺の顔は、なんとも名状し難いものなっていることだろう。
そして大人達のやり取りを不思議そうに、でもしっかりとガン見している年少組。こっち見るな。
そんな微妙に締まりのない空気が漂う中、俺達B班は獣人達の集落を目指し、森の奥へと進んでいくのだった。
お読みいただきありがとうございます。




