第17話 後の祭りな話 ~やっぱり彼はやらかした~
前回のお話……真澄くん暴走
(真 ゜Д゜)フハハハッ
(ニ ゜Д゜)にゃあぁぁぁん
「この度は多大なご迷惑をお掛けしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
「いや、俺らに謝られても……なぁ?」
「んっ、む」
厩舎の床に両手両膝をついて平身低頭する俺―――所謂、土下座である。
深々と頭を下げてくる俺をどう扱っていいものか分からず、互いの顔を見合わせるローグさんとディーンさん。
状況について行けないトルムとセントは、怪訝そうな面持ちで俺達を見ていた。
少し離れた所にはジュナ達が並んで立っており、それぞれ「下衆が」と冷たい声で蔑み、「あらあら」と面白そうにこちらを眺め、「えっと……」と困ったように頬を掻いている。
どれが誰の反応かはご想像にお任せする。
そして背中の方から感じる人の気配。
少しだけ頭を上げ、首だけで後ろを振り返れば―――。
『ひぃッ』
―――まるで引き攣るような短い悲鳴を上げるミシェル、ローリエ、エイル、ヴィオネ、そしてニナ。
一番小柄なニナを中心に互いの肩を抱き合い、支え合うようにしながら一塊となってはいるものの、腰が抜けてしまったのか、全員壁際でへたり込んでいる。
その表情は一様に恐怖で強張り、小刻みに全身を震えさせていた。
ニナに至っては歯の根が全く噛み合っておらず、上下の歯がガチガチと大合唱を繰り返している。
俺に注がれる五対の瞳。その全ては絶望に彩られていた。
きっと今の彼女達には、俺が人間ではなく恐怖の大魔王か何かに見えていることだろう。
「……あのさ」
『ひぃぃッッ』
もうヤダ、ずっとこんな調子なんだもの。
まともな会話になりゃしない。
そこには最早、強大な魔物相手でも勇敢に戦う女冒険者の姿も、その冒険者すら圧倒する強者の姿もなく、只々恐怖に支配されただけの憐れな女達の姿しかなかった。
「どうしてこうなった」
『自業自得であろうに』
呆れたニースからツッコミを受けるも、事実なので何も言い返すことが出来ない。
本当にどうしてこんなことになってしまったのか。
食事休憩を終えたローグさん達が戻ってきた時、厩舎の中は阿鼻叫喚という言葉がよく似合う、それはそれは酷い有り様であったらしい。
「マ、マスミ。お前……いったい何してんだ?」
「フハハハハッ…………ハッ!?」
正気を取り戻した。
明らかにドン引きしているローグさんとディーンさん。
ようやく起きてきたトルムとセントは、ボーっとした表情で眠たげに目を擦っている。
ドナートは痛ましそうに目を瞑り、ミランダは感情の読めない薄い笑みを浮かべ、ジュナは瞳の温度を氷点下にまで下げていた。
「俺は今まで何を……」
「頭大丈夫かってくらい凄ぇ高笑いしてたぞ。後ろ見てみな」
ローグさんに言われるがまま振り返った先では……。
「ひっく、えっぁぁ、ゔえぇぇん!」
「ぅぅっ、うぁぐぅ、うぁぁわぁぅぅぅん!」
「駄目なのイケナイのこんなこと許されないの悔しいでも感じちゃう」
「あれはただの、尋問、情報を引き出す、ための手段であって、決して拷問、とかの類いでは、ない。ましてや……エッチ、なことなんかじゃ、ない。ないったら、ない」
ミシェルとローリエは互いを抱き締め合いながら号泣。
エイルは虚ろな瞳で意味不明なことをうわ言のように呟いているのだが、何故か時折自慢の爆乳を掻き抱いては、悩まし気な声を漏らしていた。
その脇では鬼気迫る表情を浮かべたヴィオネが出血することもお構いなしに、厩舎の柱へ己が額を何度も打ち付けており、一発毎に自分自身に対して何かを言い聞かせている様は狂気すら感じた。
そしてニナは……。
「いったい何が起きたんだ?」
「俺らが聞きてぇよ」
果たして意識があるのかないのか。
半ば白目を向いたニナは、過呼吸気味に浅い呼吸を繰り返していた。
半開きとなった口の端からは透明な涎が一筋、顎の先にまで伝っている。
どれ程大量の汗をかいたのか、身に付けた衣服は少女の華奢な肢体にぴったりと張り付き、襟元から覗く肌は薄桃色に染まっていた。
力なく垂れた猫耳と尻尾。痙攣した手足。そして周囲に漂う濃密な雌の匂い。はっきり言ってエロい。
もうヤることヤった後にしか思えない。それも飛びっきりハードなヤツを……。
とてもではないが、今のニナの姿はお茶の間にお披露目出来るようなものではない。
俺が親なら確実に泣くぞ。
「だ、誰がこんなことを……」
『自分の胸に手を当てて考えてみよ』
ニースの言葉に従い、自分の胸に手を当てて考え……ってちょっと待て。
まさかと思って胸元に目を向けるも、ニースがポケットから顔を出すことはなかった。
「俺が……ヤったのか?」
『我の口からは何も言えぬ』
明確な回答を避けるニースだったが、その発言自体もう俺がヤったと言っているようなものである。
冷たい汗が背中を濡らす。
えーっと、確かニナの口を割らせるためにマタタビを取り出して、その匂いを嗅がせた。
しばらく嗅がせている内に効果が出てきたのか、ニナの呼吸が徐々に荒くなってきて……。
「それから……えっと、あれ?」
そこから先が全く思い出せない。
先程ローグさんに声を掛けられるまでの間の記憶がすっぽりと抜け落ちている。
未だかつて感じたことがない程の焦燥感に駆られると同時に発汗量が急激に増していく。ヤバい。
もう一度、ニナの方に目を向ける。
大分乱れてはいるものの、一応服を着ているので、最後の一線だけは越えていない……筈。
せめてもの救いは、荷車の奥に転がっているギジーロの顔面に猿轡の他にも目隠しと耳栓が追加されていることだろうか。
少女のあられもない姿を晒さないための処置だろう。
どうやらその程度の理性は残っていたらしい。
『いや、あれをやったのはマスミではないぞ。他の娘達が協力して処置したものじゃ。当て身を食らわせて気絶させる徹底ぶりでの』
どうやらその程度の理性も残っていなかったらしい。
本当に何があったんだ。俺はいったい何をやらかしたんだ。
そして思い出そうとする度に得も言われぬ充足感を覚えるのは何故だろう。
「あー、マスミよぉ、聞こえてるか?」
ローグさんに肩を叩かれて我に帰る。
自分でも気付かぬ内にしゃがみ込んでいたのか、顔を上げるとローグさんとディーンさんが俺のことを気の毒そうに見下ろしていた。そんな目で見ないでくれ。
更にジュナとミランダがニナ達を介抱してくれていたようで、五人ともある程度の落ち着きを取り戻していた。
俺に対する過剰なまでの怯えを除いて……。
「どうやら何を仕出かすか分からんのは、そこの少年ではなく貴様の方だったようだな」
「マスミ、やっぱやらかしたな」
蔑むようなジュナの声と疲れたようなローグさんの声を耳にした俺は、謎の部分的な記憶喪失という問題を一先ず放り出し、その場で土下座を敢行するのだった。
―――ここでようやく冒頭に戻る。
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