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迷える異界の異邦人(エトランジェ) ~ アラサー警備員、異世界に立つ ~  作者: 新ナンブ
第4章 アラサー警備員、ケモナーに目覚める?
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第16話 魅惑の香り、その名はマタタビラクトン

前回のお話……醜い女の戦い?

(真 ゜Д゜)メシウマ

(ミ ゜Д゜)やんのかゴラァ!?

(ロ ゜Д゜)やってやんぞゴラァ!?

「お疲れ様です」


「ん? なんだマスミ、もう起きたのか」


「なんか目が冴えちゃいまして。トルムとセントはまだ寝てますけど」


 宿で食事を終えた俺達は、ローグさん達が待つ厩舎の方へと移動した。

 果たして俺が眠っている間にギジーロとニナから、何かしら有益な情報を得ることは出来たのか否か。

 余談だが、ミシェルとローリエの力比べについては決着が付かなかった。

 前半は体格面で勝るミシェルが優勢だったのだが、後半になるとローリエが凄まじい粘り強さを発揮した。

 その甲斐もあり、大量のコクの実を食べ切る頃には、戦況はほぼ互角と呼べるまでに盛り返されていた。

 このまま見学を続けても時間の無駄だし、何より二人とも絶対に乙女がしてはいけないようなヤバい形相になっていたので、タイムアップを告げて強制終了させた。

 全力を尽くした所為か、未だに二人とも息が荒い。


「成果はありました?」


「まぁ、な」


 なんだか歯切れが悪いな。

 ギジーロとニナが使っていた馬車の荷台には、縛られたままの二人が転がされている。

 ニナの方に変わった様子は見られない反面、ギジーロの方は顔面をパンパンに腫らして憔悴し切っていた。

 おそらく尋問のために多少手荒な真似をしたのだろう。

 元々デカかった顔が更にワンサイズデカくなっている。

 そうでなくともこの男はギャアギャアと喧しいので、尋問とは関係無しに殴りたくなるのだ。


「気持ちは分かります」


「お前何のこと言ってんだ?」


 ポンとローグさんの肩に手を置いたら、何故か怪訝そうな顔をされた。

 思わずど突き回したくなるような顔をしているって話では?

 何故か諦めたように息を吐き、「マスミだしな……」と呟くローグさん。解せぬ。


「概ねマスミの予想通りだったんがよぉ……」


 俺の予想―――行商人を装ったギジーロ達が盗賊に襲われているように見えたのは、俺達のような冒険者を油断させるための作戦であり、知り得た情報を仲間へ伝えて罠に嵌めるつもりだった。

 昨夜の内に仲間の元へ向かうつもりが、俺達の妨害によって失敗。

 セント達の時は、ギジーロとは別の盗賊一味が村に潜り込んでおり、酒場で酔客を装いながらセント達に近付き、聞き出した行き先を仲間に伝えることで待ち伏せを成功させたと。


「他の仲間は居なかったんですか?」


「ああ。アジトへ報告しに行くついでに交代する予定だったらしくてな。今のところはこの二人だけだそうだぜ」


「それはツイてましたね」


 もしもギジーロとニナが捕縛されたという情報が伝わってしまった場合、間違いなく面倒な事態になっていた筈だ。

 少なくとも警戒は強めるだろうし、最悪仲間を取り返そうと躍起になる可能性すらある。

 果たして盗賊連中に仲間を助けようという気概があるのかは微妙なところだが。

 折角のアドバンテージを無駄にするのは勿体無い。

 可能な限り情報を引き出して事を優位に進めたいものだ。


「あと盗賊共の規模は百人を下らねぇとよ」


「結構いますね。他には?」


「それだけだ」


「……はい?」


ギジーロ(こいつ)から聞き出せたのはその程度だってことだよ。どうも冗談じゃなくて、マジでそれ以上のことは知らねぇみてぇなんだわ」


 それこそマジっすか?

 仮にも盗賊の一味なんだから、せめてアジトの居場所くらいは……。


「知らねぇとさ」


「なんてこった」


 折角のアドバンテージが無駄になった。

 聞けばこのギジーロという男、盗賊団の中でも相当な下っ端なのだとか。

 まともに戦えるだけの腕っ節も、何か役に立つような技能も持ち合わせていないため、このような連絡要員―――(てい)のいい使いっ走りをさせられているらしい。

 連絡要員って大切だと俺は思うよ?


「それにしたって自分のアジトも分からないなんて」


「正確には知っちゃいるが、森の深い場所にあるから案内が出来ねぇんだとよ。いつもそこの嬢ちゃん……ニナに道案内させてたそうだぜ」


「この子に?」


 すっかり大人しくなってしまったギジーロの隣には、変わらず縛られたままのニナが転がされているのだが、先程から身動ぎ一つしていない。

 無言のままボンヤリと厩舎の壁を眺めるその瞳からは一切の感情が窺えないため、何も知らなければ精巧な人形と勘違いしていたかもしれない。


「この男が知らねぇってんなら、あとはその嬢ちゃんに訊くしかねぇんだけどよぉ」


「ずっとだんまりって訳ですか」


「そういうことだ」


 気が進まなねぇなぁと言いながら、ローグさんは少々苛立たし気に自分の頭を掻き出した。

 その言葉と態度にローグさんの意図を察したのだろう。

 ジュナとミランダを除いた女性陣の眉が(ひそ)められる。


「ローグ殿、如何に情報を得るためとはいえ、そのような幼い娘にまで手を上げるというのは……」


「女の子ですから、乱暴なことは止めてあげて下さい」


「暴力はんた〜い」


「……ローグ」


 決して責めている訳ではないのだが、乱暴はしないでほしいと口々に訴える女性陣。

 然しものローグさんもこれにはどうすればいいか分からず、弱々しく表情を歪めるばかりだった。

 厳つい顔立ちがちょっと情けなく見える。


「んなこと俺だってしたくねぇけどよ。だったらどうしろってんだ? 誰か他に情報を吐かせる方法があるってんなら、そいつに任せるけどよ」


「それは……」


 今度は女性陣が黙り込む番だった。

 情報を吐かせる方法ねぇ。


「ローリエさんやローリエさん」


「マスミさん?」


 久し振りにローリエ先生の知識を借りるとしよう。


「獣の特徴を持つのが獣人っていうけどさ。獣っても色々いるじゃない? それだけ種類っていうか種族も複数あるんかね?」


「そうですね。犬や狼や狐や猫。獣人は人の中でも特に多くの種族が存在します。彼女の場合は、猫の特徴を備えた猫系獣人種(フェーリス)という獣人種に該当します。一口に猫系獣人種(フェーリス)と言っても、その種類は多岐に渡りますけど」


「ほほう、猫系獣人種(フェーリス)ねぇ。耳と尻尾以外にも、やっぱりどっかしら猫っぽい特徴とかあるんかね?」


「それはまぁ、少なからず猫と同じような性質や似ているところはあると思いますけど」


「オッケー、ありがと」


「あのマスミさん、いったい何を……?」


 不安そうにしているローリエの質問には答えず、ローグさんに向き直る。


「取り敢えずローグさん達は一旦休憩して、遅めの朝食でも食べてて下さいよ。その間は俺達で見張っときますんで」


「マスミ、お前……またなんかやる気か?」


 早朝から見張り続けてさぞお疲れであろうと思っての提案なのに、何故か疑わしそうな目を向けられた。解せぬ。

 あとまたってなんだ、またって。俺がしょっちゅう何かやらかしているみたいな言い方は控えていただきたい。


「実際やってるじゃねぇか」


「こんなに先輩思いな後輩のことをそんな風に言うなんて酷い。あんまりだ……!」


「……さっさと話を進めろ」


 よよよと泣き真似をしてみたら、物凄く冷たい声でジュナから催促された。

 めっちゃ怖いんですけど。


「ゲフンゲフン……休憩してる間、俺の方でも少し話してみますよ」


「何か手があんのか?」


「さてどうでしょうねぇ」


 なんかこの子、訳アリっぽいんだよな。

 理由は不明だけど、望んで盗賊に協力しているようにも見えないし。


「期待せずに待ってて下さいな」


「期待させないのか……」


 頼りないぞと呆れて溜め息を吐くミシェルとは対照的にローグさんは「マスミがそう言うんなら任せてみるか」とあっさり了承してくれた。

 ディーンさんまでもが自信あり気に頷いている。

 自分で言っておいてなんだが、そんなにあっさり認めていいのか?


「んじゃ俺らメシ食ってくるから、あと任せるわ」


 なんて思ってる内にジュナ達を促し、さっさと宿へと行ってしまうローグさんとディーンさん。

 一言物申しそうなジュナでさえ、何故か今回に限っては何も言わずに行ってしまった。残される俺達。


「信頼が……重い」


「何故素直に喜べんのだ」


 素直じゃないもので。


「マスミくぅん、どうするつもり~?」


「相互理解のためには、まず何よりも会話が重要だと俺は考える」


 という訳で荷台に上がり込んだ俺は、そのままニナの前に胡坐をかいて座った。

 ニナは相変わらず身動ぎ一つしないどころか、目を合わせようともしなかった。


「昨夜は全然会話にならなかったね。改めまして冒険者のマスミ=フカミです。よろしくね、ニナちゃん」


「……」


「眠くないかい? 縛られっぱなしで痛いかもしれないけど、こればかりは我慢してくれ」


「……」


「首絞めて悪かったねぇ。まあ君も俺のこと思いっ切り蹴ってるから、おあいこってことで」


「……」


 反応はない。聞こえていない筈がないので、意図的に無視しているのだろう。

 その後も他愛のない会話を試みたものの、彼女が応答してくれることはなかった。

 概ね予想通り。そろそろ頃合いかな。


「……なぁニナちゃん、昨夜俺に謝ったよね? ごめんなさいって」


 反応は……あった。

 相変わらず返事はないものの、彼女の臀部から生えた猫の尻尾が、ピクッと微かに反応を見せた。


「昨日の戦いもさ、多分手加減してたよね? 君なら俺とトルムを二人纏めて倒せたんじゃないかな」


 今度は頭部の猫耳が反応した。

 どうやらこの耳と尻尾、感情を隠すのが苦手らしい。


「俺にはさ、君が好き好んで協力してるとはどうにも思えんのよ。悪いようにはしないから、なんとか教えてくれないかな?」


「……」


 口を閉ざし、頑なに会話を拒絶するニナ。

 何がこの少女をそうさせるのか。

 簡単に口を割るとは最初から想っていなかったけど、これは骨が折れそうだ。


「一筋縄では行かない、と。出来れば使いたくなかったけど、しょうがないな」


 俺はズボンのポケットに手を突っ込み、ある物を取り出した。

 事前に空間収納内から出しておいたそれは、一見すると細い枝のようにしか見えず、そんな物でいったい何をするつもりなのかと皆が首を傾げていた。


「悪く思わんでくれよ」


 俺は取り出した枝をニナの鼻先へと持っていき、その匂いを嗅がせた。

 そうして嗅がせ続けて十分もすれば……。


「はっ……はぁ、はぁ……くっ、ぅ、ぅぅ……!」


「くはははっ、そろそろ話す気になったかなぁ?」


「はぅ、ひぅっ……ぅあぅぅん」


「おいおい、それじゃ何言ってんのか分からんぜぇ?」


 今、俺の目の前では一人の少女が痴態を晒していた。

 その少女とは誰であろう、ニナに他ならない。

 必死に唇を噛み締めてはいるものの、抑え切れなかった声が何度も漏れている。

 少し前まで会話を拒絶していた少女と同一人物とは思えない程の変貌だった。


「マ、マスミ、お前はいったい何を……?」


 何故か慄くように全身をブルブルと震わせたミシェルから質問が飛んできた。

 如何にも恐る恐るといった様子である。

 他のみんなも表情を青ざめさせているけど、はて何をそんなに怖がっているのだろう?


「こいつを嗅がせただけだよ」


 そう言って俺は手に持っていた枝―――マタタビの木を女性陣に見せた。

 マタタビ―――マタタビ科マタタビ属の落葉蔓性木本。別名は夏梅。

 個体差はあるものの、ネコ科の動物を陶酔させる複数の臭気物質の総称マタタビラクトンを発する。

 マタタビを嗅いだ後の猫が興奮したり、酔っ払ったようになるのはこの物質の原因だ。

 猫と同じか、あるいは似たような性質を持っているなら効くのではないかと思って試してみたのだが、その効果は劇的だった。

 頬は赤く上気し、額や首筋には玉のような汗が浮いている。

 両の瞳は濡れたようにとろんとしており、焦点が微妙に定まっていない。

 小振りなお尻を左右に振りながら、頻りに内股を擦り合わせいる。

 今のニナの姿は、発情した猫そのものだった。


「ここまで効果があるとは……」


 判断力が鈍れば口も滑り易くなるのではなかろうかと思って試してみたのだが、これは完全に予想外だ。

 十代前半であろう幼い少女の猥らな姿は犯罪臭と背徳感が半端ない。

 というか絵面だけを見た場合、問答無用で俺は性犯罪者のレッテルを貼られてしまうだろう。

 これはマズい。具体的に何とは言わんが色々とマズい。

 マズいと分かってはいるのだが……。


「っっ、いっ、ぃう……ッ」


「ん~?」


「いぅッ、ぅぅぅ……言うか、らぁ……もっ、こ、これぇ……やめッッ」


「おお、喋ってくれる気になったかぁ。それはよかった」


 ニナの口から安堵したような息が漏れる。

 ついでに後ろの女性陣もホッと息を吐く。


「でもなぁ、ニナちゃんは素直じゃないからなぁ。もうちょいこのままでいてもらおっかなぁ」


「そッ……そん、なぁ、ぅぁ……!?」


 予想を裏切る判断に息を呑むニナと女性陣だったが、俺は見逃さなかった。

 恐怖で見開かれた瞳の奧で僅かに、ほんの僅かに期待するような色が見えたことを。


「おいおいなんだよ、その期待するような目は? 嫌だ嫌だって言ってたのは口だけかぁ、この欲しがりさんめ。しょうがねぇなぁ。だったらもう一本追加してやるよ」


「ひっ、やめっ、止めてぇ……ぅぅあ、も、おねが、いだかぁっ……やめぇ、に……にぃやあああぁぁぁっぁぁ―――!?」


「ははははっ、本当の猫みたいな鳴き声だなぁ、ニナちゃんよぉ」


 どうしよう、止められない。

 むしろどんどん楽しくなってきた。

 人としてこれは本当に駄目だろうと理性が訴えているものの、その訴えを本能が力尽くで捻じ伏せ、もっとやれもっとやれと叫んでいる。

 胸の内を満たす高揚感。

 これまで感じたことがない程の圧倒的な全能感。


「そうか俺は…………神だったのか」


「マスミッ、止めてくれ! もう見ていられない! お願いだから帰ってきてくれええぇぇエエェェッッ!!」


「マスミさんッ、これもう本当に駄目なヤツですよぉ! 犯罪なのかどうかすらもう分からなくなってきちゃいましたからあああああッッ!?」


「マスミくんッ、流石にこれはドゲス過ぎるの! 見ているこっちまで変な気持ちになっちゃうからッ!? とにかく止めるのをぉぉぉッッ!!」


「マスミ……恐ろしい、子」


 何故か知らんが、狂ったように泣き叫びながら俺を止めようとする女性陣。

 そんな彼女達に構うことなく俺は内なる声―――己が本能の赴くままにマタタビを与え続けるのだった。

 そして何故、俺はマタタビなどを常備しているのか。

 ……猫好きなんです。

お読みいただきありがとうございます。

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