第9話 仲直りのコツは人任せ
前回のお話……出発前から揉める真澄くん
(真 ゜Д゜)あっ?
(ジ ゜Д゜)おっ?
馬車に揺られながら、のんびりと街道を進んでいる途中……。
「マスミ、いったいどうするつもりだ?」
唐突にミシェルからそんな質問が飛んできた。
毎度お馴染み、荷車に雨避けの幌を取り付けただけのボロ馬車よりお送りします。
この馬車の揺れにも大分慣れてきた。
「どうするって、何を?」
曖昧な質問をされても困る。
ちゃんと主語を付けなさい、主語を。
「ジュナ殿のことに決まっているだろう。出発前から揉め事を起こしてどうする」
「揉め事ねぇ」
ミシェルが言う程揉めてはいないと思うけど。
少なくとも俺はジュナと揉めているつもりなどない。
ただ一方的に無視というか相手にされていないだけだ。
「マスミさん、それ充分に揉めてますから」
「そんな馬鹿な」
ローリエから呆れ混じりのツッコミが入った。
「マスミくんがぁ、考えてることをぉ、正直に話せばぁ、解決すると思うの~」
「何を、隠してるの?」
察しの良い二人―――エイルとヴィオネが正直に全部話してしまえとやんわり勧めてくる。
「隠すも何も……」
セントとその仲間達が討伐に向かった際、盗賊に待ち伏せを食らい、セント一人を残してパーティは全滅した。
まるで始めからセント達の作戦を知っていたかのような盗賊共の待ち伏せに、何処からか情報が漏れたのではないかと考えた。
では何処から漏れたのかというと……さっぱり分からない。
そもそも情報漏洩云々とて俺の推測に過ぎない訳で、その推測をするための情報すら足りていないのが現状なのである。
ローグさんにも既に話している通り、今の時点では何の確証もない話なのだ。
共有しておきたいとは思うものの、果たしてこんな曖昧な情報を伝えていいものかどうか。
何より酔っ払いが口にしていたことだからなぁ。
「まぁ、もうちょっと確信が持てたらね」
やはり今のまま伝えるには情報が不足している。
そう判断した俺は悪いとは思いつつも、こんな風に誤魔化すことしか出来なかった。
「ふむ、そうか。マスミがそう言うのなら深くは聞かん。気長に待つとしよう」
……おや?
「マスミさんがわたし達の不都合になるようなことを考える筈がありませんからね」
……あれ?
「あんまり態度に出さないだけでぇ、マスミくんが本当はぁ、とっても仲間思いなことはぁ、みんな知ってるの~」
…………なんと。
知らず渋面となっていた俺のことなどお構いなしに、顔を見合わせながら仲良く「ねーっ」と声を揃えて笑う我がパーティの女性陣。仲良いな。
「仲良い、ね」
その光景を何処か羨ましそうに眺めるヴィオネ。
これを羨ましがられてもなぁ。
「なんだ、照れているのか?」
「照れてません」
ちょっと顔面が熱いだけです。
だからこっち見んな。ニヤニヤすんな。
『何だかんだ言っても信頼されておるではないか』
うるさいよと声には出さず、指先で胸ポケットを突っつく。
「いやぁ、それにしてもマスミくんとジュナの姐さんが睨み合い始めた時はヒヤヒヤしたよ。よく平気だったね」
御者を担当しているトルムからそんな声が届いた。
今回は人数が多いので、二台の馬車をレンタルしている。
こちらの馬車に乗っているのは俺達のパーティに加えてヴィオネ、トルム、セントの七人。
周りが先輩ばかりで萎縮してしまったのか、セントはほとんど会話に参加することなく、俺の後ろで小さくなっている。デカいけど。
振り分けたのは意外にもディーンさん。
移動中に少しでも俺のことをフォローしておくとのこと。良い人だ。
相変わらず「んっ」しか言ってなかったけど、ローグさんが通訳してくれた。
「俺は睨んでないけどね。あと全然平気じゃない。めっちゃ怖かったから」
背中に冷や汗をかく程度には。
「いやいや、鋼鉄級冒険者に睨み付けられても、あんな口利けるんだから大したもんだよ」
俺なら無理だねぇと言って一人で笑うトルム。
何か面白いところあったか?
「あれじゃね。割りと日常的に鋼鉄級の人にイジられてるから、知らぬ間に耐性が付いたとか?」
「それって誰のことかな~?」
さて誰のことでしょう。
本当に今更なのだが、実はエイルの階級はローグさん達と同じ鋼鉄級なのだ。
いや、エイルが実力者だというのは勿論承知しているのだが、何分普段の姿が緩過ぎる所為で、あまり上位階級らしく見えないのだ。ぶっちゃけ威厳もない。
以前この事実をエイルに告げてみたところ、いつもの調子でひど~いとか言われた。
怒っているのか悲しんでいるのかさっぱり分からん。
しかし、八十四年も生きているのなら、もっと階級が上でも―――。
「マ~ス~ミ~く~ん~?」
―――なんでもありません。
「も~、わたしが冒険者になったのはぁ、ここ数年のことだって言ったでしょ~」
「さいですか」
分かったから笑顔でプレッシャーを与えるのは止めていただきたい。
そしてその手に握られた一本の矢はいったいなんなのか。
何処に刺すつもりだ?
誰に刺すつもりだ?
先程の俺を信頼している発言はなんだったのか。
「イチャイチャするな」
「イチャイチャしないで下さい」
「これをイチャイチャと言ってしまえる君達の神経が恐ろしい」
速やかに病院に行け。
指だけでくるりと器用に回した矢を、エイルは矢筒の中へと納めた。
何故ちょっと残念そうにしているのかを問い詰めたい。
ミシェルとローリエがそれぞれ片方ずつエイルの腕を掴み、そのまま端の方へと引き摺っていった。
「本当に、仲良い、ね」
何やら三人でブツブツやっている女性陣。
というかミシェルとローリエが二人掛かりでエイルに何かを言い聞かせている?
その光景を見ながらヴィオネはポツリと呟いた。
だからこんなものを羨むんじゃありません。
今更ながらローグさん達のパーティで、女性はヴィオネ一人だけだったことを思い出した。
ウチとは真逆である。
「もしかしてパーティで女一人だけってのは、結構肩身が狭かったりする?」
「そんなことはない、けど、時々こうして、女の子と話したく、なる」
「ふむ、そんなもんかね?」
「そんなもん、だね」
まぁ、如何に仲間同士とはいえ、異性相手では話し辛いこともあろう。
冒険者の正確な男女比は知らないけど、やはり男の方が数は多い。
女性冒険者も大変だ。
「おいトルム、もっと気を遣ってやらなきゃ駄目だろ。だからお前はトルムなんだ」
「えっ、俺? ていうか何の話? なんでいきなり貶されてんの?」
運転に集中して、話が聞こえていなかったらしいトルムを軽くディスっておく。
特に理由はないが、全部トルムが悪いということにしておこう。
「それでマスミよ、ジュナ殿のことはどうするつもりだ?」
三人での話し合いに一応の決着がついたのか、最初の質問と同じように唐突に話題を変えてくるミシェル。
「一緒に依頼を受けていますから、流石に妨害をされたりする心配はないと思いますけど、これではいざという時の連携も儘なりませんよ?」
「……だろうねぇ」
あのジュナの気性から見て、依頼遂行の妨げになるような真似をするとは考え難い。
失敗したら自分達の評判にまで影響するのだから当然だけど、事が起きた時に足並みを揃えられないというのは問題だ。
その気がなくともお互いの足を引っ張ることになり兼ねない。
「悩んでたって始まらんさ。一先ずローグさんとディーンさんに任せようじゃないの」
「そんな人任せで大丈夫なのか?」
「んー、今の俺がジュナと何か話したところで、逆効果にしかならんと思うけどなぁ」
会話が出来れば、まだ良い方か。
追い返される光景しか思い浮かばん。
「まぁ、なるようにしかならんさ」
ミシェル達もそれ以上、ジュナのことを話題に上げることはなかった。
緊張感が有るのか無いのか、微妙な空気の中、二台の馬車は南東の方向へひたすら街道を進む。
そして一度の野営を挟んだ翌日の昼過ぎ―――。
「なんだあれ?」
―――街道上でそれを目にすることになった。
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