第8話 物は言い様、口八丁
前回のお話……酒場でやらかす(出禁一件目)
(店 ゜Д゜)出禁
(真 ゜Д゜)ごめんなさい
(セ ゜Д゜)zzz
「皆さん準備はよろしいですね。忘れ物はありませんか? オヤツはちゃんと持ちましたね? それではこれより出発したいと思います」
「は~い」
『……』
「力を合わせて盗賊共を懲らしめてやりましょう。それではみなさんご一緒にぃ……エイ・エイ・オー」
「お~」
『……』
エイル以外誰もノッてくれなかった。
天に向けて突き上げられた我が拳のなんと虚しいことよ。
場所はネーテの街を囲む外壁の南門付近。
例の合同依頼―――盗賊討伐のために集まり、もうすぐ出発しようとしていたところなのだが……。
「あー、マスミよぉ、ちょっといいか?」
「はいはいどうぞ」
微妙な空気が流れる中、戸惑いながらも声を上げるローグさん。
無視されていなかった。嬉しい。
なんでも聞いて下さいな。
「……なんでその坊主が此処に居るんだ?」
ローグさんが俺の隣に立つ人物を指差しながら、疑問を口にした。
この場に集まった冒険者は十二人。
俺、ミシェル、ローリエ、エイルのパーティとローグさん達とジュナ達の先輩パーティ二組。これで計十一人。
残りの一人は誰なのかというと……まぁ、ぶっちゃけセント少年な訳ですが。
「お、おはようございます。あの、この前はすんませんでした」
「いや、それは別にいいんだけどよ」
謝罪の言葉と共に頭を下げてくるセントに対してどう接すればいいか分からず、困り顔のまま頭を掻くローグさん。
エイル以外のメンバーもそれは同様で、困惑気味に俺とセントを見るその目は、今の状況に対する説明を求めていた。
「なぁ、俺ぁ坊主の同行を断った筈だよな?」
「はい、まぁそうなんすけど……」
お互い自信無さ気に、同行拒否の事実を確認し合うローグさんとセント。
そして同時にこちらを振り向く二人。息ピッタリですな。
「説明しましょう」
何故この場にセントがいるのか、それは……。
「ってちょっと待て、お前には説明しただろうが」
「あー、すんません。酔ってた所為か、よく覚えてないんすよね」
「ふざけんなよ、この酔っ払い小僧」
貴様は二度と酒を呑むな。
軽く咳払いをしつつ、気を取り直して説明をする。
「ゲフンゲフン。えーっと、なんでセントがこの場に居るのかって話でしたよね」
「ああ。マスミも知っての通り、今回の依頼は鉄級以上であることが参加条件に含まれてる。まだ銅級の坊主じゃ参加することは出来ねぇ」
「勿論覚えておりますとも」
「だったらなんで連れてきた。勝手に討伐に参加させたら、坊主だけじゃなくて、俺達までギルドから処分を食らう羽目になるんだぞ」
依頼票に明記されていた条件を破った際に科せられるであろうペナルティについて、ローグさんは言及した。
初心者講習会でも説明を受けたが、冒険者ギルドにだって違反行為に対する罰則規定は存在する。
無頼漢一歩手前、あるいはそのものな輩が冒険者には多いので、こういった規定がないと困るのだ。
まあ、規定があろうとなかろうと依頼票の条件―――契約内容を順守するなんてのは当然のことだがね。
「ごもっともな話です。でも安心して下さい。彼は冒険者じゃありませんから」
「はぁ? 何言ってんだ、お前」
「事実です。何故なら今の彼は冒険者としてではなく、俺が外部から個人的に雇い入れた協力者という立場で此処に居るので、罰則規定に抵触する心配はありません。だから同行させても問題無し!」
「えっ、俺ってそんな立場だったんすか?」
「お前はもう喋るな」
俺からの説明を聞いても、ほとんどのメンバーはよく理解出来なかったのか、怪訝そうに首を傾げている中、察しの良いエイルとヴィオネの二人だけは「あ~」と納得の声を上げた。
ギルドの規定において、依頼遂行時に外部から協力者を招くことは禁止されていない。
無論、依頼票の中にも協力者を禁止するような文面は記載されていなかった。
「なので合法です」
「いや、それホントに大丈夫なのかよ? 幾ら禁止されてないっつっても坊主も冒険者の一人だぞ?」
「水先案内人ってことにしとけば大丈夫じゃないですか? 冒険者を協力者に選んじゃ駄目なんて書かれてませんし」
「そうは言うけどよぉ……」
納得がいかないのか、ローグさんは腕を組みながら唸り声を上げている。
他のメンバーも多くは渋い顔をしていた。
「別に同情したから連れてきたって訳じゃなく、今回はセントに同行してもらった方が良いと思ったから協力者として雇ったんですよ」
何せ当事者だからな。
何処でどのように盗賊に襲われたのか、規模はどの程度だったのか等々。
盗賊対策に必要な情報をいつでも聞き出すことが出来る。
セントの案内があれば、現場を直接確認することも可能だ。
それにセントが―――酔っ払っていたとはいえ―――口にしていた待ち伏せをされたという話も気に掛かる。
はっきり言ってキナ臭い。
俺の取り越し苦労であればそれでいいが、用心しておくに越したことはないだろう。
「報酬は前払いしてますし、依頼中は俺が責任持って面倒を見ますんで。あとは戦闘にさえ参加させなきゃ大丈夫だと思いますよ」
「あれ、報酬なんか貰いましたっけ?」
「お前なぁ、あんだけ好き放題飲み食いしといて……」
マジでふざけんなよ。
最終的に俺があの店に幾ら支払ったと思ってやがる。
「マスミ、頭良い」
「相変わらずぅ、悪知恵が働くの~」
エイルとヴィオネだけは俺の説明を聞いて感心しているようだが、何故だろう。あまり褒められている気がしない。
やがてウンウンと唸っていたローグさんも、乱雑に自らの髪を掻き回すと諦めたように息を吐いた。
「マスミのことだ。何かしらの狙いってか、考えがあるんだろうな」
「考えと言いますか、まだ確証のないことなんでなんとも言えませんがね。セントを連れて行くのも……まぁ用心みたいなもんです」
「用心か。そいつはマスミにとって必要な用心なんだよな?」
「そうですね。無視するにはちょっとなぁって思う程度には必要かと。セントが居た方が便利だってのも本当ですけどね」
これ本当。別に同情とかは関係なく便利だと思っただけ。
本当にそれだけだから。だからミシェルとローリエはニヤニヤするんじゃねぇよ。
なんだその私達は分かってるわよぉみたいな笑い方は。
腹立つから止めろ。
「マスミがそこまで言うなら、まあいいか。あー、セントだったか? 取り敢えず同行は認めてやるが、勝手な行動だけはするんじゃねぇぞ。必ず俺達の指示に従え。いいな?」
「はい、必ず従います」
「まっ、基本はマスミにくっ付いて行動しとけ。んじゃ、そろそろ出発―――」
「待て、ローグ。私は反対だ」
ローグさんが出発を宣言しようとしたその時、これまで沈黙を貫いていたジュナから物言いが入った。
「ジュナか。反対ってのは、やっぱ……」
「無論、その少年の同行についてだ」
ジュナは鋭い双眸を更に細め、ジッとセントを見据えたまま淡々と反対意見を口にした。
肝心のセントは、蛇に睨まれた蛙のように身を固くしている。
「その少年は盗賊に仲間を殺された。今は落ち着いていたとしても、いざ仇である盗賊と相対した時に何を仕出かすか分からんぞ。お前も同じようことを言っていた筈だが?」
「そりゃそうなんだけどよ。マスミが連れてった方が良いって言うくらいだしなぁ」
「マスミか。お前も他の連中も、何故そこまで彼の意見に耳を貸すのだ? 少年を除けば、この場で最も経験が浅いのは彼の筈だろう」
「まあ、会ったばっかりのお前に分かれってのも無理な話なんだろうけどよ。多分、此処に揃った面子の中で、一番頭が切れるのはマスミだ」
「ほぅ」
先程までセントに向けられていた視線が今度は俺に向けられる。
正面から見られると結構怖いかも。そんなに見ないで。
「マスミ、何故その少年を連れて行くのだ?」
「さっきも言った通り、一緒に居た方が何かと便利だってのもありますし、個人的にちょっと気になる点もあるんで」
「敬語はいらん。では、ギルドから規定違反だと追及されたらどうするつもりだ?」
「んじゃ遠慮なく。そんときゃ事実を説明するまでさ。そもそも規定に明記されてないんだから、違反だなんだって文句言われる筋合いなんざないね」
「詭弁だとは思わんのか?」
「思わんね。中途半端な規定を作ったギルドが悪い」
実際、ギルドから追及されたとしても、口八丁でどうとでも誤魔化せる自信はある。
だから俺はそこまで心配していないのだが、ジュナはそんな俺の態度が気に食わないのか、厳しい目付きでこちらを睨み付けてくる。
「……物は言い様だな」
それだけを言うとジュナはこちらに背を向けてしまった。
「ローグ、悪いが私達は別行動をさせてもらう」
「おいおい、ジュナ」
「依頼は依頼だ。邪魔をするつもりはないが、何を仕出かすかも分からないような奴と何を考えているのか分からない奴とは……行動を共には出来ん」
ではなと言って、一人でさっさと馬車に乗り込んでしまうジュナ。
その後を追って、ミランダとドナートも馬車に乗り込んでしまった。
乗る直前、ドナートがペコリと一度だけ頭を下げてきた。
「ったく、あの頑固者が」
面倒臭そうに頭を掻くローグさん。
ミシェルとローリエが不安そうにこちらを見ている。
「俺の所為……ですよね」
「連れてきたのは俺だ。お前は気にしなくていいよ」
項垂れるセントの肩に手を置き、気にするなと励ます。
「どうしたもんかねぇ、これ」
周囲に漂う不穏な空気。
スタートから躓いてしまったけど、挽回出来るかしら?
セントを励ましながらも、小さく溜め息が漏れる。
俺にとって初めての盗賊討伐は、なんとも不安要素満載な状態から出発することとなったのだ。
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