第19話 脳筋も悪いことばかりではない
前回のお話……骨vs真澄くん
(真 ゜Д゜)硬い…
(骨 ゜Д゜)痛い…
―――轟!
爆発したかのように木っ端微塵に吹き飛ばされる倉庫。
それに伴って発生した衝撃波は、離れた場所に立つ俺達の元へ届く程に凄まじいものだった。
「うぉあッ!?」
強烈な突風が吹き付け、巻き上げられた土砂が襲い掛かってきた。
咄嗟に目と口を閉じ、交差させた両腕を盾にしたものの、その程度で防げる範囲など高が知れている。
飛んできた無数の小さな礫が容赦なく全身を打ち据えてきた。
「いでッ、痛だだだッ!」
「ぐあッ、クソッ!」
「くぅぅ、痛ッ」
「痛~い」
全員の口から苦痛に喘ぐような声が漏れる中、エイルの声だけ何故か微妙にエロかった。
「イギャアァァァァッッ!?」
何やら野太い男の悲鳴が聞こえてきた気もするけど、幻聴だと思うことにする。
身を縮こまらせるように体勢を低くし、少しでも礫が当たる面積を小さくしてやり過ごそうとするも、焼け石に水だった。くっそ痛ぇ!
時間にするとほんの十秒程度だろうか。
唐突に発生した突風は同じように唐突に終わりを告げた。
礫の雨からも解放されたので、恐る恐る目を開け、周囲の状況を確認する。
倉庫は跡形もなく吹き飛び、かつて倉庫が建てられていたその跡地には―――。
「……なんだよアレ」
―――巨人が立っていた。
「……」
ギュッと目を閉じ、指先で瞼の上から優しく揉む。
ついでに眉間やこめかみも揉み揉み。
どうも俺は疲れているらしい。
まぁ、強行軍で此処まで来たのだから、疲労が溜まるのも当然と言える。
ましてや爆走する馬車の所為で、三半規管に甚大なダメージを負ってしまったのだ。
本調子からは程遠いだろう。
「マスミ?」
それなりに解れてきたかなぁと思われる頃合いでマッサージを終了。
閉じていた瞼をゆっくり上げると……やはり巨人が立っていた。
「何故だ」
「それが現実だからだ」
無情な言葉が耳に届く。
「アレは……巨人なのか?」
「紛うことなく巨人です」
目算で全長8メートルは有りそうだな。
「ちょっと他人よりも成長過多な人って可能性は……」
「マスミくぅん、現実を受け入れよ~?」
こんな現実受け入れたくない。
だってどう考えてもおかしいだろう。
「なんで巨人まで骨なんだよ」
「なんでって言われても~」
普段から下がり気味のエイルの眉尻が更に下がる。
美女の困り顔を見て、荒んでいた心が少しだけ癒された。ごちそうさまです。
「……おい、マスミ」
「……マスミさん?」
「さぁ、みんなでこれからのことを考えようじゃないか」
努めてミシェルとローリエの方を向かないようにする。
別に二人の声が妙に冷たいから、顔を見るのが怖いなんて思ってない。
ゲフンゲフンとわざとらしい咳払いを挟みつつ、改めて疑問を口にしてみる。
「なんで巨人まで骨なんだよ」
「決まっている。アレも骸骨人だからだ」
不機嫌そうにしながらもミシェルが律儀に答えてくれた。
アレも骸骨人なのか。
自らの二本の脚で聳え立つ巨人。
その姿は、上から下まで骨のみで構成された骸骨人とよく似たものだった。
こちらの方が圧倒的に骨太ではあるが……。
色は白一色ではなく、白と黒とが斑に混じり合っている。
無論、骸骨なので色々とスカスカなのだが、あそこまでデカければ然して関係なかろう。
ちなみにまだ生き残っていた筈の骸骨人共は、さっきの突風でバラバラになり、何処ぞに飛ばされてしまった。南無。
「まさか本当に死んだ巨人が骸骨人になった、なんて訳じゃないよな?」
「いいえ、あくまでも素体は通常の骸骨人です」
「複数の骸骨人がぁ、混ざり合ってぇ、一つになることでぇ、生まれた魔物~。骸骨巨人って呼ばれてるの~」
成程。あのデカブツは骸骨人の集合体という訳か。
件の骸骨巨人は音もなく立ち尽くしたまま、空っぽの眼窩をこちらに向けている。
眼球が存在しない筈なのに視線を―――確かに見られていると感じた。
「目ぇつけられちゃったかな?」
「……だろうな」
ミシェルの声も緊張で硬くなっている。
単純に身体のサイズだけで判断するのなら、これまで遭遇してきたどの魔物よりも巨大だ。
ネーテの森で戦ったヘルハウンドを余裕で上回る程の巨体。
必然、与えられるプレッシャーも相応のものとなる。
知らず汗が頬を伝い、口内が急速に渇いていく。
ついでにちょっと胃も痛くなってきた。
「なんでこう行く先々で厄介事に巻き込まれにゃならんのだ」
これが異世界出身者たる異邦人の宿命だとでもいうのか。
俺はチートキャラじゃねぇんだぞ。
「嘆いていても始まらん。仕掛けるぞ」
「なんといってもあの大きさですから、的を外す心配はありませんね」
「覚悟完了~」
ウチのパーティの女性陣が男前過ぎる。
頼りになる仲間に恵まれて、おじさん嬉しいよ。
さて、あれだけのデカブツを相手にするとなれば、生半可な手段では対抗出来まい。
どのような策を講じたらよいものか。
ヘルハウンド戦の時は、ローグさん達先輩パーティとコレットがいてくれたから乗り切ることが出来た。
今はエイルがパーティに参加しているので、平時よりも俺達の戦力は増強しているが……。
「駄目だ。何も考え付かん」
「頑張れ、頭脳担当」
ミシェルから物凄く投げ遣りな応援をもらった。
いつから俺は頭脳担当になったのだろう。
「お前も少しは考えろや」
「所詮、私は脳筋だからな。頭の悪い脳筋は言われるがままに剣を振るうだけさ」
何の自慢にもならんことを堂々とのたまうミシェル。
前向きなのか、後ろ向きなのかすらもよく分からん。
どうやら以前に脳筋と言われたことを気にしているらしいが、今言うことかねそれは?
なんだか笑えてきた。
ローリエやエイルも苦笑している。
「良い案配でリラックス出来たかな」
骸骨巨人が姿を現した際は、全員が表情を硬くしていたものの、今のミシェルの発言を聞いたことによって幾分緊張が和らぎ、程よく力の抜けた状態となった。
緊張し過ぎず、且つ脱力し過ぎない丁度良いコンディション。
別にミシェルも狙って発言した訳ではないだろう。
当の本人は、何故みんなが笑っているのか理解出来ずにキョトンとしている。
「お前はそのままで良いのかもしれんね」
「何の話だ?」
「気にしなさんな」
準備万端とはいかないものの、脳筋娘のおかげで少なくとも腹を括ることは出来た。
女性陣も表情を引き締める。
「取り敢えず一発当ててみようかね」
その呟きが聞こえた訳でもないだろうが、今まで静かに佇んでいた筈の骸骨巨人が、俺達の戦意に応えるかのように一歩、その巨大な足を前に踏み出した。
距離があるにも関わらず、ズシンッと腹の底にまで響くような足音が届き、土砂が舞い上がる。
その光景を目にして足が竦みそうになるが、握り締めた拳で太腿を殴り付けることによって自分自身に活を入れる。
「ビビってんじゃねぇぞ、俺」
骸骨巨人が二歩目を踏み出す。
響く足音に今度は……大丈夫。
よし、ウダウダ考えてても始まらん。
まずは宣言通りに一発当てる。
あとのことはそれから考えよう。
「奴さんもヤル気満々だねぇ。よっしゃ、まずは小細工なし。脳筋らしくブチかましてこい、ミシェル!」
「応とも!」
あまりと言えばあまりな開戦の合図。
不敵な笑みと共に応えたミシェルが先陣を切って駆け出した。
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