第7話 双・丘・爆・裂
前回のお話……ゴロツキ共を懲らしめた
「ぶっはぁぁぁ……」
心地良い温度を保った湯船に肩まで浸かり、両足も投げ出すように伸ばす。
疲労で凝り固まった筋肉が解され、全身が弛緩していくのが分かる。
たまらんねぇ。
「ぬぁぁぁぁ……」
お風呂最高。
やはり日本人たる者、一日の締め括りに風呂は欠かせませんなぁ。
異世界だろうとなんだろうとそこは変わらない。
さて、野郎の入浴シーンがいきなり始まって驚かれた方、あるいはそんなもん見せるんじゃねえとご不満の方もいらっしゃることでしょう。
ギルドでゴロツキ共に絡まれた一件から大分時間も経ち、とっぷり日も暮れて外は真っ暗。
そして俺は宿の風呂でまったりと寛いでいる最中。
「ぬくぬくじゃー」
さて、ウチの女性陣がゴロツキ共をボコった後の話をしよう。
一頻りシバき終え、さてこいつらの処遇をどうしたもんだろうかと首を捻っていたところ……。
「殺さなければご自由にして構いませんので、取り敢えず外に摘まみ出しちゃって下さい」
という受付嬢からのお言葉をいただいたので、遠慮無く全員摘まみ出すことにした。
脚なり服の襟なりを掴んでズルズル引き摺りながら外に出る。
途中、ガンッとかゴンッとか何かにぶつかったような音が聞こえてきた気もするけど……きっと空耳だろう。
ズルズルズルズル。
人気の少ない路地に連中を放り投げた後、今夜の宿を探すべくさっさと立ち去ろうとする女性陣。
俺は敢えてそれに待ったを掛けてから、倒れたまま呻き続けているゴロツキ共に対して……。
「おい貴様ら、慰謝料払え」
金銭を要求した。ぶっちゃけ強請った。
日本でやったら大問題になるが、怖ろしいことにこの異世界「他人に迷惑を掛けるような奴は報復に何をされても文句は言えない」という暴論が割りと罷り通ってしまうヴァイオレンスな世界なのだ。
流石に生命を奪うとか、余りにも極端な報復は問題になるものの、慰謝料改め迷惑料を要求する程度では特にお咎めを受ける心配もない。
仮にこいつらが官憲に泣き付いたところで、自業自得の一言で切って捨てられるのがオチ。
現代日本程に司法制度が整っている訳でもないし、何より自分の身は自分で守るという考えが根強い世界だからなぁ。
金銭だけで済ます俺はまだ優しい方で、相手によってはその場で身包みを剥がされる可能性すらあるのだ。
「あっ、これで全部だと? おいドチビ、ちょっとそこでジャンプしてみろや。おい、なんかチャリンチャリン鳴ってるのはなんだ?」
俺の行いを見たミシェルとローリエはドン引きしていたけど、エイルだけは……。
「マスミくんってばぁ、ワイルド~」
何故か頬を赤く染めてうっとりしていた。
解せぬ。
「ちっ、シケてやがるな。まあいい、今回はこれで勘弁しといてやる」
小男の尻に軽く蹴りを入れてやれば、ヒィヒィと半泣きになりながら逃げていくゴロツキ共。
うむ、これで連中の被害に遭った人達の溜飲も多少は下がるだろう。
決して一人だけ出遅れて恥を掻いたことに対する八つ当たりなどではない。
「マスミ、お前……」
「何もそこまで……」
完全に犯罪者を見る目で俺のことを見ているミシェルとローリエ。
その目は絶対に仲間に向けていい類のものではなかった。
金が無くなれば奴らも働かざるを得ないし、これで少しは被害者の気持ち云々と説明することで、なんとか理解を示してもらえた。
その目はまだ若干懐疑的だったけど……。
顔を赤らめたまま、一人でくねくねしていたエイル―――何処とは言わんが凄く揺れていた―――の背中を押し、移動を促しながら宿屋を探すこと数件目。
ようやく四人で泊まれる大部屋が空いている宿屋を発見したのだ。
実はこちらの宿、この宿場町に複数ある宿屋の中でもかなり上等な高級宿らしく、一泊するだけでも結構な金額が掛かるのだが、今回は予算に余裕があった上に臨時収入を手に入れたばかりだったので、満場一致で宿泊することが決まった。
専属の料理人が作ったという夕食―――美味であった―――をいただいて腹を満たした後、俺は直ぐ様風呂場へと向かった。
そして現在、三日振りの風呂を堪能しているという訳である。
「日本酒で一杯やりたい気分だねぇ」
この浴場、なんと露天風呂なのである。
といっても脱衣所と浴場を隔てる扉を除いた三方には、背の高い木製の壁が設置されているため、周りの景色を楽しむことは出来ない。
まぁ、この壁が無いと外から覗き放題だから致し方ない。
それでも夜空を眺めつつ、のんびり湯船に浸かれるのなら露天風呂と称しても差し支えはなかろう。
壁を除いた全面石造りの浴場。
その中央にあるのは、二十人は浸かれそうなくらい広々且つ並々とお湯の張られた浴槽。
脱衣所の扉付近には幾つかの手桶が積まれており、隣には五右衛門風呂のような形状をした妙にデカい風呂桶が設置されている。
浴槽と同じようにお湯が注がれているけど、こちらは身体を洗うためのもので入浴用ではないらしい。
この浴場にはシャワーがないので、こういった設備が必要だったのだろう。エチケット。
惜しむらくは天然温泉ではないところだが……。
「そこまで求めるのは流石に贅沢が過ぎるわな」
これで文句を言ったら罰が当たりそうだ。
深く息を吐きながら、改めて肩までお湯に浸かる。
今こうして利用しているのは俺だけだが、実は此処の風呂は混浴らしい。
これで美女と一緒に入浴出来れば言うこと無しだったのだが、生憎と美女どころか女性一人やって来ない。
非常に残念である……なんて益体もないことを考えていると、突然脱衣所の扉が開いた。
「ほぅ、中々立派な風呂だな」
「そうですね。これならゆっくり寛げそうです」
「あ~、マスミくんだ~」
脱衣所から姿を現したのは、我がパーティの女性陣。
期せずして美女達がやって来てくれた。
既に入浴している俺に気付いたエイルが声を上げる。
よぉと軽く返事を返せば、何故かミシェルとローリエは己が身を抱き竦めるようにして胸元を隠した。何その反応?
咄嗟に胸元を隠した二人だったが、生憎その行為には何の意味もない。
何故ならこの場には全裸の者など誰一人居ないのだから。
宿のルールとして、風呂場を利用する際には必ず入浴着と呼ばれるものを着用しなければならない。
女性用の入浴着は膝丈くらいの白っぽい和服―――小袖のような見た目をしており、細い紐で腰の辺りを縛ることによって前合わせの部分が開かないようにしている。
男性用はトランクス型の海パンみたいな代物。
俺も着用している。
どうもこの入浴着、濡れても透けない生地で作られているようで、これがあるからこそ混浴が許されているのだ。
その事実を知った瞬間、反射的に舌打ちが漏れたのは内緒だ。
「マ、マスミ!? いつの間に……」
「いや、風呂入るって言った筈だけど」
「まさか先回りして覗きを……」
「こんな堂々とした覗きがあるかい」
名誉棄損で訴えるぞ。
顔を赤らめたミシェルとローリエは胸元を隠したまま動こうともしない。
「ミシェルちゃんもぉ、ローリエちゃんもぉ、裸じゃないんだしぃ、別にいいじゃな~い」
そう告げた後、エイルは大型の風呂桶から手桶にお湯を汲んで、かけ湯を始めた。
俺は近くに置いていた手桶をお湯に浮かべ、女性陣の方に向けて押し出した。
手桶の中には万能石鹸こと〈ダヴナの乳石鹸〉が入っている。
「石鹸どうぞ」
「ありがと~」
石鹸を泡立てて自らの身体を洗い出すエイル。
今更だけど、入浴着を着たままだと洗い辛そうだな。
女性が身体を洗う姿をジッと見続けるのもどうかと思ったので、見えないようにタオルで目を覆いつつ、上を向いて待つことにした。
今の内に身体を洗っておくれ。
そうしてしばらく待っていると「もういいよ~」という声が掛かったため、タオルを外して顔の位置を正面に戻した。
視界に映るのは身体を洗い終えた女性陣の艶姿。
ミシェルとエイルは長い髪を頭の上で簡単に結い上げている。
お湯を吸った入浴着は、三人の身体にピッタリ張り付き、それぞれの素敵なラインを浮き彫りにしてくれた。
ミシェルは女性にしてはかなり背が高く、170センチ前後もある。
日々の鍛練と冒険によって鍛えられた長身には、無駄な贅肉など一切付いていない。
ほっそりとした手足の何処にあれ程の怪力が秘められているのやら。謎だ。
引き締まった見事なモデル体型。
特に腰のくびれなどは見事なものだ。
胸は大き過ぎず小さ過ぎず、程良いサイズでお椀型の綺麗な形をしている。
そんなミシェルと比べてローリエの方は幾分肉付きが良い。
といっても別に太っている訳ではなく、ミシェルをモデル体型だとすれば彼女はグラビア体型。
胸元と尻のボリュームに富んだ、所謂出る所は出て、引っ込むべき所は引っ込んだメリハリの利いた肢体。
ミシェルよりも背は低いのに胸は大きいというアンバランスな感じがまた魅力的だ。
そして大本命のエイルだが、彼女はもうあらゆる意味で規格外だった。
細くしなやかでありながらも、女性らしいまろみを帯びた美しい曲線。
張りと艶はあっても、シミは一つも見当たらない真っ白な肌。
そして今更説明するまでもない胸に抱えた暴れん坊。
入浴着に押え付けられたその双丘が、俺にはなんだか……とても苦しそうに見えた。
―――並盛・大盛・特盛。三者三葉の見事なプロポーションよ。
「ありがたや」
眼福である。
「おい」
「マスミさん……」
「あはは~、また拝まれた~」
ミシェルとローリエが微妙な表情を浮かべる中、一人だけケラケラと笑うエイル。
おかしい、感謝の念が伝わっていない気がする。
三人も俺に倣って肩まで湯船に浸かり―――。
「「「はぁぁぁ……」」」
―――なんとも気持ち良さそうな吐息が漏れた。
暫し湯船の心地良さを静かに堪能した後、徐にミシェルが口を開いた。
「明日か明後日には、例の遺跡に到着だな」
「そうですねぇ」
「俺らは遺跡調査なんてやったことないから、エイル頼みになるけど」
「お任せあれ〜」
自信満々に豊か過ぎるお胸をポンと叩くエイル。
叩かれた爆乳がポヨンポヨンと柔らかそうに揺れてお湯が波打った。
心なしか、ミシェルとローリエの目付きが険しくなった気がする。
「しかし、なんでまた遺跡調査なの?」
エイルが見付けてきた今回の依頼。
一緒に仕事をするだけなら他にも選択肢は有った筈だし、もっと近場でも良かったと思う。
何か理由があるのだろうかと訊ねてみれば……。
「それはぁ、わたしがぁ、遺跡調査が好きだから~」
めっちゃ私的な理由だった。
「それだけ?」
「あとはぁ、みんなにもぉ、好きになってもらいたかったから~」
湯船に浸かりながら、両腕を大きく広げるエイル。
動作に合わせて滴が飛び散り、ついでにお胸も大きく弾んだ。
「古代遺跡! そこに秘められた謎を解き明かす! 未知への探索をしてこその冒険者だと思うの」
どうやら興奮すると間延びしなくなるらしい。
長耳を上下に揺らし、まるで子供のように瞳を輝かせながら遺跡調査のなんたるかを熱く語り出すエイル。
その姿は、今頃もきっと地球を―――世界中を旅しているだろう我が友人を思い起こさせた。
「なんか……楽しそうだな」
「そうなの!」
エイルがお湯を掻き分けながら、俺の方に近寄って来る……って近い近い。
思わず立ち上がってしまい、意図せず見下ろすような格好になってしまった。
視線の先には自己主張の激しい魅惑の果実が……。
「きっと楽しいの。だからマスミくん達にも好きなってほしいの!」
お湯を跳ね飛ばす勢いで立ち上がり、両手で俺の右手を握り込んでくるエイルだったが、湯船に浸かったまま激しく動いたのがよくなかったのだろう。
お湯をたっぷりと吸って重くなった入浴着の腰紐が徐々に緩んでいき、遂に―――。
『あっ』
―――はらりと解けた。
その結果、自らを押え付けるものの無くなった奴らが目を覚ます。
入浴着なんぞ関係ねぇと言わんばかりに内側から前合わせを弾き飛ばす暴れん坊。
白くて丸くて大きな二つの至宝―――爆乳がまろび出る。
今、その真の姿である生乳が俺の眼前に晒されたのだ。
―――素晴らしい。そして何よりも美しい。
これぞ正しく母性の象徴。
母なる女神は此処に御座した。
美し過ぎる生乳を曝け出したまま「あら~?」と呑気な声を上げているエイルに向けて、無言で両手を合わせる。
「ありが―――」
「「見るなッ!」」
感謝の言葉を告げようとした時、二つの拳が俺の視界を覆った。
次の瞬間には凄まじい衝撃が顔面を突き抜け、俺は湯船の底へと沈んでいった。
暗転する視界。
薄れゆく意識の中、俺は自分が巻き込まれた異世界転移という事象に対して、初めて心の底から感謝の念を抱くことが出来た。
―――生乳をありがとう。
やっぱり真澄くんは大艦巨砲主義
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は、週明けを予定しております。




