第5話 寄ってけ宿場町
前回のお話……爆乳さんが仲間に加わった(仮)
「んおぉー」
思わず変な声が漏れてしまった。
視界に広がる複数の建物。多くは木造だが、石造りや煉瓦造りの建物もチラホラと見える。
地面には灰色の石畳が敷かれている。
街としての規模が違うのでネーテとは比べるべくもないが、それでも街道は多くの人で溢れていた。
フード付きのマントを纏い、雑嚢を背負った如何にも旅装束という出で立ちの者達。
剣を腰に下げ、あるいは槍を手に歩く武装した者らは、俺達と同じ冒険者だろうか。
二頭の驢馬に荷車を牽かせている商人らしき男。
屋台の店主らが客を呼び込む威勢の声が通りに響く。
ここの住民なのだろう。
簡素な衣服に身を包んだ幼い子供達がケラケラと笑いながら駆けて行く。
「活気に満ちているじゃないの」
見ているこちらも楽しくなってきた。
馬車に乗ってネーテの街を出発し、街道に沿って南下すること早三日。
多種多様な人々が行き交う交通の要所であり、俺達のような流れ者が一夜の宿を求めて立ち寄る場所―――宿場町へとやって来た。
はいどうも、異世界ファンタジーはやっぱり旅してナンボだと思う深見真澄です。
我々は現在ネーテより南方にある宿場町に来ております。
同行メンバーはミシェルとローリエ。それと豊かな金髪と豊か過ぎる爆乳が素敵なエロフ改めエルフのエイル。
そもそも何故に宿場町へと来ることになったのか。
それは五日前、俺達がエイルと出会った翌日のこと。
エイルも含めたメンバー四人で受けるための依頼を探しましょうと、朝もはよからギルドに集合したところ……。
「みんなで一緒にぃ、受けたい依頼があるの~」
先に来ていたエイルから早速話が上がったのだ。
「おはよう。早くね?」
「おはよ~。ワクワクし過ぎてぇ、早く目が覚めちゃったの~」
遠足前の子供か。
「一緒に受けたい依頼ってなんぞ?」
「えっとねぇ、これ~」
そう言ってエイルが差し出してきたのは、掲示板から剥がしてきたと思しき一枚の依頼票。
手渡された依頼票に目を通す。
左右から覗き込んできたミシェルとローリエと一緒に内容を確認する。
「遺跡の調査?」
曰く、ネーテよりも南方の地域において古代の遺跡らしきモノが発見された。
現地での調査を行うと共に遺跡内部及びその周辺に出没する魔物を排除してほしいとのこと。
大まかな地図も載っているのだが、生憎と異世界の地理に詳しくない俺には、一口に南方の地域といわれてもさっぱり分からない。
精々、そういえば牛角猪を確保したのも南の方だったなぁという程度なので、知っていそうな人に訊ねてみた。
「何処?」
「この辺りは……確かまだまだ未開拓の地域が広がっていた筈だ」
「牛角猪の納品依頼で出向いた森は、街道から外れた場所に位置しますけど、こっちは街道に沿ってひたすら南下ですね」
成程。辺境だと未開拓の場所も多いのか。
いや、考えてみれば当然のことか。この世界は人を襲う魔物で溢れている。
それだけでも相当な脅威だというのに、辺り一帯は国境付近の辺境に位置するのだ。
隣国との戦争が起きた場合の最前線。
下手に開拓して攻め入られようものなら、たちまち略奪の対象となり、拠点代わりに利用される可能性だって有り得る。
隣国との関係がそこまで険悪ではないというのが、せめてもの救いだな。
「どうかな~?」
なんとも緩い感じの笑みを浮かべながら訊ねてくるエイル。
金髪から突き出た長耳がピョコピョコと上下に動いている。
凄ぇな、あの耳動くんだ。触りたい。
目ならぬ、耳が口ほどに物を言っている。
行きたくて仕方がないと言わんばかりだ。
「こういった調査って、普通は学者さんとかがやるもんじゃないの?」
ふと浮かんできた疑問。
魔物の調査ならまだ理解も出来るが、遺跡の調査なんてどう考えても素人に任せていいものではないだろう。
まぁ、我が友なら嬉々として参加するかもしれんが。
無頼漢一歩手前あるいはそのものといえる冒険者に依頼するような内容とは思えない。
「普通ならその通りだ。護衛として地元の冒険者が雇われることはあっても、調査そのものは王都や何処ぞの学院から派遣されてきた学者が行うものだ」
「冒険者に調査を任せたら、歴史的に価値ある品々を壊してしまったなんてことも過去にはありましたし」
「だったらなんで……」
「答えはぁ、ここが辺境でぇ、遺跡のある場所がぁ、未開拓だから~」
辺境で未開拓だから?
首を傾げる俺にエイルが説明してくれた。
「人の手が入ってない未開拓の場所ってぇ、何かと危ないの~。だからぁ、そんなところにぃ、大切な学者さんを派遣する訳にはぁ、いかないの~」
「……万が一にも怪我したり、死なれたら困るから?」
「そ~。だからぁ、そういった僻地にはぁ、先に冒険者が派遣されるのがぁ、通例なの~」
わたし達で露払い~と楽しそうに語るエイルだったが、話の内容そのものは全く楽しくなかった。
要は学者に死なれたら困るので、先に冒険者を派遣して危険を排除させようってことだろ。
「遠回しに冒険者は死んでも構わないって言ってるのと同じだよな」
「一部を除けば、冒険者の扱いなどそんなものだ」
なんと世知辛い世の中よ。
ちなみにミシェルが言う一部とは、魔鉄級以上の最上級クラスの冒険者のことである。
「悪いことばかりでもないんですよ。調査中に発見した宝物の一部なんかは持ち帰ることが許されますし、その遺跡の価値次第では追加で報酬が貰えることもあります」
必ず価値のある遺跡に当たるとも限りませんけどと苦笑気味に告げるローリエ。
目的地までは馬車を使って四、五日程度。
図らずも遠征の機会がやってきた訳か。
報酬は一人に付き銀貨十枚。
パーティの経費として更に銀貨十枚の支給有り。
発見された遺跡次第では追加報酬の可能性も有りと。
実入りは悪くなさそうだが、問題は危険度と遺跡の価値が不明な点。
ショボい遺跡だったら宝物なんて期待出来ないだろうし、未開拓の地域だからどのような魔物が出没するかも分からない。
あとは調査にどの程度の日数を要するのか。
「遺跡調査の経験がある人は挙手」
手を挙げたのはエイルのみ。
この中に経験者が一人も居なければ断ろうかと思っていたのだが、さてどうしよう。
「マスミくぅん、駄目~?」
潤んだ目でこちらを見上げてくるエイル。
ミシェルやローリエもそうだが、何故みんなして俺に判断を委ねようとするのかね。
先程まで上下に揺れていた長耳は力なく垂れ下がっており、両手は懇願する様に胸の前で組まれている。
組まれた手に押され、ぐにゃりと形を変える二つの巨大な果実。
それを目にした瞬間、俺は決断した。
「やりましょう」
「おい貴様、今何処を見て決断した?」
「またおっぱい……」
左右に控えるお嬢さんらの存在は、努めて意識しないようにした。
決して二人の顔を見るのが怖かった訳ではない。
そんなこんなで準備に二日程の時間を要してからネーテを出発。
大きなトラブルもなく、無事に宿場町へと到着したのである。
日が暮れる前に着いてよかった。
「宿屋多いな」
「宿場町だからね~」
それもそうか。
「しっかし、こうまで多いと何処の宿に泊まったらいいもんかね?」
「今日まで野営続きだったからな。出来れば今晩くらいは良い宿に泊まりたいものだ」
「資金には余裕がありますからねぇ」
宿場町を通過して数時間も進めば、もう未開拓地域に入ってしまうらしい。
ここより南には泊まれそうな村も町も存在しない。
今回の俺達にとっては、この宿場町に泊まる今日だけが物資の補充と宿屋で休むことの出来る唯一の機会なのだ。
現地に着いたら最低でも数日の野営は確定。
綺麗好きな日本人としては、風呂付きの宿を所望したい。
「その前にぃ、ギルドで情報収集~」
この世界というか、この大陸においては、大小の差はあれども大抵の都市や町に冒険者ギルドの支部は存在する。
勿論、宿場町にもある。
宿屋と並んで町の通りに建てられている訳だが、見ればこのギルド、ネーテの支部程に大型の施設ではなく、周りの建物と比較してもそこまで大きな差はなかった。
「なんか小さくね?」
そう感じてしまうのは、俺がネーテのギルドしか知らない所為だろうか。
まぁ、宿屋ばかりが並んでいる通りの中にネーテのギルドのような大きな建造物が建っていたら、逆に違和感を覚えたかもしれない。
正直、この規模の建物を支部と呼ぶには抵抗があるので、勝手ながら出張所とでも呼ばせてもらおう。
冒険者ギルド・宿場町支部改め宿場町出張所の扉―――スイングドアを潜って中に入る。
受付や買い取り用のカウンターと依頼票が貼られた掲示板のあるロビー。併設された酒場。
規模は小さくとも基本的な構造に変わりはないようだ。
「そんなに冒険者も居ないのな」
「宿場町ですからね。此処を拠点に活動するって人はあまり居ませんよ。この先は未開拓地域ですし」
そんなものかと思いつつ、丁度誰も並んでいない受付があったので、そちらに向かう。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
制服を着た受付嬢が何処かで聞いたことのある台詞を口にした。
最初の文言はこれって決まりでもあるのかね?
「この先の未開拓地域で発見された遺跡調査のためにネーテから来たパーティだ。何か情報があれば教えてほしい」
ミシェルが認識票と依頼票を提示しながら、受付嬢に用件を告げる。
その間、手持ち無沙汰な俺は周囲の冒険者の様子を観察することにした。
ロビーと酒場にたむろしている冒険者の数は俺達も含めて三十人弱。
パッと見の印象だが、あまり質は良くなさそうだ。
粗野な風貌をした輩や粗末な装備に身を包んだ者が目立つ。
俺程度の目利きで個人の実力なんて測れるものでもなかろうが、ネーテで活動している冒険者達が、この場に居る連中に劣っているとは到底思えなかった。
「何処に行っても注目の的だねぇ」
女性の姿が皆無という訳でもないが、居るのはほんの数人程度で、それ以外は全員男だ。
そんな男共の下卑た視線が我がパーティメンバーに遠慮なく向けられている。
三人とも見目麗しい外見をしている上に、なんと言ってもその内の一人は爆乳エルフだ。
嫌でも注目を集めてしまう訳だが……正直面白くない。
別に彼女達を独占する権利なんて俺にはないけど、仮にも一緒のパーティで行動する仲間だ。
その仲間がこんな視線に晒されているのは、不愉快でしかなかった。
ネーテの連中だって、ここまで欲望剥き出しでガン見してくる奴は居なかったぞ。
威嚇と牽制の意を込めて周囲を軽く睨み付ける。
オラ、見てんじゃねぇよ。
俺に睨まれた男共の内、何人かはそそくさと目を逸らし、何人かは忌々しそうに舌打ちをしながらも目を逸らし、更に何人かはニヤニヤと笑いながらこちらの様子を窺い、残った何人かは―――。
「よぉ、別嬪さん三人も連れてイイご身分だなぁオイ」
「羨ましいねぇ」
待ってましたと言わんばかりに、ちょっかいを掛けてきた。
……対応間違ったかな?
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は、週明け辺りを予定しております。




