第18話 絡む輩と絡まれる彼
前回のお話……(ミo゜∀゜)=○)´3`真)∴
「まったく。お前という男はちょっと目を離すとすぐ婦女子にちょっかいを掛けるのだな」
「おい待てコラ、誤解されるようなことを言うな」
「というかマスミさん、講習会に参加してたんじゃ?」
「サボった。あともう参加しないって、二人には言っといただろうに」
「大人なんですからサボるのはどうかと思いますよ、フカミさん」
「お前もサボっとるやんけ」
引き続き森の中からこんにちは。深見真澄です。
灰猟犬を片付けて一安心かと思いきや、今度はミシェルに強襲されて死ぬかと思った。
異世界に来てから死を一番間近に感じた瞬間だった。
その後、ローリエもすぐに姿を見せ、お互いに何故この場に居るのかと疑問を抱きつつも、まずは移動しようとミシェル達が拠点にしている野営地―――湧き水が溜まり、ちょっとした池のようになっている水源ポイント―――まで足を運んだ。
道すがら情報交換もした。
どうやらミシェル達が受けた依頼というのは。他パーティとの合同によるネーテの森の調査らしい。
灰猟犬が数を増し、他の魔物が表層や中層から激減した原因を調べるのだとか。
「ギルドも調査してんだったら教えてくれればいいのに」
「不確定な情報が多かったからな。下手に広める訳にもいかなかったのだろう」
現在は野営地にて、他のパーティが戻って来るのを待っている最中である。
調査依頼に参加したパーティの数はミシェル達を含めて三組。
他の二組が調査に向かったので、二人は野営地で待機していたそうなのだが……。
「妙な音が聞こえたからな。今回の件の元凶かと思って駆け付けてみれば、二人が居たという訳だ」
「昨日も微かに聞こえてたんですよ、パーンって」
癇癪玉を出してすみません。
俺の方は成り行きと気紛れでコレットの手伝いをしていると話したら呆れられた。
そんなに溜め息吐くなし。
コレットは畏まっているのか、小さな身体を更に小さくしている。
「それとマスミ、さっきからいったい何をやっているのだ?」
「内職、かな?」
「なんだか鼻がムズムズするんですけど」
「もうちょっとで終わるから我慢してくれ」
現在の俺、女性陣から物理的に距離を置かれています。
俺が手元で行っている作業が原因なんだけどね。
乳鉢に入れた細長い赤い実と黒い粒をゴリゴリと擦り潰し、細かな粉末状にしていく。
充分細かく出来たら別の器に中身を移し替え、空になった乳鉢には新しい赤い実と黒い粒を入れてまた擦り潰す。
先程からこの作業を黙々と繰り返しているのだ。
なんとも言えないスパイシーな刺激臭が俺を中心に広がっていく。
本来なら俺自身も大いに粘膜を刺激されるところなのだが、ゴツいゴーグルとマスクで顔面を覆っているおかげで、被害は防がれている。
これが無ければ、きっと今頃は涙と鼻水塗れになり、人様にお見せ出来ないような顔になっていただろう。
「その黒い粒はコショウですよね? 赤い実はもしかしてトウガラシですか?」
「その通り。見事正解したローリエくんには、潰したての唐辛子と胡椒の混合物を―――」
「いりません」
「トウガラシ? それって虫除けのトウガラシか?」
「違う。立派な香辛料だ」
そういった使い方があるのも事実だけど。
ローリエの言う通り、俺が今擦り潰している物の正体は乾燥させた唐辛子と黒胡椒の実である。
どちらも露店で売られていたのを見付けて購入したものだ。
黒胡椒はともかく唐辛子に関しては捨て値同然で売られていたため、露店の店主に理由を訊ねてみると単純に辛すぎて買い手が付かないと教えられた。
物は試しにとほんのちょっとだけ味見をしてみたところ、舌に激痛が走った。
どうやら俺が知っている唐辛子よりも遥かに辛み成分の強い品種のようで、しばらく涙が止まらなかった。
全部買わせてほしいと申し出た結果、諸手を挙げて大喜びされた。
店主も在庫を大量に抱えて処分に困っていたようで、お礼にと黒胡椒をちょっとサービスしてくれた。ありがとう。
「そんなものをいったい何に使うのだ?」
「一応、灰猟犬対策のつもりなんだけど」
自分でやっておいて今更だが、俺としても出来ることならこんな物を使わずに事態を終息させたい。
手持ちの唐辛子と黒胡椒を全て擦り潰し、諸々の準備を終えた頃、調査に出ていた他の二組が拠点に帰還してきた。
見知らぬ人間が居ることを疑問に思う以上に、拠点内に漂うスパイシーな残り香にみんな気を取られていた。
なんかすみません。
「大蜘蛛を狩りに来たら、灰猟犬の群れに襲われただぁ? お前らもツイてねぇな」
「いやぁ、参りましたわ本当に」
「にしても変わった格好だな。そんなの見たことねぇぞ」
「俺の故郷じゃ割りと定番の装備なんですけどね」
「……何故もう打ち解けているのだ」
俺よりも幾つか年上であろう戦士風の男と慣れた調子で会話している脇で、ミシェルは一人顔を顰めながら納得いかんと口を尖らせていた。
小ジワが出来るぞ?
拠点に帰還したのは、それぞれ四人組と三人組パーティの計七人。
ここにミシェルとローリエを加えた九人が今回の調査依頼を請け負ったメンバーとなる。
さっきまで俺が話していたのは四人組の内の一人で、今回のリーダー役も担っているローグさん。
年齢は三十そこそこ。短く刈り上げた褐色の髪と厳つい顔付き。
180センチを越える大柄な身体を守るのは板金で補強された革の鎧。
得物は幅広の両手剣と逆三角形の形をした片手用の盾だ。
ちょっと口は悪いが、話してみると案外気の良い人だった。
「一応、他の面子も紹介しとくか。こっちのノッポがディーン。ひょろいのがトルム。んで最後に、そこで怠そうにしてる色っぽいのがヴィオネだ」
簡単ながらも自身のパーティメンバーを一人一人紹介してくれるローグさん。
ディーンさんはローグさんと同年代の長身痩躯の男で、身長だけならメンバーの中で最も高い。
おそらく190センチ以上ある。
無造作に束ねた黒髪と眠たげに細められた茶褐色の瞳。
ローグさんと同じような革鎧に身を包み、全長2メートルを越える長さの槍を背負っている。
そして……。
「……ん」
圧倒的に無口なのだ。
話し掛けても返ってくるのは「ん」の一文字だけ。
でも多分、悪い人ではないと思う。
俺とコレットが灰猟犬に襲われたと話した時、彼は真っ先に心配そうな表情を浮かべ、励ますように肩に手を置いてきたのだ。
シャイなのかしらん?
「よろしくねぇ」
トルムは全体的に緩めな雰囲気を醸し出している二十歳そこそこの優男で、パーティ内での盗賊職―――犯罪者ではない―――所謂、斥候を担当しているようだ。
動き易さを重視してか、着けている防具は胸当てや籠手等といった最低限のもので、頭にはバンダナのような布を鉢巻きにしている。
しかし、その黄褐色の髪は隠密行動をする上で目立つのではなかろうか。
「よろしく……ふあぁ」
そして最後に欠伸混じりの実に気怠げな挨拶をしてきたのが紅一点のヴィオネ。
群青色の長い髪を背中に自然に流し、身体のラインがよく分かる服装―――出るとこは出て、引っ込むべきところは引っ込んでる―――をしている。
手足にはそれぞれ黒の長手袋と膝上までのロングブーツ。腰には短杖を差している。
今回のメンバー唯一の魔術師だそうだ。
年齢は俺よりも幾つか下だろう。
「今日はもう日が暮れてきちまったから、このまま休んでくといいさ。どうせ俺らも明日になりゃ一旦街に戻るからな」
「ありがとうございます。ご迷惑をお掛けしてすみません」
「まったくだぜ、クソがよ」
ローグさんに礼を言いつつ、軽く頭を下げると不機嫌そうな声が耳に届いた。
声のした方を見れば、少し離れた位置に突っ立っている三人組の男―――もう一組のパーティが友好的には程遠い目で俺とコレットを見ていた。
全員がトルムと同じくらいの年齢で、その見た目や立ち振舞いがどうにも粗野というかチンピラにしか見えなかった。
「止めねぇか」
「おい、ローグさんよ。んな連中を本気で泊まらせるつもりかよ?」
「ああ、夜の森は危険だしな。それに駆け出しの面倒を見るのは先輩の務めだ。お前らもそうやって助けられてきたんじゃねぇのか?」
「ケッ、冗談じゃねぇぜ。仲良しこよしなんざ御免だ。おいッ、クソ素人!」
絡まれるんじゃないかなぁとは危惧していたけど、ここまであからさまだとは思わなかった。
ミシェルが小声で相手にするなと耳打ちをし、ローリエも小さく首を横に振っていた。
俺だって積極的に揉め事を起こすつもりはないけど、何しろ相手がなぁ……。
「聞いてんのかオイッ。いいかクソ素人、寄生するつもりなのかは知らねぇが、オレ様の足を引っ張るんじゃねぇぞ。そん時は遠慮なくぶっ殺してやるからな!」
「……ああ、邪魔にならないよう気を付けるよ」
「ケッ、腰抜けが。まともに言い返す度胸もねぇのかよ」
いや、迷惑を掛けているのは事実だし、それに何か言い返そうものなら絶対に噛み付いてくるだろ。
流石の俺も最初から喧嘩腰の輩と仲良くしたいとは思わない。
適当にあしらおうと思っていたのに……。
「今の言葉は聞き捨てならん。訂正しろ」
何故かミシェルがキレた。
相手にするなって言ったのお前やんけ。
「あぁ? 今なんつった?」
「訂正しろと言ったのだ。私の仲間を侮辱するな」
「マスミさんは腰抜けなんかじゃありません」
何故かローリエまで参戦。
君達が感情的になってどうするのよ。
ローグさんはお前らなぁとか言いながら呆れている。
ディーンさんはぼんやりと、トルムとヴィオネは何処か面白そうにこちらの様子を眺めていた。
見てないで止めてほしい。
「はっ、銅級のド素人なんざ、どいつもこいつも腰抜けだろうが。そんな奴が一緒に居てなんか役にでも立つのかよ、あぁ?」
「少なくとも頭は切れるし、彼が銅級なのは登録をしてまだ日が浅いからだ。それに貴様などより余程腕は立つと思うがな」
「……なんだと?」
額に青筋を浮かべ、腰に差した剣の柄に手を伸ばすチンピラ冒険者。
煽り耐性無さ過ぎだろう。
あと当人を無視して勝手にヒートアップするな。
「ではお聞きしますが、貴方は灰猟犬四匹に囲まれて、無傷でその場を切り抜けることが出来ますか? マスミさんにはそれだけの実力があります」
それを聞いてディーンさんを除いた三人がほぅと興味深そうな視線を俺に向けてきた。
こっち見んなし。
「……んなド素人が灰猟犬に勝てる訳ねぇだろ」
「何故見てもいないのに言い切れる。自分達が出来ないからといって、他人も出来ないと決め付けるのはあまりにも狭量だぞ?」
「テメェ……ッ」
ギリッと音が鳴りそうなくらい強く歯を噛み締め、血走った目でミシェルとローリエを睨み付けるチンピラ。
取り巻きの二人もそれぞれの得物―――長柄の大斧と二振りの小剣を構え出す。
緊張感が高まり、一触即発の空気が漂い始める中……。
「いい加減にしろや」
静かながらも凄みのあるローグさんの声がそれらを纏めて吹き散らした。
「仲良くしろとは言わねぇし、ちょっと喧嘩するくらいは大目に見るつもりだがよぉ。そいつはやり過ぎだ。とっとと納めな」
「あんたは引っ込んでてくれ! こいつら―――」
「これ以上やるってんなら……俺も黙ってねぇぞ?」
ローグさんの雰囲気が変わり、その身から漏れ出した闘気に呑まれたチンピラ達が顔を青ざめさせる。
俺とコレットを除いたほとんどの面子が鉄級の中、ローグさんとディーンさんの二人だけが鋼鉄級―――等級・実力ともに格上の冒険者なのだ。
この人とは間違っても争いたくない。
「お前らに面倒見ろとは言わねぇ。だが今日のところはこの二人も拠点で野営する。文句はねぇな?」
「ぐっ……分かったよ」
いかにも不承不承といった様子で吐き捨てるように返事をするチンピラA。
刃傷沙汰に発展しなくてよかった。
コレットも相当緊張していたのか、震えながらか細い息を吐いている
「おい、クソ素人」
「……なんだい?」
憎々しげに俺を呼ぶチンピラ。しつこいってのに。
ほら、ミシェルとローリエも睨まない。
「……背中には気を付けるんだな」
「貴様ぁ! それはどういう―――」
「ストップ」
チンピラに詰め寄ろうとしたミシェルを止める。
だからなんで言われた本人以上にキレてんだよ。
内容だけならば、なんとも三流臭い捨て台詞だと思う。
しかし……。
「ああ、大人しくしておくよ」
発せられる怒気と妙にギラついた眼差しに危険なものを感じた俺は、静かにそう返した。
―――冒険者と魔物。本当に危険なのはどちらなのだろう?
この時の俺は、何故かそんな疑問を抱いていた。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は、金曜日辺りを予定しております。




