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第13話 0円講習プライスレス ~無料がお得とは限らない~

前回のお話……朝風呂最高

「それではこれより講習会を始めたいと思います」


 よろしくお願いしまーす。


「講習の日程は三日間に分けて行われます。初日である本日は、座学を中心に冒険者ギルドの様々な制度についてご説明します」


 よろしくお願いしまーす。


「私は本日の講師を担当させていただく当支部の職員でディーナ=クリミエと申します。皆さん、どうぞよろしくお願いします」


 チェンジでお願いしまーす。

 視線の先には、登録試験の際にも立ち会っていた女性職員ディーナ=クリミエ女史の姿がある。

 試験の際、俺は彼女に対してかなりキツい物言いをしてしまった。

 間違ったことを言ったつもりはないけど、流石にバツが悪い。

 試験を終えてから間もないことあり、今はあまり顔を合わせたい心境ではないのだ。

 今俺が居る場所は、冒険者ギルドの一階にある会議室のような一室。

 幾つかの長机や椅子が並べられており、室内の奥には教卓のようなものが設置されている。

 ディーナ女史はその教卓の所に立っており、俺は比較的離れた席に着いて目立たないように身を小さくしているのだ。

 俺以外にも数人の若者達が適当に着席しているのだが、何故かディーナ女史の視線は、殊更俺の方に向けられているような気がした。

 居心地が悪い。

 彼女が居ると事前に分かっていれば、講習に参加しようだなんて考えなかったのに……。

 何故、俺が今回の講習―――新人冒険者に対する初心者講習会に参加しているのか。

 それは昨日の話だ。

 ミシェルとローリエの爆睡寝坊事件により、午前中は何も―――俺だけは朝風呂を堪能したが―――することが出来なかったので昼食後にギルドへ顔を出すことにした。

 怪我の功名とは違うけど、ギルドから貰った賠償金のおかげで焦って稼ぐ必要は無くなった訳だが……。


「割の良い依頼というのはすぐに無くなってしまうものだからな」


「こまめに顔を出して情報収集しておくことが大切なんです」


 その意見には素直に納得出来たので俺に否やはなかった。

 ギルドの無駄にデカい扉を潜り、一階ロビーにある掲示板へと向かう。

 出遅れた所為か、それとも間もなく午後三時(おやつのじかん)になるからか―――間違いなく前者だろう―――昨日ほど掲示板の前は混雑していなかった。

 掲示板には何枚もの依頼票が貼り付けられており、それらを指差しながら他の冒険者達があーでもないこーでもないと話し合っている。

 俺達もその中に加わり、貼り出された依頼の内容を確認していく。

 生憎まだ俺の読み書きは完璧ではないため、理解出来ない文章も多いのだが、そこはその都度ミシェルとローリエに教えてもらいながら確認するしかなかった。ご面倒をお掛けします。

 やはり一番多いのは魔物の討伐依頼だ。

 それ以外にも捕獲や調査の依頼。

 素材の採取や商隊の護衛。

 果てはドブさらいやゴミ拾い。逃げたペット探しの依頼まで掲示されている。


「冒険者って、本当に何でも屋なんだなぁ」


「まぁ、多種多様な依頼があるのは事実だ」


「他に引き受けてくれるような所もありませんからね」


 それにしたって統一性が無さ過ぎなのでは?

 依頼されたからといって、何でもかんでも引き受ければいいというものでもなかろうに。

 それでいいのか冒険者ギルド。

 無秩序と呼んでも過言ではない依頼の数々に呆れていると「あ、居た。フカミさぁん」と何処からともなく名前を呼ばれた。

 はて俺を呼ぶのは誰だろうかと首を巡らせれば、受付の方でブンブンと手を振っている女性の姿が見える。


「受付さん?」


 それは昨日も俺達の対応をしてくれた三つ編み茶髪の受付嬢だった。

 俺に何か用だろうか?

 今は誰も並んでいないようなので、取り敢えず彼女が着いているカウンターの前へ移動する。


「こんちは。どうかしました?」


「こんにちは。突然お呼び立てしてすみません。フカミさんにお伝えしたいことがあったものですから」


「お伝えしたいこと?」


 昨日の今日でいったいなんだろうか。

 もっと賠償金を出してくれるとか?

 だったら遠慮なくいただくけど。

 ミシェルとローリエも首を傾げている。


「実は明日から三日間、新人冒険者の方に対する講習会が行われるのですが、フカミさんにもご参加していただければと思いまして」


「講習会?」


 何か勉強でもするのだろうか?

 そして講習会と聞いた途端、何故かミシェルとローリエが揃って顔を顰めてしまった。


「新人に対する講習会ってことは、要はこれから冒険者としてやっていく上で必要なイロハを教えてくれるってことですか?」


「簡単に言いますとそうです。それでご都合の方は如何でしょう? 勿論、強制ではないのですが……」


「んー、特に予定はないんですけど……」


 ウチのパーティメンバーが嫌そうな顔をしているのが気になる。


「マスミ、折角の申し出だが、無理に参加する必要はないと思うぞ」


「本当に初歩的なことしかやりませんから。はっきり言って普通に活動していれば自然と覚えたり身に付くことばかりです」


 この様子だと、二人もその講習会とやらに参加したのだろうな。

 彼女達は真面目だからなぁ。

 割と辛辣な二人の言葉を受けて、受付嬢が申し訳なさそうにしている。

 普通ならそんなことはありませんって否定しそうなものだけど、それがないってことは二人の言葉もあながち間違ってはいないということか。

 ……ふむ。


「その講習会って、他にも参加者いるんですか?」


「一応、既に何人かの参加は決定しています。ただ基本は自由参加ですので、三日間全てに参加しなければいけない訳ではありません」


 仮に参加してもぼっちの心配はなさそうだ。

 そして途中で抜けても問題無し、と。


「受講料とかってあるんですか?」


「いいえ、無料です」


「お得ですね」


「お得です」


「じゃあ参加します」


「ありがとうござ……えっ?」「「えっ?」」


 何故そこで驚く?

 ―――とまあ、こんな感じで参加が決定した。

 ミシェルとローリエにはブーブー文句を言われたが、俺にとっては必要なことだから参加したのだ。

 俺はこの異世界について知らないことが余りにも多い。

 異なる世界で生活していたのだから当然だが、今後もこの世界で生きていくのならそうも言ってられない。

 少なくとも日本に帰還する手段が見付からない限りは、異世界(こっち)で生活の基盤を作る他ないのだから。

 まぁ、帰還する手段があったとしても本当に帰るかは分からんけど……。

 兎にも角にも折角知識を得られる機会があるのなら、存分にそれを有効活用しなければなるまい。

 今回の講習会で―――しかも無料で―――学べることが冒険者の基礎に過ぎないとはいえ、今の俺にとって無駄になる知識ではない筈だ。

 そう思っていたのに……。


「ですので、自らの等級に見合った依頼を選ぶのが基本です。如何に報酬額が魅力的であっても―――」


 無駄になりそうだ。というか帰りたい。

 先にも述べた通り、ディーナ女史が同席するのなら参加しようとは考えなかった。

 現在、教卓に着いたディーナ女史が冒険者ギルドの制度やら遵守すべきルールやらについて説明しているのだが、これがまた退屈なのだ。

 おそらく彼女は、教科書に載っている内容をそのまま黒板に書き出すタイプなのだろう。

 要点を絞って上手に教えることが出来ないのだ。

 正直、講師には向いていないと思う。

 俺以外の参加者も退屈そうにしている。

 中には相当イライラしているのか、貧乏揺すりが止まらない少年が一人居る。大丈夫かね?

 俺なりにギルドの遵守するべきルールについて纏めてみた。


 第一条:ギルド内における冒険者同士の私闘を禁ずる。(ギルドに申請し、職員立ち合いの下での決闘についてはその限りではない)


 第二条:冒険者の身分等はギルドに所属することによって認められたものであるため、職員と同等の権限を有するものではない。(悪用した場合はペナルティが科せられる)


 第三条:冒険者はギルドが発令する緊急依頼に対して強制参加する義務がある。(理由なく参加を拒否した場合はペナルティが科せられる)


 第四条:一定期間依頼を受けない又は依頼の失敗が続いた際は、降格又はギルドから除名される可能性がある。(凶悪犯罪等に手を染めた場合は問答無用で除名且つ指名手配される)


 第五条:分からないことは勝手に判断せず、必ず職員に確認すること。


 ざっとこんなところかね。

 最後のに関しては子供かとツッコミたくなるが、これが実は本当なのだ。

 もっと細々としたルールもあるのだが、先に挙げた五箇条さえ覚えておけばなんとかなると思う。

 そもそも細か過ぎて誰も覚え切れないだろう。


「……ねむ」


 欠伸を噛み殺しながら、他の受講者の様子を見てみる。

 俺と同じように眠気と戦っている者。退屈そうに頬杖をついている者。最早完全にそっぽを向いて話を聞いていない者。

 そして変わらず貧乏揺すりを繰り返している少年一名。本当に大丈夫か?


「おや?」


 室内前方。教卓に程近い席に着いている小柄な―――小柄過ぎる少女。その後ろ姿には見覚えがあった。

 確か名前はコレット。

 小さな子供のような体躯をした小人族(リリパット)の少女。

 あの子も参加していたのか。

 別に知り合いという訳でもないが、同じ日に試験を受けた者同士というだけでも、なんとなく他の参加者より親近感を覚えるものだ。


「―――そのため、昇格の査定には個人の人格についても……聞いているのですか、フカミさん」


 学校の先生にも言えることだが、何故あの手の人達はこちらが余所見した瞬間を見逃さないのだろう。

 そして何故俺だけ名指しするのか。

 他にも話聞いとらん奴おるやんけ。


「聞いてますよ」


「では私が今説明していた内容について、フカミさんから皆さんに改めて説明をお願いします」


 どうしてあんたはそこまで俺を目の敵にするの?

 最早ただの嫌がらせである。

 大人なんだから仕事に私情を持ち込むなよ。

 昨日の試験では色々あったかもしれんが、それについてはお互い様なので水に流していただきたい。

 面倒臭いなぁと内心でぼやきつつ、先程までディーナ女史が説明していた内容を思い返す。


「えーっと……冒険者の等級は全部で十段階。下から順に銅、鉄、鋼鉄、白銀、黄金、宝石、魔鉄、凍銀(とうぎん)辰金(しんきん)真精銀(ミスリル)。この内、銅と鉄を除く等級への昇格については、必ず昇格試験と面接による審査が実施される」


「……続けて下さい」


「昇格に必要なのは依頼の達成数だけではなく、その依頼達成による社会やギルドへの貢献度。実力、経験、知識、知力。更には個人の人格も査定の対象となる……こんなところですか?」


「……充分です。ありがとうございます」


 ありがとうと言う割りに、その口振りからは感謝の念など微塵も感じられなかった。

 むしろ若干悔しそうですらある。

 子供じゃあるまいし、イイ歳した大人がそのような態度を取るのは如何なものかと思う。

 昨日見た時のクールビューティーっぷりは何処に置き忘れてきたのやら。

 そして他の受講者達よ、何故全員目を丸くしている。

 俺が答えられたのがそんなにも意外か?

 異世界の若者達は、目上の人間に対して本当に失礼だ。

 そして貧乏揺すりが止まらない少年よ。お前は今すぐ病院に行ってこい

 これはなんとも……。


「やり辛いなぁ」


 こうして初心者講習会初日は―――俺にとって―――ギスギスとした重苦しい空気のまま終了したのだ

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