六十三話 闇堕ち魔法少女
九日目。光葵と綾島はカイザーと比賀探し、併せて索敵をしていた。
守護センサーが〝洲台採石場跡地〟で反応する。反応は二人だ。カイザー、比賀さん……安堵感が心の底から湧く。しかし、向かった先にいたのは別人だった……。
「会いたかったぞ。貴様らは俺の手で殺さねば気が済まない……!」至王が殺意を露にする。
「日下部だったな……。お前は俺が殺す」志之崎は短く、ただ殺意を吐き出す。
「侍、至王……! 俺も会いたかったぞ……。ぶっ倒してやる……!」光葵に怒りが込み上げる。
「……日下部君。至王は私にヤラせて。確実に殺す……」綾島の瞳はどす黒い光で光葵を捉える。
「綾島さん、二人で戦おう」そう言った直後に超高速で志之崎が光葵に突っ込んでくる。
「日下部……! お前は俺が相手だ! 至王!」志之崎が叫ぶ。
「分かっている。《刻印魔法×結界魔法――刻印結界、堅牢の陣》」至王が素早く詠唱を終える。すると、光葵と志之崎は十メートル四方の結界に閉じ込められる。
クソッ、綾島さんと分断された……。
◇◇◇
「人使いの荒い男だ……。高速の結界展開は消費マナが格段に増えるというのに……。まあいい。俺を殺すと言っていたな。この前まで仲間に守ってもらうことしかできなかった貴様にできればいいな……」至王は顎を上げ綾島を見下す。
「私は弱い……。だから変わる必要があった。私は『闇に堕ちた魔法少女』でいい。大切な人の仇が取れるなら……!」文字通り、闇に堕ちたような表情で至王をただ見据える。
「フハハハ! 弱さを認めた上で挑むか。来い、闇堕ち魔女! 魔女狩りしてやるよ……!」
綾島は一瞬目を閉じ魔法を発動する。「《光魔法――覚醒の光明、思考浄化》……」
《覚醒の光明》で知覚力、感覚を目醒めさせ、かつ《思考浄化》で雑念を浄化し〝戦闘特化の思考回路〟を構築する。綾島の思考はただ一つ……目の前の仇敵を殺すことだけ……。
「《光魔法――光速移動》……」一気に至王の近くまで移動する。
「《刻印魔法――全能力強制上昇》《分身魔法――十》」至王は全能力を上昇した上で、十人に分身する。
次の瞬間、至王の分身達が次々と霧散していく……。
《思考浄化》した綾島が反射的に《穿ち光線、破邪の矢、破邪の光輪》で的確に一切の隙無く消し去ったのだ。
「貴様……。この十日程で何があった……?」至王は同一人物とは思えないといった、驚嘆の表情で質問を投げかける。
綾島は一切答えず、至王本体に攻撃を入れようとする。
「なめるな! 《刻印魔法×雷火砲――刻印雷火》……!」至王は声を上げ《刻印雷火》を放つ。
しかし、綾島は既にいない。
「《光魔法――破邪の鉄拳》……」綾島の拳が至王の顔面にめり込む。
そして至王が殴り飛ばされ数メートル吹き飛ぶ間に、綾島は至王の〝真横〟に移動する。
「刻……」至王は詠唱しようとしているようだ。
「《光魔法――破邪の鉄拳》!」再度綾島は至王を殴り飛ばす。鮮血が舞う。その鮮血が地面に落ちる前に次の一撃を入れる。
「ゴハッ」至王の唸り声が上がる。至王は反撃すらままならないようだ。
その間に綾島は九連撃の《破邪の鉄拳》をぶつける。
「《刻印魔法×結界魔法――体内展開、重ね掛け全能力強化》……」至王が微かに詠唱しているのが聞こえる。
「《刻印魔法×雷火砲――刻印雷火》……!」至王は《破邪の鉄拳》に刻印雷火をぶつけてくる。結果、至王は連撃から脱する。
「ゴハッゴハッ……。貴様『心』を捨てたか?」至王は血を地面に吐き捨てながら問う。
「殺す……みんな……仇」綾島は壊れたロボットのように呟く。
「極限まで全能力を強化した。貴様と俺どちらが上か決めるぞ……!」




