六十話 比賀とカイザー
同日。カイザーと比賀は岩山で修行をしていた。
「比賀、いい線までいっているぞ。実戦でも使えるのではないか?」カイザーが声を出す。
「そうか? それは嬉しい話だな。でも、すまない。私の魔法の修行に一週間も付き合わせてしまって。魔眼で確認し、アドバイスをもらいながらの修行が必要だったとはいえ、私とばかりの修行で不都合はなかったか?」比賀は気にした様子で尋ねる。
「一向に構わんぞ。我も高めたかった魔法を修得できたしな。それに、比賀の考えた魔法はかなり強力だと思う。仲間が強くなることに力を貸すのは当然だ」カイザーは意に介していない様子だ。
「フッ。そう言ってくれると助かる。しかし、あんたを見てると昔を思い出すな……」
「昔……? 我に似た良き知人でもいたのか?」カイザーは真顔で質問する。
「フフッ。そういう軽口を叩くところも似てるかもな……。私には弟がいたんだ。あんたと同じでクソ生意気なガキだったよ……」比賀はどこか茶化したような口調で話す。
「汝……我を馬鹿にしてないか? 全く……。それより『いた』というのは……?」
「……私が元刑事だって話は前にしたよな。私は『犯罪者が人一倍許せない』んだ。弟はちょうど、あんたと同じ中学二年の時、武装したテロリストに目の前で殺された……」
「なっ……」カイザーは言葉を失う。
「私は当時高校生。自分の無力を恨んだよ……。同時に、テロリストや犯罪者に対する憎しみが『心、魂』から溢れ出し続けた……」比賀の目に強い怒りと悲しみが宿っていく。
「……では、その一件があり刑事を志したということか?」カイザーも悲しい表情で尋ねる。
「そうだ……。私は『この世界から犯罪を無くしたい』だから、刑事になった。でも、そんなことは不可能だと分かったよ。犯罪者はいくら逮捕しても現れる。私にしたら、地獄のいたちごっこだった……。それでも、少しでも救われる人がいると信じ、仕事を続けてきた……。最終的には、行き過ぎた捜査で上層部と揉めて辞めちまったけどね……」
「そうだったのか……。比賀、もしやこの代理戦争に参加したのも……」
「ああ……。私は代理戦争を勝ち抜いて『犯罪の無い世界』を創りたい」比賀の表情は真剣だ。そうすることが弟の生きた証を証明すると思うからだ……。
「比賀……。汝の覚悟しかと受け取ったぞ。我が汝の盾となり矛となろう……」
「ガキ……。ありがとな。あと、重い話をしてしまってすまない。……それと、前から気になってたんだが、その話し方はキャラ設定か何かなのか?」比賀は急に違う話題を振る。
「ん……? 何を無礼なことを言っている!」カイザーは怒りの声を上げ、数秒間押し黙る。
そして、声のトーンが元に戻る。「いや、その通りかもな……。比賀は私立洲台学園中学を知っているか?」
「知ってるよ。県内トップの進学校だろ?」
「うむ。我はその中で学力トップファイブなんだ。昔から頭が良かった。親も教師もそんな我に『良い成績』を取ること『良い生徒』であることを望んだ。我からすれば『強要』されていたような感覚だがな。我は周りからがんじがらめにされた生き方はしたくなかった……」
「頭が良いのはいいことだろ。てか、ちょっと腹立つわ。でもまだ中二だろ? そんなに気にしないでいい気もするけどな。でも、あんたが言いたい気持ちは何となく分かるよ……」
「そうかもな。……我は『何者かになりたかった』だから、昔から好きだったダークヒーロー『カイザーキング』の真似をした。話し方から見た目、考え方までな。すると不思議と『自分という軸』を持てた気がした。たとえ借り物の張りぼてだとしてもな……」
「あんた随分色々考えて生きてんだね。正直驚いたよ。でもいいんじゃないか? たとえ張りぼてでも、それを貫けば何者かにはなれるだろ? それに真似から入るのなんて、仕事でも何でも同じだ。そこから自分らしさを見つければいい」比賀は思ったことをそのまま伝える。
「フフッ……。比賀の言う通りだな。汝に話して気が楽になった。ありがとう。さて、修行を再開するか。皆を守れるくらい強くなるためには『比賀の新技』の完成が必須だ」
「そうだな。ガキのことも守ってやるよ。私はこれ以上大事なものを失いたくはないからな」
「ああ、頼りにしているぞ。…………なんだ……? 何か違和感を感じる……」カイザーは魔眼を頼りに周囲を見渡す。
「比賀! 上だ! 岩石と大量の水が落ちてきている!」
「何……? まずいな。ガキ、近くに来いワープする!」比賀がカイザーの背中に手をつき片目を隠す。百メートル程離れた場所に移動する。
「我が魔眼で気づけなかったか。いや、魔眼の感知範囲に入らないように上に登ったのか?」
「分からない。だが敵がいるんだろうな。上に登るか?」
「そうだな。高所からの攻撃を繰り返されると不利だろうしな」カイザーが同意する。




