五十三話 メフィの過去
(急にすまないな。バロンスの指示により、伝えることがある)メフィが話し出す。
(いえいえ。何ですか?)光葵はメフィから話があることは珍しいな、と思いつつ返答する。
(生き残っている守護天使、悪魔サイドの人数。そして魔法を使う介入者の人数を開示するように指示された。天使サイドは残り五人、今君達がチームを組んでいる者達だな。介入者は一人、南城朱音のみだ。なお、名前等に関しては所属するサイドの者にしか開示されない)メフィは淡々と説明する。
(天使サイドで生き残ってるのは俺達だけ。つまり半数は敗北しているということか……)
(続いて悪魔サイドだが。残り四人だ。……現状優勢ではあるな)
残り四人……。知っている敵だけで、美鈴、志之崎、至王、清宮だ……。
(あと、もう一つ伝えたいことがある。私の固有魔法に関することだ)メフィは静かに話す。
(メフィさんの固有魔法……僕達が理解できるようになったのでしょうか?)影慈が尋ねる。
(うむ。今までの魔法の扱い……特に〝想像的生成〟を成功させたことには驚いた。固有魔法の理解、運用も修行次第では可能と判断した)メフィは少しばかり嬉しそうに話す。
(よかった……。でも一体どんな魔法なんですか?)影慈は気になる様子で聞く。
(名前は《理の反転》というものだ。そして〝禁忌魔法〟でもある)
(禁忌魔法? それってどういう……?)光葵は思わず言葉になる。
(〝この世の理に反する魔法〟ということだ。まず、どういう魔法か説明させて欲しい……。この魔法は一言で表すと〝理、道理を反転させて状態を逆にする魔法〟だ。また、魔法使用時には〝手で直接触れる〟必要がある)
(難しそうな魔法だな……。具体的な使い方を教えてもらえませんか?)光葵は尋ねる。
(もちろん伝える。《理の反転》の使用方法は主に三つだ。一つ、自分の回復。二つ、相手が全快状態に近いなら致死的ダメージを与えられる。三つ、敵の攻撃に使用し〝攻撃の意思〟を反転させて〝回復の魔法〟に変換できる。ただし、逆もまた然りだ)
(え~と、つまり一つ目の自分の回復は〝ダメージを相当負っている時〟に自分に使用してダメージの状態を逆転させられる……。分かりやすくゲーム風に言えば、減ってしまったHPと、今残っているHPを〝逆〟にして〝結果的に回復できる〟感じですか?)影慈が頭を捻りながら確認する。
(そのイメージで良い。ちなみに、減ってしまった顕在マナと、今残っている顕在マナも〝逆〟になる)
(なるほど……。ゲームでいう、HP、MPが別個で、逆になるイメージですね……。二つ目の使用方法はさっき言ってたことの応用ですね。HPとMPが多い状態の敵に《理の反転》を使用し、一気に瀕死状態まで追い込める……)影慈がまとめる。
(それって、めちゃくちゃ強くないか……?)光葵は思わず口を挟む。
(そうだね。めちゃくちゃ強いと思う。やっぱり、それ相応の弱点があるんですか?)
(ああ。三つ目の使用方法も場合によっては弱点だ。〝敵の攻撃の意思〟を反転させて〝回復の魔法〟に変換できるが、逆に〝回復魔法〟をこちらに放たれてそこに《理の反転》を使用すると、その分のダメージを受けることになる。攻撃に織り交ぜられた場合などに注意がいる)
(なるほど……)光葵と影慈は同時に声を出す。
(更に《理の反転》の弱点を二つ伝える。一つ、発動までの溜めが短いと〝使用するマナの量が格段に増える〟。二つ、〝短い期間に連続使用〟すると、だんだんと〝綻び〟が生じる。ゲームの話でいうHPとMPを逆転させることができるが、その逆転幅に〝ムラ〟が出てくるんだ。そもそも、エネルギー、マナの法則を無視した禁忌魔法だからな。使用を続けることで、その分綻びは大きくなっていく)メフィは先程の影慈の例えも交えて説明したようだ。
(分かりました。使用するマナもやはり多いですか?)影慈が気になった箇所を質問する。
(鍛錬次第ではあるが、溜め無しで使った場合、今の君達の顕在マナなら三分の二は使うだろうな……。だが溜めの時間が伸びるにつれ、かなりマナは節約できる。戦闘を想定して五秒間《理の反転》にだけ集中した場合だと、顕在マナの四分の一程度で発動できるだろう……)
(やっぱり、強力な魔法だけあってマナの消費、発動に関する条件なども考慮する点が多いですね)影慈が難しそうな顔をしながら呟く。
(そういえば〝禁忌魔法〟ってメフィさん言ってたけど、何でそんな魔法使えるんですか?)光葵は単純に気になった点を質問する。
(……君達とは契約した仲だ。話しても良いか……。私の昔話になるが良いか?)
(大丈夫! 逆に色々気になってた部分でもあるし……)光葵は素直に答える。
(私が禁忌魔法《理の反転》を会得した理由は、五〇〇年続いた天使族対悪魔族の戦争で死んだ師匠を生き返らせたかったからだ……。最終的に戦争は天使族長と悪魔族長が話し合い停戦することとなった。その代わり、星の代理戦争にて〝人間族に代理〟で戦ってもらうことになったのだがね。コレは本来なら君達に言うべきではない情報だが、この際だから伝えておく。星の代理戦争は停戦以降、百年に一度行われている。今回で四度目になるんだ)
(聞いておいて言うことじゃないけど、そんな壮大な話だったのか……)光葵は思わず圧倒される。
(代理戦争の〝詳細〟は基本的に人間には知らせないからな。他言無用だぞ。他の者に話せばその時点で記憶やマナの知覚などの情報が消され、場合によっては死ぬことになるからな)
(わ、分かった。……それで師匠は生き返らせれたのか?)光葵は正直ここが一番気になる。
(結論から言うと師匠は生き返らせれた。だが、先に言っておく。この魔法を使っても若菜や仲間を生き返らせることはできない……。なぜなら、エネルギー、マナの法則を無視した禁忌魔法であり、本来なら死者蘇生はできてはいけないことなんだ……)メフィは悲しげに呟く。
(……そっか。そうだよな。メフィさんの話を聞いて、正直もしかしたらって思った。でもそんな都合のいい話無いよな……)
天から降りてきた一筋の糸がぷつん、と切れた感覚になる。
(落胆させてしまったならすまない。先に言っておく方が良いと思ってな……)
(いや、いいんだ。俺が勝手に思ってしまったことだから。それで、話の続きは?)
(私は師匠をコールドスリープできるように氷魔法を応用した装置を作った。そして、二〇〇年かけて様々な魔法や現象を学び、死者蘇生の手段を模索した。その過程の副産物として、基礎魔法は闇魔法以外全て使えるようになった。最終的に辿り着いたのが《理の反転》だった。自分でも死者蘇生は不可能とは思っていた……。それでも師匠には返しきれない恩義がある。縋るように《理の反転》を発動したよ。すると、どういう因果か師匠は息を吹き返した。師匠は怒っていたよ。マナの法則を無視することは禁忌だと。でも同時に泣いて抱きついてくれた……。私にはそれだけで十分だった……)メフィはその光景を思い出したのか少し微笑む。
(二〇〇年……。途方もない歳月ですね……。今師匠は元気なんですか?)影慈が質問する。
(生きてはいる……。だが、私と師匠の穏やかな時間はあっという間に終わりを告げた。マナの法則を無視した結果、マナの輪廻に綻びが生じたんだ。それに気づいたバロンス、天使達に捕まった。そして、師匠は牢獄に囚われた。私は天使位階を剝奪され、最も低い階級未満の〝堕天使〟まで堕とされた。結果、一番得意だった《光魔法》は奪われ、代わりに堕天したことで《闇魔法》が使えるようになっていた……)
(なっ……! 折角師匠が生き返ったのに、そんな仕打ち……)光葵は思わず声が大きくなる。
(それは仕方のないことだ。禁忌破りは大罪だ。私も師匠も本来なら存在ごと消されてもおかしくなかった。悪魔族との五〇〇年戦争での師匠と私の功績への温情だと言われている)
(でもよ……。そんな悲しい話あるかよ……)思わず声が震える。
(光葵……。私は諦めた訳じゃないぞ。禁忌破りレベルの大罪は〝バロンス〟が最終裁定権を持っている。既に師匠は牢の中だが、私がバロンスとなれば外に出られるようにする。何があってもだ……! 師匠の今までの功績、牢獄に百年入っていることを考えれば不可能ではないはずだ……)メフィは今まで聞いたことがない野心に燃える声を発する。
(はは……。メフィさん意外と強引に考えるんですね。叶えましょう。その野望……!)
(だね! 僕達は負けるつもりはない。一緒に師匠を助けましょう!)影慈も同意する。
(……フフッ。そんな言葉が聞けるとはな。君達と契約できて良かったよ……)メフィは微笑む。




