三十話 思わぬ出会い
翌日は昔から好きでよく来ていた自然の多い公園に行った。ここに来ると心が落ち着く。
しばらく、何も考えずにぼーっとする。気持ちの整理もついてきた。そろそろアジトに戻らないとな。頂川達にもこれ以上心配はかけられない……。
そう考えていると、思いもよらぬ人物が走ってきた。華やかな赤い髪に目鼻立ちが整った少女だ。
「光葵、探したよ! 学校にも来てないし。その……事件のこともあったし……心配したんだよ。光葵のお家に連絡したら『旅に出た』って聞いたから居ても立ってもいられなくて……」朱音が切なげに言葉を紡ぐ。
「朱音、すまん。俺も心の整理がつかなくてさ……」光葵は俯きつつ答える。
「ううん、いいの。こうして会えたし! というか、ごめん。心の整理つけるために一人旅がしたかったんだよね。お邪魔してるとしたら申し訳ないな」朱音は少し顔を赤らめつつ頭をかく。
「いや、むしろ、わざわざ探してくれてありがとな。でも、なんでここにいるって分かったんだ?」
「あ~それは小学生の時、光葵がここの公園好きで、私が落ち込んでる時に連れて来てくれたじゃん? だからもしかしたら、ここにいるかもって思ってさ」朱音は優しく微笑む。
「ああ~、たしかに。そんなことあったな。てかよく憶えてたな」素直に驚く。
「私にとっては結構思い出深いからね~。運動苦手で運動会で迷惑かけちゃってたから、よく憶えてるんだ! あと、光葵が意外と気遣える人なんだって知れたし!」
「いやいや、俺は気遣いできる男だぞ」少しばかり微笑む。
その直後守護センサーが反応する……! どっちサイドの参加者だ? 場合によっては朱音を避難させないと……。五十メートル圏内であり、見知った顔のため〝敵〟だと気づける。
ブラッドオレンジでオールバック、背の高い男がこちらに向かってきている。
「朱音、急でごめん。あのブラッドオレンジの男と逆方向に逃げてくれ」早口で伝える。
「え? 何どういうこと?」朱音が急な話で困惑しているのが分かる。
「今は説明してる暇がない。とにかく走ってくれ!」
光葵の真剣な表情を見て、決心したのか朱音は走り出す。
「日下部だったか? この前は世話になったなぁ」鷹のように鋭い眼光が光る。
「伊欲……! こちらこそ、随分世話になったな。前の仲間はいないのか?」
「ずっと一緒に行動してる訳じゃねぇからよ。それよりお前はよかったのか? 連れを別方向に向かわせたみてぇだが……。お前の女か……?」鋭く朱音を捉えている。
「関係ない一般人だよ。少し話してただけでな」内心焦りが生まれる……。
「へ~そうかよ!」
そう言い、伊欲は魔石を複数光葵に向かって投擲する。魔石が一気に炸裂する。
プロテクトで防ぎつつ《闇魔法》で伊欲の視界を遮る。
「闇魔法か。クハハ、やっぱお前の関係者なんじゃねぇか。ご丁寧に視界遮るんだからよ!」
「今は目の前の俺に集中した方が身のためだと思うけどな……!」殺気を伊欲に放つ。
「ああ……そうだなぁ!」そう言い、伊欲は服のポケットから〝二つ折りの紐〟を取り出す。
(みっちゃん! あれ多分、投石紐っていう武器だ。真ん中に石をセットできる部分があってそこに石を乗せて、頭上で振り回すか、身体の側面で振り回して投擲するんだ。〝回転速度〟を投擲のエネルギーに変えれるから、かなりの速度が出るって聞いたことある)
影慈の言った通り、伊欲は〝魔石〟をセットし頭上で振り回し始める。
「清宮さんがよぉ、言ってた案はいいな! スリングなんかの〝原始武器〟は魔石との相性がいいぜ! 《風魔法――高速移動》……!」
凄まじい速さで闇魔法の範囲を抜け、魔石を朱音へ投擲する
――瞬時に光葵は〝氷壁〟を創出し放たれた魔石を防ぐ。爆音が鳴り響く。
「クハハ! いいな、お前の《氷魔法》前から欲しかったんだよ」伊欲は獲物を狙う目つきになる。
「お前、無関係な人間巻き込むことに何の抵抗もないのか……?」
「あ? 無関係じゃねぇだろ。お前とさっきまで話してた。少なくとも顔見知り程度にはなってる。そいつを狙うことでお前の隙を作る。何ならあの女も参加者の可能性もある」
「その考えにすぐ至れるのはすげぇな。勝つための執念もな……。だが俺が止める」
「そうかよ……。俺流のやり方で戦わせてもらうぜ……!」伊欲の瞳に一筋の光が奔る。
伊欲は朱音を狙い《高速移動》で突き進む。
「速い……!」
光葵は速さで負けている……。更に魔石による炸裂で牽制も入れてくる。
――(悪い影慈、お前を頼ることが多くて……)
(何言ってるの、みっちゃん。僕達は二心同体。それにみんなを守って必ず生き抜くって決めたじゃん。いくよ)
――〝人格共存〟左右の瞳は琥珀色、陰のある黒へと変わる――。
「もう止まって! 《合成魔法》《氷魔法×風魔法――氷刃》……!」広範囲の氷の刃が伊欲を包む。
「ちっ、いい技だよなぁ!」赤い魔石が四方に撒かれ炸裂し、氷刃がかき消される。
「でも、追い付いたよ」高速で氷の槍を光葵と伊欲の周りに創出する。
「《氷魔法――アイスグローブ》! 殴り合いしようか……」《風魔法》も使い速力を上げ、一気に距離を詰める。
「なかなか機転が利くな。スリング、魔石での中距離攻撃を防ぎつつ近接戦に持ち込むか」
伊欲は近接戦も強かったが、光葵の方が速く、重い攻撃を繰り出す。
そして、伊欲の顔面に一撃が入る。
「ゴハッ! なかなかやるじゃねぇか……」
ふらついた隙を狙いもう一撃を叩き込む――その刹那、無造作に光葵の左胸付近に伊欲の拳が突き立てられる。
次の瞬間に爆炎が発生し吹き飛ばされる。ぶつかった氷の槍が割れる音が響く……。
「お前強くなったな……。前とは違って『殺す気』できてるのが分かるぜ……。何とか隙を利用して当てれてよかったぜ」伊欲は薄い笑みを浮かべる。
「色々あって、俺は変わったからな……。その技、前に使ってた《魔石放射》か。今回は火属性魔法を放射したのか……」光葵は分析した内容を話す。
「クハハ、しかも冷静か……。いいね、お前の魔法更に欲しくなったぜ」
伊欲はスリングを振り回しつつ、空いている片手には魔石を持つ。近中距離に対応できる構えだ。
「お前も相当強いな……」
光葵が次の攻撃の一手を考えている途中で目に映る人物がいた――朱音だ……。心配そうにこちらを見ている。
伊欲はその視線を見逃さなかった……! 振り返りざまにスリングから魔石が投擲される。
「待てっ!」光葵は氷柱を伊欲の足元から二メートル程創出する。魔石は朱音の頭上を通過し、奥の木を爆破した。「朱音! 今すぐ逃げろ!」
「光葵、これ……一体?」心から心配して戻ってきたのだろう。だが今は逃げてくれ……!
「嬢ちゃん、ここは危ないぜ。まあ、俺にとっちゃ僥倖だがな」伊欲の獲物を狙う瞳に力がこもる。
光葵はすぐに朱音の前に躍り込む。闇魔法、プロテクトで周辺を覆い、防御壁とする。
そこへ容赦なく魔石が大量に投げ込まれる。地響きを立てて魔石の炸裂が何度も起こる……。
「ゼェゼェ……。朱音……俺が時間稼ぐから逃げろ……」防御でマナが相当消費される。
「光葵、ごめん……。すごい音がして、つい戻ってきて……」朱音は涙を浮かべている。
「朱音は何も悪くない。逆に巻き込んでごめんな。今日のことは忘れろ」
「お別れの言葉は済んだか?」伊欲は軽い口調だが、決して油断はしていない目つきだ。
「朱音には手を出すな……! 俺が相手だ……!」
「クハハ、かっこいいなぁ。まるで正義の味方だ。来いよヒーロー」伊欲は短く手招きする。
闇魔法を広範囲に展開し、氷魔法で中距離攻撃、防御を行う。
対して、伊欲はスリングで朱音を狙いつつ、光葵には魔石と《風魔法》の刃を放つ。幾度となく、爆音が響く……。
「天晴れだぜ、日下部。こんだけ攻撃仕掛けたのに、全部防御して嬢ちゃん逃がすとはよぉ」
「はは……。こっからが勝負所だろ……」光葵はふらつきつつ答える。
「クハハハハ! いいねぇヒーロー……すぐにあの世に送ってやるよ……!」
視界がぼやける……。マナを一気に使い過ぎたか……。だが、まだ終わってない……!
再度、スリング、魔石、風魔法の〝三重攻撃〟が襲い掛かる。自分の周りに限定した、闇魔法と氷魔法を使った防御を行う……。マナが、体力が底をつきそうだ……。
「ここまでだなヒーロー。あばよ……!」無慈悲に魔石が投げ込まれる。炸裂音が響く――。




