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第11話 補給戦線異常あり

「いや本当にごめんなさい……」


 なぎさの表情がムッとしたまま治らない。

 その原因がシオンのデリカシーの欠片もない言葉なのは言うまでもないだろう。


「もう! 聞こえないフリとかしてくれてもよかったじゃない!」

「返す言葉もございません……」


 なぎさからジトっと湿った視線を向けられたシオンは、すっかり小さくなってしまっていた。

 殴らせろと言われたら、自ら右の頬を差し出していたことだろう。

 そして殴られたら次は左の頬を差し出すのだ。


 念のため付け加えておくが、シオンはマゾという訳ではない。

 あくまで誠意を見せるためだ。

 決して包容力のある美人なお姉さんに虐められたいとか、そういう癖があるわけではない、本当に。


「はぁ……一応聞くけど、私に意地悪しようとして言ったわけじゃないのよね?」

「それは間違いなく──一重に己の不徳の致すところでございます」

「分かった、それなら許してあげる……でも次はないわよ?」


 言い訳せずに誠心誠意己の非を認め続けたことが効いたのだろうか。

 なぎさはようやっと矛を収め、シオンを許した。


「許してあげるけど、責任は取ってもらうから」

「責任……とは?」

「そう、私のお腹の音を聞いたのだから、責任取って何か夜食を作ってちょうだい」


 なるほど筋は通っている、シオンは納得した。

 

「どんなのが食べたいんです?」

「そうね……美味しくてこの時間に食べても太らなくて、なおかつ──」

「お酒に合うもの、とか?」

「合ってるけど、先読みされると癪ね。私ってそんなに単純かしら?」

「あ、偶然じゃぁ、ないっすかねぇ?」


(ある分野に限って言えばそうです)


 同じ間違いを二度犯すようなシオンではなかった。

 自分が口にしようとしている言葉が危ないと勘づくや、すぐに言葉を引っ込めて飲み込むことに成功した。

 その甲斐あって、なぎさからは訝し気な視線を送られるだけで済んだのだった。


★ ★ ★



 なぎさと共にキッチンへ向かったシオンは、ひとまず冷蔵庫を確認することにしたのだが──


「なんじゃこれ……」


 冷蔵庫に入っていたものと言えば、最低限の肉と野菜──そして最近発売されたViBESというエナジードリンク各種フレーバーだった。

 エナジードリンクだけで10種類近くはあるだろうか、市販されているフレーバーを網羅しているようだった。

 他の飲食物に比べて充実ぶりが桁違いだ。


「これはね、スポンサーのViBES様からいただいたのよ」

「なるほど……それで」


 プロゲーミングチームにはスポンサーがついていることが多い。

 これは他のスポーツと同様だ。

 提携先の企業から様々な支援を受ける対価として、チームユニフォームに企業のロゴを盛り込んで試合に臨み広告塔になるのだ。


 スポンサーに手を挙げる企業はPCデバイスを販売する企業からアパレルブランドまで幅広い。

 その中でもエナジードリンクを取り扱う企業は、プロゲーミングチームにとってはお得意様だ。

 実際に多くのプロゲーミングチームがスポンサードを受けている。

 『アテナ・ゲーミング』もそのひとつなのだろうとシオンは理解した。


「今の所スポンサーはViBES様だけだけど、アルスナリーグ参戦が正式に発表されたら頑張って営業をかけて増やすつもりよ」

「なるほど──俺はその辺りはからっきしなので、力になれそうにないですね……」

「大丈夫、シオンくんはコーチングをしっかりして──たまに美味しい夜食を作ってくれたらそれで充分よ」

「サラッと公私混同しましたよね? 今?」


 なぎさの夜食作りが正式に仕事リストに加わる日も近いのかもしれない。

 晩酌の付き合いまで仕事に入れられないように死守しよう──シオンはそう誓った。


 冷蔵庫の中から使えそうな食材を取り出して、調理開始。

 鳥のささみが残っていたので、これをメインに簡単なおつまみを作ろうとシオンが考えていると──


「ねぇ、何してるの?」


 キッチンの入り口からひょっこりと、あおいが顔を覗かせていた。

 髪が湿っているのを見るに風呂上がりなのだろう。

 シオンにとって幸運だったのは、あおいが起き抜けのロッキーのように隙だらけの姿を晒していなかったことだ。

 私服より更にも増してカジュアルな薄着姿だったが、隠すべき所はしっかりと隠されているので目に入れても毒にはならない。


「シオンくんが美味しくてヘルシーな夜食を作ってくれてるの」

「え、ズルい。コーチの手料理ってこと? 食べたいんだけど──私も」

「何となくこうなる気はしてたよ……」


 ゲーミングハウスは共有部分が多い。

 夜食を作ることになった時点で、誰かしら目ざとい奴が嗅ぎつけてくるだろうと──シオンは思ってはいたが、何というか悪い予感ほどよく当たるものである。


「あおい、他に夜食を食いたいやつはいないか確認してきてくれないか?」

「りょーかい、ちょっと待ってて」


 程なくして、あおいに引き連れられて選手たち──全員がキッチンへと流れ込んできた。

 シオンは6人分の夜食を作りながら、これからは言動に気を付けようと誓いを新たにするのだった。

選手モデルのPCって値段の割に性能微妙なことが多かったりする……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これが料理初振る舞いかな、、、? 次話の展開が楽しみです [一言] 更新お待ちしております!
2023/01/11 10:42 退会済み
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