ep.68 精霊との約束
朝、畑に出ると、石が三つ並んでいた。
昨日は二つだった。
今日の分が、そっと加えられている。
「……おはよう。今日も、よろしくな」
孝平は、石の前に干し実を置いた。
すると、足元の土が、ほんの少しだけやわらかくなった。
「……受け取った、ってことか」
「精霊さんたち、けっこう律儀なんだよ~♪」
ミミルが、パンをかじりながら言った。
「“もらったら返す”って、ちゃんと覚えてるの~」
「……じゃあ、こっちも返さなきゃな」
孝平は、畑の隅に小さな棚を作った。
干し実、焼きパン、木の札。
暮らしの中で余ったものを、そっと並べていく。
「“おすそわけ棚”って感じかな」
その日の夕方。
焚き火のそばに、葉っぱが一枚、きれいに折られて置かれていた。
「……これ、昨日のパンの返礼?」
「うんうん! 光の精霊さん、気に入ったみたい~♪」
ミミルが、しっぽでぱたぱたと◎を描く。
「精霊さんたち、言葉は使わないけど、
“約束”はちゃんと守るの~」
「……じゃあ、俺も守らないとな」
孝平は、葉っぱをそっと拾い上げ、棚の上に飾った。
「これは、俺の“ありがとう”だ」
夜。
孝平は、畑の端に杭を立てた。
そこには、木の札がくくりつけられている。
──精霊たちへ:ここは、共に暮らす場所です
風が吹いた。
葉が揺れ、土がふわりと香った。
ぽぷらんが、しっぽで◎を描いた。
その輪の中に、静かな火が灯っていた。
今回は、孝平と島の精霊たちが“約束”を交わす回でした。
言葉のない対話。
でも、確かに伝わる気配と応え。
それを信じて、孝平は“おすそわけ棚”を作り、
精霊たちは“返礼”というかたちで応えました。
この島は、ただの土地じゃない。
暮らしの中で、少しずつ“関係”が育っていく場所です。
次回は、精霊たちの“気まぐれな贈り物”が届きます。
それが、火の輪の暮らしに、ちょっとした変化をもたらすかもしれません。
それじゃ、また火のそばで。




