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クラフトアルケミストの異世界素材録  作者: ねこちぁん


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ep.66 火のあと、土のまにまに

朝の光が、島の土をやさしく撫でていた。

昨日までの喧騒が嘘みたいに、静かだ。

風も、波も、ぽぷらんも、今日はおとなしい。


孝平は、ひとりで畑に立っていた。

鍬を握る手に、ほんの少しだけ力が入る。


「……さて。こっちは、こっちの火を守らないとな」


土はまだ冷たい。

でも、昨日までの“誰かの足音”が、ちゃんと残ってる。

咲姫が笑って走った跡。ナギが転びかけた場所。

ぽぷらんが◎を描いた、あの小さな丘。


「……よし。まずは、畝を増やそう」


鍬を振るたびに、土が応える。

ぽふっ、ぽふっ、と。

まるで「おかえり」と言ってくれてるみたいだ。



「……あれ? パンの匂い?」


背後から、ふわっと白いもふもふが飛びついてきた。


「わ~い! パンだパンだ~! やっぱり来てよかった~♪」


「……誰?」


「ミミルだよっ! うさちぁんの使い魔で~す!」


「……監視役?」


「ちがーう! 見守り役っ! あと、パンの味見係っ!」


孝平は、焼きたてのパンをひとつ差し出した。

ミミルはそれを両手で受け取って、にっこり笑った。


「うん、おいしい! これなら、島の精霊たちも喜ぶよ~♪」


「精霊って……あの、気配のやつらか?」


「うんうん。最近、ちょっとずつ目覚めてきてるみたいだよ~」


ミミルが指さした先、畑の端っこで、

小さな石がひとつ、ころんと転がった。


「……あれ、昨日はなかったな」


「でしょ~? 土の精霊さん、孝平くんの畑、気に入ったみたい♪」



その夜。

焚き火のそばで、孝平はぽつりとつぶやいた。


「……火の輪って、どこまで広がるんだろうな」


ミミルは、パンの耳をかじりながら答えた。


「さあ? でも、広がるよ。だって、ここに“火”があるもん」


「……そうか」


火は、もう胸の中にある。

それなら、どこにいても、始められる。



翌朝。

畑の端に、ひとつの杭が立っていた。

そこには、木の札がくくりつけられている。


──エルシンポリア・南の畑


誰が書いたのかは、言わずもがな。

でも、風がそれを読んで、ふわりと笑った気がした。

ナギが火を受け取り、咲姫たちが旅立ったあと。

ウンヌツギヘには、静かな朝が戻ってきました。


でもその静けさは、空っぽじゃない。

昨日までの気配が、ちゃんと土に残ってる。

それを感じながら、孝平はまた“暮らし”を始めます。


そして、ミミル登場。

ふわふわでお節介な白ウサギ。

でも、ただのマスコットじゃない。

彼女は“暮らしのナビゲーター”であり、

ときどき孝平を強制的に休ませる、ちょっと厄介な味方です。


次回は、島の精霊たちが少しずつ動き出します。

風のない島に、気配と声が戻ってくる──そんな予感のする回になる予定。


それじゃ、また火のそばで。

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