ep.65 ホムラノワ号、ふたたび
朝、ウンヌツギヘの空に、澄んだ風が吹いていた。
昨日までの霧が晴れ、海の向こうに新しい水平線がのぞいている。
「……行っておいで」
孝平が、ホムラノワ号の舵に手を添えながら言った。
「うん。火は、もう渡した。
あとは、また運ぶだけだね」
咲姫が、ぽぷらんのしっぽをなでながら答えた。
*
ナギは、船の縁に立っていた。
胸元の灯壺には、小さな火が揺れている。
「……まだ、慣れないな。
火を持ってるって、こんな感じなんだな」
「その火は、君のものだよ」
イサリが、ロープを締めながら言った。
「でも、君ひとりのものじゃない。
誰かに渡すための火でもある」
「……ああ。わかってる。
だから、俺もこの船に乗るよ」
*
ホムラノワ号が、静かに海へ滑り出す。
ウンヌツギヘの火が、遠ざかっていく。
けれど、誰も振り返らなかった。
火は、もう胸の中にある。
「次は、どこへ行く?」
果林が、帆の上から声をかける。
「風の向くほうへ。
でも、ちゃんと“帰れる場所”があるって、わかったから」
咲姫が、空を見上げる。
「どこへ行っても、火の輪はつながってる」
ぽぷらんが、しっぽで◎を描いた。
その輪の中に、朝の光が差し込んだ。
後書きも少しだけ調整するなら、こんな感じかな:
ウンヌツギヘに火を分け、ナギを迎え、
咲姫たちはホムラノワ号で再び海へ出ました。
孝平は島に残り、火の輪の“根”を守ります。
でも、出発の意味はもう変わっている。
帰る場所があるからこそ、遠くへ行ける。
火を分けたからこそ、また火を運べる。
この65話で、ひとつの区切りがつきました。
火の輪の物語は、まだまだ続きます。
でも今日は、ここまで。
次にホムラノワ号がたどり着くのは、
どんな風の吹く場所でしょうか。
それでは、また火のそばで。




