ep.64 火を受け取る
その夜、ウンヌツギヘの中央に、静かな火が灯された。
ぽぷらんが◎を描き、咲姫が灯壺をそっと置く。
「ナギ。……この火を、受け取ってくれる?」
咲姫の声に、ナギはしばらく黙っていた。
けれど、やがて立ち上がり、火の前に歩み出た。
「……昔の俺なら、断ってたと思う。
でも今は、少しだけ、手を伸ばしてみたい」
*
ナギが手を差し出すと、火がふわりと揺れた。
まるで、彼の迷いを受け入れるように。
「この火は、誰かを焼くためじゃない。
誰かを迎えるための火だ」
孝平が、そっと言った。
「そして、誰かに渡すための火でもある」
イサリが、灯壺の縁をなぞる。
「だから、君が持っていていい」
*
ナギが、灯壺を両手で受け取る。
その瞬間、ウンヌツギヘの風が変わった。
「……あたたかいな」
「それは、火の輪の火だから」
咲姫が、ぽぷらんの◎を見つめる。
「でも、今はもう、ナギの火でもあるよ」
ぽぷらんが、しっぽで◎を描いた。
その輪の中で、ナギの灯が、静かに燃えはじめた。
ナギが、火を受け取る回。
それは、過去と和解するための儀式であり、
ウンヌツギヘが“迎える場所”として完成する瞬間でもありました。
火の輪の火は、ただ燃えるだけじゃない。
誰かに渡され、誰かに受け取られて、
そのたびに意味を変えていく。
ナギが受け取った火は、
もう“別れの火”ではなく、“つながる火”。
次回からは、ホムラノワ号が再び海へ出ます。
でも今度は、ナギの火を乗せて。
それでは、また火のそばで。




