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クラフトアルケミストの異世界素材録  作者: ねこちぁん


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ep.63 火のそばにいられなかった

ナギは、灯壺の火を見つめていた。

その目に、遠い記憶の色がにじんでいた。


「……火の輪を出たとき、何も持たなかった。

 火も、名前も、全部置いてきた」


ぽぷらんが、しっぽで◎を描く。

けれど、ナギは目を伏せたままだった。


「火が、怖かったんだ。

 あたたかくて、優しくて、でも……

 あの火は、俺にとって“別れ”の象徴だった」



「誰かを、見送ったの?」


咲姫の声に、ナギはうなずいた。


「大事な人がいた。

 でも、その人は“火の輪に残る”って言った。

 俺は、それを受け入れられなかった」


「だから、出ていったんだね」


「うん。火のそばにいると、思い出すから。

 あの夜の火を、あの人の背中を」



孝平が、灯壺の火を見つめる。


「でも、戻ってきた。どうして?」


「風に押されたんだ。

 ……いや、違うな。火に、呼ばれたんだと思う」


ナギが、ぽぷらんの◎を見つめる。


「この火は、あのときと違う。

 誰かを焼く火じゃない。

 誰かを迎える火になってる。……そう思った」


「それなら、もう一度、そばにいてもいいよね」


咲姫が、そっと灯壺に手を添える。


「火は、変わる。人も、変わる。

 だから、戻ってきてくれて、うれしいよ」


ぽぷらんが、しっぽで◎を描いた。

その輪の中で、火がふわりと揺れた。

ナギが火の輪を離れた理由は、“別れの火”だった。

誰かを見送る火の記憶が、彼にとっては痛みだった。

だからこそ、火のそばにいることができなかった。


でも、火は変わる。

燃やす火から、迎える火へ。

その変化を、ナギはウンヌツギヘで感じ取った。


火の輪の火が、ただの記憶ではなく、

“今ここにある灯”として彼を迎えたことで、

ナギの中でも何かが変わりはじめた。


次回は、ナギが“火を受け取る”回。

ホムラノワ号が、その橋渡しをする場面です。


それでは、また火のそばで。

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