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クラフトアルケミストの異世界素材録  作者: ねこちぁん


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ep.62 ナギ、風のように

その朝、島の西側に、ひとつの舟が流れ着いた。

帆は裂け、舵も折れていた。


「……誰か、いる」


咲姫が、波打ち際に駆け寄る。


舟の中には、ひとりの人物が倒れていた。

風にさらされた髪、薄い外套、そして胸元に刻まれた◎。


「火の輪の……印?」


孝平が、そっとその人物を抱き起こす。


「……ナギ、だ」


イサリが、目を見開く。


「知ってるの?」


「昔、火の輪にいた。

 でも、風のように去っていった人だよ。

 ウンヌツギヘには……来たことないはずだ」



ナギは、目を覚ました。

けれど、すぐには何も語らなかった。


ぽぷらんが、しっぽで◎を描く。

ナギは、それを見て、かすかに笑った。


「……まだ、灯ってるんだな。火の輪の火」


「うん。今は、ここにも灯ってる」


咲姫が、そっと答える。


「じゃあ、帰ってきた意味がある」


ナギの声は、風のようにかすれていた。

今回は、風に導かれて現れた“ナギ”の登場回。

彼はかつて火の輪にいたけれど、ある日ふっと姿を消した。

その理由はまだ語られていないけれど、

火の輪の火が、彼を再び呼び寄せたのは間違いない。


ウンヌツギヘは、地図にも記されていない孤島。

誰かが“意図して”来られるような場所じゃない。

それでも、ナギはここにたどり着いた。

それは、火の輪の火が届いた証であり、

この島が“迎える場所”として目覚めはじめた証でもある。


次回は、ナギの過去と、火の輪を離れた理由。

そして、彼が再び火のそばに戻ってきた理由が語られます。


それでは、また火のそばで。

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