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クラフトアルケミストの異世界素材録  作者: ねこちぁん


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ep.59 ウンヌツギヘの火

風が変わった。

ホムラノワ号の帆が、またふっと揺れる。


「……呼ばれてる」


咲姫が、ぽつりとつぶやいた。


「どこに?」


「ウンヌツギヘ。さっきの碑に刻まれてた、あの名前」



海の色が、少しずつ変わっていく。

青から、灰銀へ。

波の音も、どこか低く、深くなっていく。


「このあたり、地図には何もないはずだけど……」


瑛里華が素材録を閉じる。


「でも、風は知ってる」


イサリが、舵を握りしめた。



やがて、霧の向こうに島が現れた。

火の輪に似ている。けれど、違う。


「……火が、逆に燃えてる」


果林が、島の中央に立つ火を見つめる。

それは、内側に向かって燃えていた。


「“迎える火”じゃなく、“閉じる火”だ」


孝平が、静かに言った。


「でも、ここにも誰かがいたんだ」


ぽぷらんが、しっぽで◎を描く。

けれど、火は反応しない。


「……火の輪の火じゃないのかも」


「いや、違う。これは“忘れられた火”だ」


イサリが、足元の砂をすくう。

そこには、かすれた◎の跡があった。



夜、島の火のそばで、誰も言葉を発さなかった。

ただ、ぽぷらんがしっぽで◎を描き続けた。


やがて、火がふっと揺れた。

そして、内側に燃えていた炎が、外へと広がった。


「……灯った」


「火の輪の火が、ここにも届いたんだ」


孝平が、そっと火に手をかざす。


「ウンヌツギヘ――

 忘れられた火が、また誰かを迎える場所になる」

“似ているけれど、違う”火の輪。

今回は、そんな場所との出会い。


ウンヌツギヘという名前は、

風が運んできた“記憶のかけら”のようなもの。


そこにあった火は、迎えるためのものではなく、

誰にも見つけられないように、そっと閉じられていた。


でも、ぽぷらんの◎が、それを開いた。

火の輪の火は、忘れられた場所にも届く。


次回は、この島に残された“最後の灯”をめぐる回。

誰が、なぜ、火を閉じたのか――

その理由が、少しだけ明かされます。


それでは、また火のそばで。

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