ep.57 ホムラノワ号、還る
朝の海は、まだ眠っていた。
けれど、ホムラノワ号の舳先には、すでに風が集まりはじめていた。
「……いってきます」
孝平が舵に手をかける。
咲姫が浜辺から手を振り、ぽぷらんが◎を描いた。
*
ローミスリルの骨材が、朝日を受けて淡く光る。
帆がふくらみ、船が静かに滑り出す。
「風、悪くないね」
「この海、どこか懐かしい」
「それはきっと、“帰る”旅だからだよ」
イサリの声が、船底の音にまぎれて届く。
*
昼過ぎ、小さな入り江に着いた。
古い灯台が、崖の上にぽつんと立っていた。
「ここ、覚えてる」
「この場所から、火の輪を目指して歩いたんだ」
「じゃあ今度は、ここから“戻る”んだね」
孝平がうなずく。
「ホムラノワ号が、道しるべになる」
*
夜、灯台の上で火を囲む。
ぽぷらんの◎に、火がふわりと揺れた。
「この火、火の輪と同じ匂いがする」
「どこにいても、火の輪はつながってるんだよ」
「だから、帰る場所は、ちゃんとある」
孝平が、ホムラノワ号を見やった。
「……もう、ある」
*
夜明け前、再び帆を上げる。
灯台の火が、ゆっくり遠ざかる。
――ホムラノワ号、還る。
それは、旅の始まりではなく、
“帰るための旅”の、最初の一歩だった。
「出発」じゃなくて「還る」っていう感覚。
それが今回の芯だった。
火の輪は、ただの拠点じゃない。
誰かにとっての“帰る場所”であり、
誰かにとっての“目指す場所”でもある。
ホムラノワ号は、その間を静かに行き来する舟。
灯台の火も、ぽぷらんの◎も、
全部が“つながり”のしるしになっていく。
次は、風の記憶と出会う回。
火の輪の火が、どこまで届くか――
その先を、また一緒に。




