ep.56 火の輪の船名会議
火の輪の海辺に、船の骨組みが立ち上がっていた。
イサリが打ったローミスリルの骨材に、舟の人々が板を張り、
ぽぷらんがしっぽで◎を描きながら、火の輪の火をくべていく。
「……だいぶ、かたちになってきたね」
孝平が、組み上がった船体を見上げながらつぶやいた。
「そろそろ、名前を決めないと」
*
その夜、火の輪の火を囲んで、仲間たちが集まった。
「船の名前、どうするの?」
咲姫が、ぱちぱちと燃える火を見つめながら言った。
「火の輪丸……とか?」
「いや、それはちょっと安直すぎる」
果林が笑いながら突っ込む。
「“火の輪”って名前は入れたいよね」
瑛里華が、素材録をめくりながら言った。
「でも、“火の輪”って言葉、どこか静かで、あったかい。
船の名前にするなら、もう少し……動きがほしいかも」
ぽぷらんが、しっぽで◎を描いた。
「じゃあ、“ホムラノワ号”はどう?」
火の輪――
火をくべる輪。火を囲む場所。
そして、火を運ぶ船。
「……いいな、それ」
孝平が、火を見つめながらうなずいた。
「この船が、また誰かを火の輪に連れてくる。
あるいは、誰かを送り出す。……そんな船になるといい」
*
翌朝、船の舳先に、銀青の板が取り付けられた。
そこには、ぽぷらんのしっぽで描かれた“◎”と、
火の輪の火で刻まれた文字が並んでいた。
――ホムラノワ号。
火の輪の海に、静かに、けれど確かに、
ひとつの名が浮かび上がった。
今回は、火の輪の船に名前をつける回でした。
「名をくべる」という行為は、火の輪にとってとても大切なこと。
それは、ただのラベルではなく、“ここにいた”という証であり、
“これからどこへ向かうか”を静かに示す灯でもあります。
ホムラノワ号――
火を囲む輪、火を運ぶ船、そしてまた火の輪へと戻ってくる舟。
この名前には、火の輪の仲間たちの願いと、
物語のこれからがそっと込められています。
船に名前がついたことで、火の輪の物語はまた一歩、
“外の世界”へと広がる準備が整いました。
次回は、ホムラノワ号の初航海。
けれどそれは、冒険の始まりではなく、
“火の輪に戻るための旅”になるかもしれません。
それでは、また火のそばで。




