ep.54 火の鍛冶場、再び
鍛冶場の火が、静かに燃えていた。
炉の奥で、火は青白く揺れている。
火の輪の火を分け、イサリがくべた“打つ火”は、
暮らしの火とは違う、芯の強さを帯びていた。
「……いい火だ」
イサリが、火を見つめながらつぶやく。
孝平は、ローミスリルの塊をそっと差し出した。
「昨日、地下で掘ってきた。熱を返す鉱石――火と相性がいいと思う」
「試してみる価値はあるな」
イサリは、鉱石を火にかざし、ゆっくりと炉の中へ入れた。
じゅっ、と音がして、火が桜色から青白へと変わっていく。
ぽぷらんが、しっぽで◎を描いた。
「火が、素材に応えてる」
*
鍛冶場の空気が、少しずつ変わっていく。
イサリが槌を振るうたびに、火が応え、
ローミスリルが、まるで生き物のように脈動する。
孝平は、素材録を開きながら、その様子を記録していった。
ローミスリル加工時の火の変化:
・温度上昇は緩やか。
・火の色が青白く変化。
・打撃に応じて、素材が微かに光を返す。
・加工後、熱を帯びたまま長時間冷めない。
「これなら、港の基礎材にも使えるな」
イサリが、打ち上がったばかりの板を持ち上げる。
銀青よりも深みのある赤銅色。
触れると、じんわりとした熱が手のひらに伝わってくる。
「……火の輪の土台に、ちょうどいい」
*
その日の夕方、鍛冶場の隣にある屋台では、
餡子熊王が、鉄板を前に腕を組んでいた。
「ふむ……甘味だけでは、火の輪の胃袋は守れぬ」
彼は、ローミスリルの端材を使って、鉄板焼き用の板を作っていた。
火の輪の火で焼かれたその鉄板は、じんわりと熱を保ち、
焼き餅も、野菜も、ふっくらと仕上がる。
「……これは、餡子の次に革命的だな」
ぽぷらんが、しっぽで◎を描いた。
「火の輪の味、広がってきたね」
今回は、火の輪の鍛冶場が本格的に動き出す回でした。
ローミスリルという“熱を返す鉱石”が、
火の輪の火と出会い、暮らしの道具や港の基礎材へと姿を変えていく――
その過程は、まさに「火と素材の対話」だったように思います。
イサリの槌が火に語りかけ、火がそれに応える。
孝平はそのやりとりを記録し、ぽぷらんは◎で火の輪の中心をなぞる。
それぞれの役割が、少しずつ噛み合いながら、火の輪の暮らしが形になっていく様子を描きたくて、この回をくべました。
そして、餡子熊王の鉄板焼き。
火の輪の味が、甘味から“焼き”へと広がっていくのも、ちょっとした進化の証です。
次回は、いよいよ港の設計図が広がります。
火の輪が“迎える場所”として、どんなかたちを選ぶのか――
よければ、また火のそばで見届けてくださいね。
それでは、また火のそばで。




