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クラフトアルケミストの異世界素材録  作者: ねこちぁん


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ep.54 火の鍛冶場、再び

鍛冶場の火が、静かに燃えていた。


炉の奥で、火は青白く揺れている。

 火の輪の火を分け、イサリがくべた“打つ火”は、

 暮らしの火とは違う、芯の強さを帯びていた。


「……いい火だ」


イサリが、火を見つめながらつぶやく。


孝平は、ローミスリルの塊をそっと差し出した。


「昨日、地下で掘ってきた。熱を返す鉱石――火と相性がいいと思う」


「試してみる価値はあるな」


イサリは、鉱石を火にかざし、ゆっくりと炉の中へ入れた。


じゅっ、と音がして、火が桜色から青白へと変わっていく。


ぽぷらんが、しっぽで◎を描いた。


「火が、素材に応えてる」



鍛冶場の空気が、少しずつ変わっていく。


イサリが槌を振るうたびに、火が応え、

 ローミスリルが、まるで生き物のように脈動する。


孝平は、素材録を開きながら、その様子を記録していった。


ローミスリル加工時の火の変化:

 ・温度上昇は緩やか。

 ・火の色が青白く変化。

 ・打撃に応じて、素材が微かに光を返す。

 ・加工後、熱を帯びたまま長時間冷めない。


「これなら、港の基礎材にも使えるな」


イサリが、打ち上がったばかりの板を持ち上げる。

 銀青よりも深みのある赤銅色。

 触れると、じんわりとした熱が手のひらに伝わってくる。


「……火の輪の土台に、ちょうどいい」



その日の夕方、鍛冶場の隣にある屋台では、

 餡子熊王が、鉄板を前に腕を組んでいた。


「ふむ……甘味だけでは、火の輪の胃袋は守れぬ」


彼は、ローミスリルの端材を使って、鉄板焼き用の板を作っていた。


火の輪の火で焼かれたその鉄板は、じんわりと熱を保ち、

 焼き餅も、野菜も、ふっくらと仕上がる。


「……これは、餡子の次に革命的だな」


ぽぷらんが、しっぽで◎を描いた。


「火の輪の味、広がってきたね」

今回は、火の輪の鍛冶場が本格的に動き出す回でした。


ローミスリルという“熱を返す鉱石”が、

火の輪の火と出会い、暮らしの道具や港の基礎材へと姿を変えていく――

その過程は、まさに「火と素材の対話」だったように思います。


イサリの槌が火に語りかけ、火がそれに応える。

孝平はそのやりとりを記録し、ぽぷらんは◎で火の輪の中心をなぞる。

それぞれの役割が、少しずつ噛み合いながら、火の輪の暮らしが形になっていく様子を描きたくて、この回をくべました。


そして、餡子熊王の鉄板焼き。

火の輪の味が、甘味から“焼き”へと広がっていくのも、ちょっとした進化の証です。


次回は、いよいよ港の設計図が広がります。

火の輪が“迎える場所”として、どんなかたちを選ぶのか――

よければ、また火のそばで見届けてくださいね。


それでは、また火のそばで。

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