ep.51 火の輪の再調整
火の輪の朝は、静かに始まった。
昨日、銀青の札に名前を刻んだ仲間たちは、それぞれの場所で火を囲み、
火の輪の“これから”を、胸の中で思い描いていた。
ぽぷらんが、しっぽで灰をならしながら言った。
「火の輪が、ひとつの“かたち”になったから……次は、火の流れを決めるときだね」
孝平はうなずいた。
火の輪は、ただの避難所ではなくなった。
火を囲み、暮らしを整え、名を刻んだ今――
それぞれが、次の一歩を選ぶ時が来ていた。
*
「風の谷に、行こうと思います」
咲姫が、静かにそう言った。
隣に立つ果林と瑛里華も、うなずく。
「風の国のこと、ずっと気になってたのです」
「素材の流通も、そろそろ整えておきたい」
「風の谷の錬金術師たちとも、話をしてみたい」
咲姫たちは、火の輪の火を携えて、風の谷へ向かうことを決めた。
「アリシアも、別の島へ行くんだろ?」
孝平が尋ねると、アリシアは肩をすくめた。
「ええ。素材の出どころを探っておきたいし、交易の道も見ておきたいからね」
リリアーナは、火の輪に残ると言った。
「記録は、ここで続けるわ。……この火の輪の、今を」
ルミナもまた、静かにうなずいた。
「私は、火のそばにいます。……それが、私の役目ですから」
*
ぽぷらんが、しっぽで灰をなぞり、◎を描いた。
「火の輪の“真ん中”は、ここにある。……だから、また戻ってこられるよ」
孝平は、火を見つめながら、仲間たちの顔を順に見た。
咲姫、果林、瑛里華、アリシア――
それぞれの道を選び、火の輪を離れる者たち。
リリアーナ、ルミナ、ぽぷらん、サヤ、餡子熊王、イサリ――
火の輪に残り、暮らしを整えていく者たち。
そして、舟で流れ着いた人々。
彼らもまた、少しずつ火の輪の一部になりつつあった。
*
火の輪の火が、ぱちりと音を立てた。
それは、別れの音ではなく、
それぞれの選択を、静かに受け入れる音だった。
火の輪の再調整回、読んでくださってありがとうございます。
今回は、仲間たちがそれぞれの道を選ぶ場面を描きました。
火を囲んで過ごした時間が、ただの“避難”ではなく、“暮らし”になっていたこと。
そしてその暮らしの中から、次の一歩を選ぶ静かな決意が生まれていくこと。
火の輪は、まだ小さな場所です。
でも、誰かが旅立っても、誰かが残っても、
火のそばに“◎”があれば、また戻ってこられる。
そんな信頼と余白を、物語の中に残しておきたいと思いました。
次回は、火の輪に残ったイサリが、火を見つめる回です。
鍛冶屋としての彼が、火の輪の火に何を見出すのか――
よければ、また火のそばで見守っていただけたら嬉しいです。
それでは、また火のそばで。




