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クラフトアルケミストの異世界素材録  作者: ねこちぁん


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ep.50 火の輪の朝、名乗りの火

朝の火は、静かに揺れていた。


夜の名残を抱いたまま、火はまだ芯を保っている。

 ぽぷらんが、しっぽで灰をならしながら、火の輪の中心に小さな“◎”を描いた。


「火の輪が、ひとまわり広がったね」


孝平は、素材録を閉じて火のそばに腰を下ろした。

 潮の香りが、昨日よりも少しだけ柔らかい。


「……そろそろ、名前をくべてもいいかもしれないな」


ぽぷらんが、しっぽをぴんと立てた。


「じゃあ、名乗っていこう。火の輪の今を、ちゃんと火に伝えよう」


そのとき、鍛冶場から足音が近づいてきた。


「……だったら、これを使え」


イサリが、腕に抱えていたのは、銀青色に光る金属の板だった。


「ミスリルとハイミスリルを合わせてみた。火の輪の火で、ゆっくり鍛えたんだ」


板は、青白くも銀のように輝き、光を受けると表面に淡い模様が浮かび上がる。

 孝平がそっと触れると、ひんやりとした感触の奥に、かすかな熱が宿っていた。


「……これ、名前を刻むのにちょうどいい」


「火の輪の記録板、だな」


ぽぷらんが、しっぽで◎を描いた。


「火の輪の“真ん中”に置こう。……また戻ってこられるように」



火の輪の火を囲みながら、仲間たちが順に名を刻んでいく。


支倉孝平。

ぽぷらん。

咲姫。

果林。

瑛里華。

リリアーナ。

アリシア。

ルミナ。

Anne。

サヤ。

餡子熊王。

イサリ。

そして、舟で流れ着いた人々の名も、少しずつ、火の輪の板に刻まれていく。


名札は、火の輪の周囲に奉納札のように立てられていく。

 銀青の板は、光の角度で名前を浮かび上がらせ、火に近づくと淡く光を帯びた。


風が吹いた。札がかすかに鳴った。

 まるで、火の声がそこに残っているかのように。



孝平は、刻まれた名前を見つめながらつぶやいた。


「これが、今の火の輪だ。……ここから、また始まる」


火が、ぱちりと音を立てた。

 銀青の札が、朝の光をやさしく反射していた。

火の輪の節目となる第50話、ここまで読んでくださってありがとうございます。


今回は、これまで登場してきた仲間たちの“名乗り”を、火の輪らしい形で描いてみました。

ただ名前を並べるのではなく、火の輪の火で鍛えた銀青の札に刻み、奉納するように並べていく――

それはまるで、神社の名前札のようであり、火を囲んだ記憶を静かに残す儀式のようでもありました。


火の輪は、まだ村とも呼べない、小さな集まりです。

でも、こうして名前を刻むことで、「ここにいた」「ここで火を囲んだ」という証が、物語の中にも読者の中にも、そっと残ってくれたら嬉しいです。


次回からは、火の輪の再調整と、港づくりの始まりが描かれていきます。

少しずつ、火の輪が“暮らしのかたち”を持ちはじめる、その第一歩を一緒に見届けてもらえたら幸いです。


それでは、また火のそばで。

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