ep.42 最初のかけら
鍛冶場の火が、静かに燃えていた。
孝平と咲姫が、交代で炉を見守りながら、ミスリルのかけらを溶かしていく。
「……もう少し」
リリアーナが、真聖水をそっと用意する。
瑛里華が、金床のひび割れを補修しながら、道具を整えていく。
ぽぷらんが、しっぽで火の輪の印を描いた。
その中心に、溶けたミスリルが注がれる。
火の輪の子どもたちが、火を囲んで見守る。
ミオが、ぽつりとつぶやいた。
「これって、火の輪の“はじめての道具”になるんだね」
「そうだね」
咲姫がうなずく。
「だから、ちゃんと名前をつけよう」
冷やされたミスリルは、やがて小さなナイフのかたちになった。
刃は細く、光を吸い込むように静かに輝いている。
「これ……すごくきれい」
ルカが、目を輝かせる。
「名前、どうする?」
ナナが尋ねると、ぽぷらんがしっぽで“〇”を描いた。
「“まる”……?」
ミオが首をかしげる。
「火の輪の形だよ」
孝平が、そっとナイフを掲げた。
「じゃあ……“輪刃”ってどう?」
みんなが、うなずいた。
火の輪の、最初のかけら。
それは、火と水と地、そして言葉から生まれた、小さな奇跡だった。
火の輪に、最初の“かたち”が生まれました。
それは、ただの道具ではありません。 火を分け、水で冷やし、地の恵みを溶かし、言葉で火を育てて―― ようやく生まれた、火の輪の“輪刃”。
この小さなナイフには、火の輪のすべてが詰まっています。 そして、これから生まれていくものたちの、最初の一歩でもあります。
火の輪は、まだ小さな集まりです。 でも、言葉を持ち、火を囲み、地と水と向き合いながら、 少しずつ“つくる”ことを覚えていきます。
次回からは、輪刃を手にした火の輪が、どんなふうに世界と向き合っていくのか。 その先にある“返事”や“出会い”を描いていけたらと思います。
それでは、また火のそばで。




