ep.41 火を継ぐ場所
鉱山の入り口近く、ぽぷらんがしっぽで地面をトントンと叩いていた。
その先には、崩れかけた石造りの小屋。
中には、煤けた炉の跡と、ひび割れた金床が残されていた。
「ここ……鍛冶場だったんだ」
孝平が、そっと炉の縁に手を置く。
まだ、かすかに温もりが残っている気がした。
「火の輪の火を、ここに分けよう」
咲姫が言った。
「この場所に、もう一度“火”を灯すの」
火の輪から持ってきた炭と、真聖水を少し。
ぽぷらんが、しっぽで火の輪の印を描くと、孝平が火打石を打った。
ぱちり、と火花が走り、炉の中に小さな炎が生まれる。
その炎は、まるで息をするように、ゆっくりと揺れた。
「……生きてるみたい」
ミオが、目を丸くする。
リリアーナが、ミスリルのかけらを炉に入れる。
しかし、なかなか溶けない。
「やっぱり、火力が足りないわ」
「じゃあ、火に話しかけてみよう」
ルカが言った。
「言葉で、火を強くできるかもしれない」
子どもたちが、火を囲んで語り始める。
火の輪での暮らし。見つけた鉱石のこと。泉の水のこと。
ぽぷらんが、しっぽでリズムを刻む。
すると、炎がふっと大きくなった。
まるで、言葉に応えるように。
「……いける!」
瑛里華が叫んだ。
「この火なら、ミスリルを溶かせる!」
火の輪の鍛冶場に、再び火が灯った。
それは、ただの作業場ではない。
火と水と地、そして言葉が交わる、もうひとつの“火の輪”だった。
火の輪に、もうひとつの“火”が灯りました。
それは、ただの鍛冶場ではありません。 火の輪の火を分け、真聖水で冷やし、子どもたちの言葉で育てた火。
火を継ぐということは、過去を受け継ぎ、未来をつくるということ。 そして、そこに“言葉”がある限り、火はきっと応えてくれるのだと思います。
ミスリルは、まだ溶けたばかり。 でも、火の輪の技術は、ここから始まります。
次回は、いよいよ“最初のかけら”が形になるお話。 火の輪の手で生まれた、初めての道具に名前がつく瞬間を描く予定です。
それでは、また火のそばで。




