ep.40 聖なる泉
鉱石の採掘がひと段落した頃、ミオとルカが、ぽぷらんの後を追って洞窟の別の分岐へと入っていった。
「こっち、なんか……風が気持ちいい」
ミオが言うと、ルカもうなずいた。
「光、見えるよ。あっち……」
ふたりがたどり着いたのは、岩の間から差し込む光に照らされた、小さな泉だった。
水面は青白く光り、まるで夜空を閉じ込めたように静かに揺れていた。
「……きれい」
ルカが、そっと手を伸ばす。
水に触れた瞬間、指先から胸の奥へ、やさしい温もりが広がった。
咲姫たちが後を追って泉にたどり着くと、瑛里華が息をのんだ。
「これ……ただの水じゃない。聖水……いえ、もっと強い。これは“真聖水”よ」
リリアーナが、泉のそばに立つ石碑を見つける。
古い文字で、こう刻まれていた。
「祈りは、火とともにあり。 火は、水とともに在り。 ここに、名もなき祈りの泉を残す」
「この地そのものが、祈りを覚えてるのかもね」
咲姫が、泉の水をすくいながらつぶやいた。
ぽぷらんが、しっぽで泉のまわりをくるりと一周する。
その動きは、まるで“火の輪”の形をなぞっているようだった。
火の輪の人々は、静かに泉を囲んだ。
火の輪の火。地の鉱石。そして、この水。
すべてが、少しずつ繋がっていく。
火の輪の人々が、“祈りの水”と出会った回でした。
真聖水―― 本来なら、神殿の奥深くでしか生まれないはずの水が、 誰にも知られず、静かに湧き続けていたということ。
それは、誰かの祈りが、長い時間をかけて地に染み込み、 やがて泉となって現れたのかもしれません。
火の輪は、まだ小さな集まりです。 でも、火を囲み、言葉を交わし、地の恵みに手を伸ばし、 そして今、水の奇跡に触れました。
次回は、いよいよ“火を継ぐ場所”―― 鍛冶場の再建と、火の輪の技術が芽吹く場面を描く予定です。
それでは、また火のそばで。




