ep.39 魔法銀の脈
洞窟の奥へ進むにつれ、空気が変わっていった。
ひんやりとした風の中に、かすかな光が混じっている。
壁のひび割れから、淡い輝きがにじみ出ていた。
「……これ、光ってる」
ミオが、そっと手を伸ばす。
指先が触れた瞬間、ひやりとした感触とともに、胸の奥がふわりと震えた。
「魔力を感じる」
リリアーナが、目を見開いた。
「これは……ミスリル。魔法銀よ」
孝平が、そっと鉱石を掘り出す。
銀色の中に、かすかに青が混じる、美しい鉱石だった。
「これが……魔法銀」
咲姫が、光を反射する鉱石を見つめる。
「地の奥に、こんなものが眠ってたなんて」
さらに奥へ進むと、別の色の鉱石が現れた。
一つは、青白く淡く光る、透き通るような鉱石。
もう一つは、赤銅色に鈍く輝き、手に取るとじんわりと温かい。
「これは……ハイミスリル。魔法金に近い性質を持つ鉱石」
リリアーナが、青白い鉱石を手に取り、そっと魔力を流し込む。
すると、鉱石がかすかに震え、光が脈打った。
「そして、こっちは……ローミスリル。魔法銅。魔力を蓄える性質があるわ」
赤銅色の鉱石は、まるで心臓のように、ゆっくりと熱を返してくる。
「地の奥が、こんなにも豊かだったなんて」
咲姫が、岩肌に手を当てる。
「これは、地が語る魔法の言葉……」
ぽぷらんが、しっぽで地面をなぞる。
火の輪の印を描くように。
火の輪の人々は、静かにうなずいた。
言葉を手に入れた夜。地の声を聞いた朝。
そして今、火の輪は“かたち”を手に入れようとしていた。
火の輪の人々が、初めて“魔法銀”と出会った回でした。
ミスリル、ハイミスリル、ローミスリル―― それぞれの鉱石が持つ色や温度、魔力の響きは、まるで“地の言葉”のようでした。
火の輪は、言葉を持ち、火を囲み、暮らす場所。 そこに、今度は“かたちをつくる力”が加わろうとしています。
でも、それは便利な道具を手に入れるということではなく、 「どう使うか」「どう伝えるか」が、これから試されていくのだと思います。
次回は、鉱石の奥に眠るもうひとつの奇跡―― “水”との出会いが描かれる予定です。
それでは、また火のそばで。




