ep.37 ことばの火種
夜、火の輪に紙が広げられた。
ぽぷらんが、しっぽで押さえている。
風が吹いても飛ばないように。
「……誰が書く?」
咲姫がつぶやく。
火のそばには、孝平、リリアーナ、瑛里華、そして子どもたち。
誰もが、少しだけ迷っていた。
「“ここにいます”って、書けばいいんじゃない?」
ミオが言った。
「それだけじゃ、伝わらないかも」
ルカが首をかしげる。
「でも、伝えたいことって、なんだろう」
リリアーナが、紙を見つめる。
しばらくの沈黙。
火の音だけが、ぱちぱちと響いていた。
*
最初に動いたのは、孝平だった。
炭で、紙の端に一文字ずつ書いていく。
「火の輪は、ここにあります。
名前を持ち、火を囲み、暮らしています。
あなたが来るなら、迎える準備はあります」
書き終えると、ぽぷらんがしっぽで丸を描いた。
火の輪の形。
「……これで、いいかな」
孝平が顔を上げると、みんながうなずいた。
ナナが、ぽつりと言った。
「この手紙、風に乗るかな」
「乗るよ」
瑛里華が笑った。
「火の輪の名前が届いたんだもん。言葉だって、きっと届く」
*
翌朝、手紙は火のそばに置かれていた。
ぽぷらんが、しっぽで火を囲む。
風が吹く。
紙が、ふわりと舞い上がった。
誰かに届くかは、わからない。
でも、火の輪の言葉は、たしかに旅立った。
火の輪から、はじめての返事が書かれました。
それは、長い手紙ではありません。
でも、“ここにいます”という言葉には、
火を囲んで暮らす人たちの、静かな決意が込められています。
火の輪は、まだ小さな灯りです。
でも、言葉が風に乗れば、誰かの心に火種をともせるかもしれません。
次回は、火の輪に届く“返事”の話になるかもしれません。
あるいは、手紙を見た誰かが、また歩き出す話かもしれません。
それでは、また火のそばで。




