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クラフトアルケミストの異世界素材録  作者: ねこちぁん


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ep.35 ぽぷらんのあとを

 朝、火の輪に小さな足音が増えた。


 ぽぷらんのしっぽを追いかけて、子どもたちが走る。

 ミオ、ルカ、ナナ。

 舟でやってきた、あの子たち。


 ぽぷらんは、いつもよりゆっくり歩いていた。

 しっぽで砂をなぞりながら、火の輪のまわりを一周する。


「ぽぷらん、どこ行くのー!」


 ナナが笑いながら追いかける。

 ミオは少し離れて、ぽぷらんのしっぽをじっと見ていた。


 火のそばには近づかない。

 でも、ぽぷらんのあとなら、ついていける。


 ルカは、何も言わずに歩いていた。

 手には、リリアーナがくれた地図の写し。


 火の輪の中を、子どもたちが歩いている。

 それだけで、空気が少しやわらかくなった。



「ここ、まだ描かれてないよ」


 ルカが、地図の端を指さした。


 リリアーナが顔を上げる。

 広げた紙の上、火の輪の外れ。

 畑と小屋の間にある、草の生い茂った空き地。


「そこは……ただの空き地だよ。何もない」


 咲姫が言うと、ルカは首をかしげた。


「でも、音がする」


「音?」


「うん。風の音。あと、虫の声。

 それに、ぽぷらんが、さっきから何度もそこ通ってる」


 ぽぷらんが、しっぽで草をかき分けて戻ってきた。

 しっぽの先に、どんぐりがひとつ、くっついていた。


 ミオがそれを見て、ぱっと笑った。


「ここ、遊び場にしようよ!」


 ナナが草の上でくるくる回る。

 ぽぷらんが、しっぽでそのあとをなぞる。


 火の輪の中に、まだ名前のない場所があった。

 子どもたちは、そこに風を通しはじめていた。



 夕方、看板の裏に、新しい紙が貼られた。


 ルカが描いた、火の輪の地図。

 中央の火の輪。まわりの小屋、畑、鍛冶場。

 そして、その端に――


 “ぽぷらんの道”と書かれた、くるくるした線。


 その先に、小さな丸。

 “どんぐりのひろば”と、子どもたちの字で書かれていた。


 孝平が、看板の裏を見上げてつぶやく。


「……火の輪は、まだ育つんだな」


 リリアーナが、地図を見て笑った。


「描かれてなかっただけで、ちゃんと“あった”んですね」


 ぽぷらんが、しっぽで火を囲んだ。

 その先に、どんぐりがひとつ、ころんと転がった。


 火が、ぱちりと音を立てた。


 その光が、紙の地図をやさしく照らしていた。

火の輪の地図に、新しい線が加わりました。


それは、大人たちが見落としていた場所。

風の音、虫の声、ぽぷらんのしっぽ。

子どもたちは、そこに“遊び場”を見つけました。


火の輪は、まだ育つ。

誰かが歩けば、そこに道ができる。

誰かが笑えば、そこが居場所になる。


次回は、火の輪に届いた“手紙”の話を描く予定です。

遠く離れた誰かと、火をはさんでつながるような、そんな回になればと思います。


それでは、また火のそばで。

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