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クラフトアルケミストの異世界素材録  作者: ねこちぁん


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ep.34 木の手

 朝、火の輪に木の音が響いた。


 こん、こん。

 乾いた音が、鍛冶場の裏から聞こえてくる。


「……誰?」


 咲姫が顔を出すと、そこにいたのは、昨日の舟に乗っていた男だった。


 年配。無口。

 名前は、まだ聞いていない。


 男は、何も言わずに木を削っていた。

 手元には、古びた木槌と彫刻刀。


 ぽぷらんが、しっぽで砂をなぞる。


「……火の輪の音じゃないけど、悪くないね」


 孝平が湯を運びながら、ちらりと見る。


「……道具、持ってたんだな」


 男は、火のそばにいた。

 でも、火を見ようとはしなかった。


 ただ、木を削っていた。

 こん、こん。

 音だけが、火の輪に混ざっていた。



「これ、ぽぷらんのしっぽ?」


 リリアーナが、木片を手に取った。


 削られた模様は、火を囲むような曲線。

 どこかで見たことのある形。


 ぽぷらんが、しっぽをくるりと回す。


「……似てる。たぶん、これ」


 男は、何も言わずに手を止めた。

 少しだけ、目を細めた。


「看板、もうひとつ作れたらいいなって思ってたんです」


 リリアーナの声に、男はゆっくりうなずいた。


 それだけで、十分だった。



 夕方、火の輪の入り口に、新しい板が立った。


 “ようこそ”の文字。

 そのまわりを、火の模様が囲んでいる。


 孝平が、ぽぷらんのしっぽを見て、笑った。


「これ、ぽぷらんの……いや、火の輪の形か」


 男は、少しだけ口元をゆるめた。


 咲姫がつぶやく。


「……火の輪に、手が増えたんですね」


 火が、ぱちりと音を立てた。


 その光が、看板の文字をやさしく照らしていた。

火の輪に、新しい手が加わりました。


言葉は少なくても、木を削る音が、

その人の“参加”を伝えてくれました。


火の輪は、まだ小さな暮らしです。

でも、誰かが手を動かし、火のそばにいるだけで、

その輪は、少しずつ広がっていきます。


次回は、舟に乗ってきた子どもたちの話を描く予定です。

火の輪の中で、彼らが何を見つけるのか。


それでは、また火のそばで。

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