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クラフトアルケミストの異世界素材録  作者: ねこちぁん


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ep.29 土を耕す手 ―村に芽吹く、暮らしの種―

朝の火は、やわらかく揺れていた。  昨日掘り当てた水脈から、ぽたぽたと水がしみ出している。  その音が、火の輪のまわりに静かなリズムを刻んでいた。


「……水があるなら、次は畑だな」


孝平がつぶやくと、果林が木槌を肩に担いでやってきた。


「畑って、どこに作るの? 林の奥?」


「いや、火の輪から見える場所がいい。  水も運びやすいし、みんなの目が届く」


咲姫が、地図に印をつけながら言った。


「このあたり、日当たりもよくて、風も穏やかです。  土も、やわらかそう」


孝平は、しゃがみ込んで土に手を当てた。  その瞬間、ふわりと何かが伝わってきた。


『ここ、まだ眠ってるけど……起こしてくれるの?』


「……土の声?」


『うん。火の輪のあたたかさ、届いてるよ。  でも、まだちょっと、こわい。  ちゃんと、やさしくしてくれる?』


「もちろん。……一緒に、暮らしたいんだ」


土が、かすかに震えた。  まるで、うなずいたように。


鍛冶場で作った鍬を手に、孝平は土を掘り返しはじめた。  果林が、木の杭で畝の目印を打ち、  瑛里華が、土壌の湿度を測っていく。


「この土、思ったより水を含んでる。  でも、粘りが強いから、少し砂を混ぜた方がいいかも」


「了解。海辺の砂、少し運んでくる」


アリシアが、バケツを手に走っていく。


リリアーナは、集めた種を並べていた。  赤い実の種、香草の球根、小さな豆のような種子。


「この子たち、火のそばで芽吹くかな」


「きっと、大丈夫だよ」


ぽぷらんが、しっぽで土をなぞった。


「火の輪のまわりは、ちゃんと“暮らしの土”になってきてる。  精霊たちも、見てるよ」


午後になるころには、畑の形が見えてきた。  畝が並び、水路が引かれ、種がひとつずつ植えられていく。


孝平は、最後の畝にしゃがみ込み、  小さな種を土に埋めながら、そっとつぶやいた。


「……よろしくな。ここで、一緒に生きよう」


土が、ふわりとあたたかくなった気がした。


夕暮れ。  火の輪のまわりに、仲間たちが集まっていた。


咲姫が、火を見つめながら言った。


「今日、火の輪の暮らしが、またひとつ広がりましたね」


「うん。畑ができたってことは、  “食べる”を、自分たちで育てられるってことだ」


孝平は、火に手をかざした。


「……火を起こして、鍬を作って、土を耕して。  少しずつだけど、“暮らしてる”って感じがする」


ぽぷらんが、しっぽで火をくるりと囲んだ。


「火の輪、今日もちゃんと育ったね」


火が、ぱちりと音を立てた。  まるで、同意するように。

今回は、「畑づくり」を通して、火の輪の暮らしが“村”として根づき始める様子を描きました。 土の精霊との対話、仲間たちの役割分担、そして“食べる”という営みの始まり―― どれも、村づくりに欠かせない大切な一歩です。


次回は、「火と水のあいだで」。 鍛冶場の冷却系統や水路の整備を通して、 火と水がどう共存していくのかを描いていきます。


それでは、また火のそばで。

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