ep.27 火の輪の予行祭 ―仲間だけの、最初の宴―
火の輪のまわりに、木の台がいくつか並べられていた。 その上には、仲間たちが作った道具や、採ってきた素材、焼きたてのパンや薬草茶が並んでいる。
「……これが、“火の宴”?」
孝平がつぶやくと、ぽぷらんがしっぽで火の縁をくるりと囲んだ。
「うん、まだ“予行”だけどね。 本当の素材市は、もっと人が集まってから。 でも、まずは“仲間だけの宴”から始めようって、咲姫ちゃんが言ってたよ」
咲姫は、火草の香油を小瓶に詰めながら、にこりと笑った。
「火の輪が動き出した今、まずは私たち自身が“火の恵み”を確かめるべきなのです」
果林は、木材で作った小さな棚を並べていた。 その上に、瑛里華が精製した保存瓶がきれいに収まっていく。
「この棚、意外と使いやすいわね。……次は引き出し付きも作ってみようかしら」
「保存瓶の密閉率も上がったわ。火の輪の温度、安定してるから」
リリアーナは、薬草茶を注ぎながら、記録帳を開いていた。
「この茶葉、昨日の霧草と月根をブレンドしたの。 味見してみて。……ほら、ぽぷらん、ミミルも」
「わーい! お茶だお茶だ~♪」 「うん、あったかい~」
ミミルが耳をぴょこぴょこ揺らしながら、湯気の立つ茶碗を抱える。 ぽぷらんは、しっぽでパンをちぎって、火の輪のそばに並べた。
「こうへいくんのパン、今日のはちょっと甘いね」
「……うん。今日は、宴だから」
孝平は、火の輪の中心で、スープの鍋をかき混ぜていた。 野菜と干し肉を煮込んだだけの、素朴なスープ。 でも、火の輪の熱でじっくり煮込まれたそれは、どこか懐かしい香りがした。
「……こうして、みんなで火を囲んで、作ったものを並べて。 それだけで、なんだか“町”みたいだな」
誰かが返事をするより早く、火がふわりと揺れた。 まるで「その通り」と言っているように。
アリシアが、護符を並べながら言った。
「これ、魔獣の牙を加工したやつ。 護衛用だけど、飾りにもなる。……外から人が来たら、売れるかもね」
「うん。……そのときは、ちゃんと“市”にしよう」
孝平がそう言うと、咲姫がうなずいた。
「そのためにも、まずは私たちが“火の輪の暮らし”を楽しむのです」
火の輪のまわりに、笑い声が広がる。 パンの香り、薬草茶の湯気、木の棚の手触り、保存瓶の光。 それぞれが持ち寄った“暮らしのかけら”が、火の輪のまわりで静かに輝いていた。
夜が深まるにつれ、火の輪の炎は少しずつ落ち着いていく。 けれど、そのぬくもりは、誰の心にも残っていた。
孝平は、火輪石のそばにしゃがみ込み、そっと薪をくべた。
「……これが、最初の宴。 次は、もっとたくさんの人と、火を囲めたらいいな」
そのとき、遠くの空に、かすかな風の音が響いた。 誰かが、こちらに向かっている気配。
孝平は、火の輪を見つめながら、静かに笑った。
「……うん。きっと、来る」
火が、ぱちりと音を立てた。 まるで「準備はできてるよ」と言っているようだった。
今回は、仲間たちだけで開いた“火の輪の予行祭”を描きました。 素材市にはまだ早いけれど、こうして火を囲み、作ったものを持ち寄るだけで、 拠点が“町”として動き出していることが伝わってきます。
それぞれの役割が自然ににじみ出て、 読者にも「この町に住んでみたい」と思ってもらえるような、 そんなあたたかい空気を目指しました。
次回はいよいよ、新たな来訪者が……? 火の輪の物語が、またひとつ広がっていきます。
それでは、また火のそばで。




