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クラフトアルケミストの異世界素材録  作者: ねこちぁん


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ep.22 霧草と風の薬

「……霧草の気配がする」


リリアーナが、森の風を指先でなぞるように感じ取りながらつぶやいた。


朝の火を囲んでいた孝平とアリシアが顔を上げる。


「霧草? それって薬草の一種?」


「ええ。風の属性を帯びた薬草。 霧の深い森にしか生えないけど、今なら採れる。 火の輪が“呼んでる”の」


ぽぷらんが、しっぽで火をならした。


「薬草をくべるなら、今がいいよ。 火の温度が“調合向き”になってる」


孝平は、素材袋と小さな薬瓶を持って立ち上がった。


「じゃあ、行ってみましょう。 火の輪に、新しい“かたち”をくべたい」


アリシアが軽く肩を回しながら笑った。


「薬草採集って、けっこう危ないのよ? 護衛は任せて。私、こう見えても手際はいいから」


風の森は、朝露に包まれていた。


木々の間を抜ける風が、 霧草の葉をそっと揺らしている。


リリアーナは、目を閉じて耳を澄ませた。


「……このあたり。 霧草は、風の音に似た“ささやき”を出すの。 聞こえる?」


孝平は、耳を澄ませた。 確かに、葉擦れとは違う、 かすかな“音”が聞こえる気がした。


「……これか。 風の中に、何かが混じってる」


「それが霧草。 火の輪にくべると、風の薬になる」


採集を終えた三人は、火の輪に戻った。


孝平は、霧草の葉を火のそばに並べ、 風結晶の粉末と清水を準備した。


「火を使って、素材の順番を整える。 でも、薬は初めてだから……」


ぽぷらんが、しっぽで火を細くした。


「薬の火は、“静かにくべる”のがコツ。 素材の声を聞いて、順番を間違えないようにね」


孝平は、霧草を最初に火にかざし、 ゆっくりと熱を通した。


葉がわずかに丸まり、 淡い香りが立ちのぼる。


次に、風結晶の粉末を加える。


火が、ふっと揺れた。


「……あれ? 温度が高すぎた?」


「風素材は、逃げやすいって言ったでしょ」


瑛里華が、後ろからそっと助言をくれる。


「火を少し落として、清水で“つなぎ”を入れて」


孝平は、清水を加え、火を整えた。


火が、静かに落ち着き、 素材がひとつにまとまりはじめる。


ぽぷらんが、しっぽで火をなでながら言った。


「……できたね。 火が、ちゃんと“薬のかたち”を覚えたよ」


孝平は、小さな薬瓶に液体を注ぎ、 素材録に記録を書き加えた。


《風霧ポーション》  効果:集中力回復・視界強化  素材:霧草の葉、風結晶の粉末、清水  加工者:支倉孝平


火が、ふわりと揺れた。 まるで、喜んでいるように。


アリシアが、薬瓶を手に取ってにやりと笑った。


「これ、実戦でも使えそうね。 あんた、やるじゃない」


リリアーナは、火を見つめながら静かに言った。


「この火、少しずつ深くなってる。 素材が、安心して眠れる場所になってきた」


孝平は、火のそばに腰を下ろし、 薬瓶をそっと火の縁に置いた。


「……ありがとう、火。 これからも、よろしく」


火は、静かに、けれど確かに揺れていた。

火の輪に、薬のかたちが灯った。 風の森のささやきが、火に溶けていく。


次回――「火石と鍛冶のはじまり」


咲姫と果林と共に、 火山のふもとで“熱い素材”を探しに行く。

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