ep.21 火の輪、工房となる
朝の火は、静かに、けれど確かに熱を帯びていた。
孝平は、火のそばにしゃがみ込み、 昨日拾った“風結晶・未名”を手のひらに乗せていた。
「……これ、ただの素材じゃない。 火が、何かを引き出そうとしてる」
ぽぷらんが、しっぽで火の縁をならしながらうなずいた。
「うん。火は“くべられる”のを待ってる。 でも、ただ燃やすだけじゃダメ。 “かたち”にしないと、火が寂しがるよ」
孝平は、素材録を開き、 “風結晶”のページに目を通した。
《風結晶・未名》 霧と幻をまとい、試す素材。 火と心が通じたとき、姿を現す。
「……これを、加工してみようと思います。 火の輪を、工房に変えるんです」
ぽぷらんが、しっぽで火を囲むようにくるりと描いた。
「じゃあ、火の輪を“作業火”に切り替えるね。 素材の声が聞こえやすくなるように、火を細くするよ」
孝平は、風結晶を火のそばに置き、 小さな鉄板と工具を取り出した。
「まずは、熱を通して“属性の芯”を浮かび上がらせる。 それから、冷却して形を固定する……はず」
火が、ふっと揺れた。 まるで「やってみろ」と言っているようだった。
孝平は、結晶を火にかざし、 ゆっくりと熱を通していく。
結晶の中に、淡い光が走った。
「……出てきた。風の脈動だ」
瑛里華が、後ろからそっと覗き込んだ。
「初めてにしては、悪くないわね。 でも、温度管理が甘い。 風素材は、熱しすぎると“逃げる”わよ」
「……ありがとうございます。調整します」
孝平は、火の温度を少し下げ、 結晶の色が変わるのを待った。
やがて、結晶の中心に、 小さな“風の紋”が浮かび上がった。
「……これで、加工完了」
孝平は、結晶を冷却皿に移し、 そっと息をついた。
果林が、腕を組んでうなずいた。
「ふーん。 これが“クラフト”ってやつか。 火を使って、素材を“かたち”にする。 ……悪くないわね」
ぽぷらんが、しっぽで火をくるりと囲んだ。
「火の輪、今から“工房モード”に入るよ。 これからは、素材をくべて、かたちにして、 火の輪を広げていくんだ」
孝平は、風結晶を手に取り、 素材録に記録を書き加えた。
《風結晶・未名》→《風結晶・刻印型》 用途:風属性の道具・薬の触媒に使用可能。 加工者:支倉孝平
火が、ふわりと揺れた。
それは、まるで「よくやった」と言っているようだった。
孝平は、火のそばに腰を下ろし、 素材録を閉じた。
「……これから、もっと作っていきたい。 火と一緒に、いろんな“かたち”を」
ぽぷらんが、しっぽで火をなでながら、 にっこりと笑った。
「うん。火は、待ってるよ。 くべられるのを、ずっと」
火の輪が、工房になった。 素材が、かたちを持ちはじめる。
次回――「霧草と風の薬」
リリアーナとアリシアと共に、 薬草を求めて、風の森へ。




