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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第六章 ルッンルン☆初めてのデートは彼岸の彼方♡
81/103

73限目 デート始ま……ったり、始まらなかったりです! 死んでます。

 須内市の駅前にて、優斗はふと顔をあげた。


「ん……?」


 なんだろうか、ぼんやりとした頭で優斗は腕時計を見やった。

 時刻は10時、10分前。

 今は、数年ぶりにこの町に帰ってきた幼なじみ、藤井ヒナとの待ち合わせの最中だ。

 そうだ、間違いない。


「いっけねえな。ボーっとしている場合じゃない」


 優斗は自らの顔を張り、気合を入れ直す。

 言うなれば、今からが本番、キックオフ目前なのだ。

 それなのに集中していないでどうするのか。

 この日のために、イメージトレーニングだって済ませたのだ。


 予定はこうだ。

 この後、どこかに行って軽く食事をしながら、お喋りをする。

 それから軽くショッピングモールを見て回り、そしてふたりで取っておきの場所へ移動だ。

 大雑把な計画だが、仕方ない。

 優斗は女子とこういったことをするのは、初めてなのだ。

 緊張してしまうのも、プランが穴だらけなのも、無理はないだろう。


「ま、別にいいけどな」


 開き直っているわけではない。

 ただ、自分が自分らしくあれば、それできっとふたりとも楽しいはずだ、というポジティブ思考が優斗の中に根づいているのだ。


 優斗のスタイルは自然体である。

 楽しいことを楽しいままに、嬉しいことを嬉しいままに受け入れることができる少年だ。

 スポーツ選手としては理想的なメンタリティとも言えるだろう。


「……ん?」


 そのとき、やたら近くで救急車のサイレンが過ぎ去ってゆく。

 優斗はなぜか嫌な予感を覚えて、眉根を寄せた。


「なんか、多いな、きょう」


 たくさんのカラスや黒猫に見つめられているような気分でつぶやく。

 サイレンが聞こえなくなるほど待っていてから、ふと優斗は気づいた。


「……あれ?」


 きょう? 多い? 一体自分はなにを言っているのか。

 救急車が多く通ったと思ってしまったのだ。まるでデジャブのようだ。

 優斗は静かに首を振る。バカバカしい。

 ほら、待っていたらすぐに来るだろう。時計の針はもうすぐ10時を回りそうだ。


「……ふふ、ヒナとデートか。なんだか、テンションあがってきたな」


 にやけた口元を手で覆う優斗は、まだ知らない……。

 彼の想い人は今、その遠ざかってゆく救急車で運ばれている最中であり……そしてその終着地は、生きている人間からは最も遠ざかった地点であることを……。

 優斗はまだ、知らないのであった……。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「いやあ危ないところでしたね」

「……(放心)」

「本当に危ないところでした。実に危なくて。危ない限りでしたね。いやー危ない危ない。アレがああなっていたら、今ごろはアレがアレでしたね」

「……はっ」


 ぱっちりと目を覚ましたシュルツは左右を見回す。

 キラキラとした眼差しで、黒猫は弾んだ声色をあげた。


「こ、ここは……! そ、そうか! ボクの家か! きょうから夏休み! あはは、きょうからいっぱいゲームしちゃうぞー。ボクは自由だー。朝から晩までゲームだー。あははー」

「起きてください、シュルツさん」

「ハッ」


 ヒナがぺちりと頬を撫でると、シュルツは再び目を開く。

 その目は光なく、どんよりと曇っていた。


「あ、ああ……うん、おはよう、ヒナさん」

「おはようございまーす」

「なんだろう……ボクは、夢を、夢を見ていたんだ……。

 悪い夢……いや、いい夢……だった……」

「えーっと」

「いや、ごめん、なんでもない。それでえっと、なんだっけ」

「優斗くんとのデートのことです」

「はいはい、そうでした。優斗くんとなかなかデートができないんだよね。

 うーん困ったね、困った困った、困ったチャンだぞー」


 ぺろりと舌を出しながら斜め上に視線を転じるシュルツ。

 そのマスコット然とした態度も、完全にシュルツの目が死んでいたので、なおさら不気味で怖い。


「それでも、大丈夫です。わたしには光明が見えました。あといい加減慣れてきました。

 そろそろ平気です。そろそろ。たぶん。きっと。Maybeです」

「ヒナちん、ファイトにゃりー」

「わたしがんばるにゃん!」

「にゃー」

「にゃんにゃんー!」

「にゃーん」

「にゃーん!」


 ダメな空気であった。



 というわけで、優斗との待ち合わせである。

 ヒナは深呼吸をし、人混みをくぐり抜けてゆく。

 

 おっかなびっくり背中を縮こまらせながら歩くヒナは、微塵も足音を立てず、優斗へと近づいてゆく。

 ここが戦場なら、次の瞬間に優斗の首はあらぬ方にへし折られているはずだが、ここはただの待ち合わせの駅前だし、ヒナはCQCの使い手というわけでもないので、優斗の命はいまだ無事である。

 無事でないのは、ヒナの様子だ。


 ヒナは両手で優斗の視線を遮りながら、声をかけた。


「や、やっほー、優斗くーん」

「おお、ヒナ」


 笑顔でこちらに手を振ってくる赤髪のイケメン、三島優斗。

 サッカー部のエースであり、その人懐っこい笑顔の裏には、犬の尻尾が見え隠れしているようだ。

 

 ヒナはセオリーにのっとり、優斗の顔を見ないように視線を斜め下に落としながら、小さく頭を下げる。


「きょ、きょうはよろしくお願いします」

「うん、こちらこそ」


 素敵な声が降ってくるのを全力で頭から締め出す。

 その結果、ワーワーガーガーと騒ぐ128人のヒナによる、大ヒナ会議――優斗くんがなぜこんなにカッコイイかを全員で延々と討論するのだ! 大盛り上がりだ!――が開催され、とりあえずは優斗の声を聞き流すことができた。


「じゃあいこっか」


 そんな風にニッコリと笑って、前を歩く優斗のノリは、学校での彼そのものである。

 ヒナは曖昧に笑いながら、視線だけは逸しつつ、うなずいた。


「うん、いこ、優斗くん」


 会議をしていたため、どこに行くかはまるで聞いていなかったが。

 ――代わりに大ヒナ会議の結果、優斗くんに一番似合う愛称は『優斗きゅん』だということに決定した。賛成78、反対13、無効票37であった。

 

 ヒナは先を行く優斗の靴のかかとを見下ろしながら、のんびりと彼についてゆくのであった。

 ちなみに『やだ、優斗きゅんのかかと、綺麗……!』と悶えたヒナが死にかけたのは、シュルツだけの秘密である。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「とりあえず、軽くお昼ごはんにしようよ」

「う、うん」


 そう言う優斗とともに移動ワープしたのは、見慣れたファミリーレストランであった。

 なんとなく、ヒナの顔が引きつってゆく。


「結構ここ、居心地いいんだよな。部活帰りに仲間と寄ったりしてさ」

「そ、そうなんだー」


 へへへ、と笑う優斗であったが。

 ヒナはあんまり笑えるような気分ではなかった。


 見覚えがある。

 ものすごく来た覚えがある。


 というか、昨日も来た。

 何度も何度も来た。


 目を閉じれば、蘇る。

 あの日の、思い出……。


 泣き叫ぶ店員。

 狂気に猛る男。


 その店の名は、『ミスターファイン』。

 嵯峨野と呼ばれる伊達男の店長が経営している、町のレストランであった。



 もうこの時点で嫌な予感はしていた。

 ヒナは俯きながら、なんだか脂汗をだらだらと流している。

 勝手知ったるミスターファインである。

「いらっしゃいませー」を言ってくる店員も、まるで他人とは思えない。

 何度彼女の泣き顔を見ただろうか。とっても可愛かった。


「嫌な予感がもし雨ならば、ボクたちは今下着までずぶ濡れになっていることだろうね」とシュルツがなんだかおかしなことを言い出して、うつろな目で揺れていた。

 詩人だろうか、詩人なのかもしれない。


「どうした、緊張しているのか? もしかしてヒナってこういうところに学生同士で来るの初めてだったり?

 まあ、仕方ないよな、田舎で暮らしてたんだっけ。そう固くなるなよ、ははは」


 優斗がヒナに和やかに笑いかけてくる。

 しかし違う、違うのだ。ヒナはもはや泣き笑いのような表情である。


 来たことはある。もう10回ぐらい来たのだ。

 クリアしたと思ったのに。またここにいざなわれてしまうのか。

 店内には、血の臭いが染み付いているようである。


 あるいは案内してくれた綺麗な女の子が「この女、毎日違う男と来てんな」と冷ややかな目でこちらを見ているかもしれない。

 いやだ、ビッチだなんて思われたくない! わたしは違うの、ゼンゼン違うの! とっかえひっかえなんかじゃないの!

 様々な妄想がヒナの頭を支配してゆく。

 シュルツに聞かれたら、脳みそをミキサーでシェイクされそうな脳内発言であった。


 席に向かい合わせで座ると、優斗は相変わらず無邪気な笑みを浮かべている。


 うっ……。

 やばい。これはやばい。とんでもなく、やばい。


 彼の周りが、キラキラと輝いている。

 すごい、すごい幸せそうなオーラが漂っていた。


 あ、これあれだ。直視しちゃマズイやつだ。

 うっかりと見てしまった。メドゥーサの恐ろしい目のようだった。


「モルスァ!」

「ヒナ!?」


 口から血を吐くヒナ。

 来た、唐突に来た。限界が迫ってきた。

 そうか、デート、これが、デート……。

 だめだ。椋とふたりっきりだって持たなかったのに。

 優斗とふたりで、耐えきれるはずがない!


「店長ーッ! 店長ーッ!」

「ヒナ!? ヒナ!? ヒナー!?」


 あの可愛らしいウェイトレスの悲鳴と、優斗の呼び声がこだまする中。

 ヒナは再び、血の池へと沈み込んでゆくのであった……。


 目を閉じれば、いつでも浮かんでくる。

 あの懐かしくて、甘くて、気だるい死の感触に、抱かれながら……。


 

 この日、ファミリーレストラン『ミスターファイン』は、やはり潰れた。


 765回目。

 766回目。

 767回目。

 768回目。

 769回目。

 770回目。

 771回目。

 772回目。

 773回目。

 774回目。

(中略)

 843回目。

 844回目。

 845回目。

 846回目。

 847回目。

 848回目。

 849回目。

 850回目。

 851回目。

 852回目。


 死因:優斗との待ち合わせについたりつかなかったり。


 853回目。

 死因:優斗との対面に座って笑顔を見て。(Over Kill!!)



 シュルツより一言:嵯峨野店長さん、なんにも関係ないだろ……っ!



 突然の人物紹介

 嵯峨野さがのまもる

(ヒナさんの死に)巻き込まれ系主人公である。

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