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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第五章 ウッキウキ☆初めてのデートは死の香り♡
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62限目 それいけブルーメ!~崩壊の序曲(オーバーチュア)~

 事務所に呼び出されたヒナミネーターは、開口一番に椋を問い詰めた。


「もしかして椋さんは明日わたしをどこかに連れていこうと思っていたりしますか? 

 それは一体どんな意図をもっての発言でしょうか?

 本題から端的にご説明ください。

 決して誤解のないようにお願いします」

「お、おう」

 

 監査官じみた物言いに、椋は気圧されたようにうなずく。

 それからすぐに咳払いして。


「実はだな、近くにもうひとつのファミリーレストランができたのは知っているか?」

「いえ、存じ上げておりません」

「そこのせいで客の食い合いが発生してな。

 微妙にターゲットは違うんだが……。

 とにかく、一度覗いてみたいと思っているんだ」

「それから?」

「あ、ああ」

 

 なんだかやりづらいな……とつぶやく椋。

 それはともかく、彼は語る。


「だが、ファミリーレストランにひとりで行くのも、ちょっとな」

「ご家族と向かえば良いのでは?」

「だめだ。これは僕がやらなければならない仕事だ」

「なるほど、ではわたしはこれで失礼いたします」

「待て待て待て」

 

 慇懃に腰を折るヒナは制止されて、わずかに眉を寄せる。

 まあでも、話は見えてきた。


 どうやら本当に『イベント』が発生したようだ。

 とりあえず回避する方向に動いてみよう。


「けど、それって、ここの従業員さんと一緒にいけばいいんじゃ?」

「だめだ。見つかったときにいいわけができない」

 

 口調を戻したヒナに、椋は首を振る。


「あいつらと僕は仕事上のつき合いでしかない」

「いや、でも『友達』って言えば……」

「僕は嘘をつかない。

 友達でもないやつを、そう呼ぶことはできない」

 

 きっぱりと椋は言い切った。

 ひどく生きづらそうなモットーを持っているものだ。


「その代わりに藤井、おまえならちょうどいい」

「でもわたしたち、お友達、なのかな」

「最悪『クラスメイト』と言っておけばいい。

 真実のすべてを話してはいないが、嘘ではないからな」

「……それで、明日わたしとそのお店に?」

「ああ、偵察だ。もちろんバイト代も出す。

 どうだ? 頼まれてはくれないか?」

「うーーーん……」

 

 ヒナは腕組みをして悩む。

 決定権がこちらにあるのなら、できれば断りたい、断りたいのだが。

 

 これからのことを考えると、椋の好感度を稼いでおくのは、悪くない。

 この職場だって大事にしておくべきだ。

 お金はきっと、この先も必要になってくるだろうし。


 この店は、キッチンでひたすら黙々と料理をしているだけで、アルバイト代を稼げる職場だ。

 即死トラップであふれているこの街において、ここは一日『たった十回程度』死ぬだけでお金がもらえるのだ。

 こんなにステキなバイト先、他にあるとは思えない。

 

 明日、椋と一緒に食事に出かけるだけで、アルバイト代がもらえるなら。

 あるいはそれは、デートのリハーサルにもなるわけだし。

 

「う~~ん……」


 これで相手が、七海光や、三島優斗なら、間髪入れずに断ったろう。

 だが、今回の同行者は、比較的平気のはずの椋だ。


 もしドハマリして、にっちもさっちもいかなくなったとしても、リカバリーは可能だ。

 三日目の朝からやり直して、もう一度十回程度死ねばいいだけだし。


 ヒナはひどく迷った挙句、

 最終的には首を縦に振った。


「ん~~~~……わかった、明日、だね」

「協力してくれるか」

「うん、わたしで良ければ」

 

 微笑むヒナの前、椋もホッとした笑顔を見せた。


「じゃあ頼むぞ、藤井」

「う、うん、よろしくね、椋くん」

 

 耐えられた。大丈夫だ。


 よし、これがゲームクリアの第一歩だ。

 このまま着々とヒナは、攻略対象キャラとのフラグを立てていくのだ。

 逃げてばかりではなにも物語が始まらないのだから。


 思わずヒナは胸の中で叫ぶ。



 ――ああ、今なんだかすごく乙女ゲーっぽい!



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 早速きょうの日当を確認し、ヒナはお洋服を買いにいこうかとも思ったけれど。


『明日はお互いに制服で向かおう。

 そのほうが、より偵察だとバレる危険性が少ない』


 という椋の言葉を受けて、とりあえず明日のバイト代が入ってからでもいいか、と思い直す。

 まっすぐおうちに帰ったヒナは、真っ先に自室でセーブを選択。

 

 無事、三日目を切り抜けることができた。


「ふう……」

 

 初日、二日目に比べて、なんというハイペースな攻略速度か。

 優斗も凛子も樹も光もいなければ、この程度だ。それみたことか。


 ヒナはベッドに腰掛けながら、えへへと微笑む。


「どうですか、シュルツさん。

 やっぱりわたし、別にホレっぽいわけじゃないんですよ。

 たまたま強敵が多いだけで、普段のわたしはこんなものです。

 日常生活を送ることに、支障は一切ありません」

 

 なんて言い張ってみても。

 慣れたシュルツのツッコミは飛んできたりはしない。

 

 そうだ、シュルツは今休暇中なのだ。

 体と心を休めて、英気を養っているのだ。

 

 その邪魔をしちゃいけない。

 だからヒナは、机の上のブルーメに笑いかける。


「ねー、ブルーメちゃん、ねー?」

「気安く話しかけやがらないでくださいなのです」


 といってもすっかりリラックスしたヒナは、

 そんなレベルの拒絶は微風ほども気にしない。


「ねえねえ、ブルーメちゃん」

「……なんなのです」


 ヒナは机の上に座る白猫のぬいぐるみに迫る。

 ブルーメはわずかに後ずさったように見えた、が。

 

「もしかしてブルーメちゃんって、

 ちょっぴり、恥ずかしがり屋だったりする?」

「はあああああ!?」

「だってナデナデしようとすると、いっつも怒るし。

 シュルツさんは抱っこもさせてくれていたのに」

「心の底から! 心底! いやなだけ! なのです!」

 


 フシャーと鳴きながら爪を伸ばすブルーメ。

 ヒナは構わずニコニコと。


「でもでも、もう一日一緒にいたんだから、

 そろそろ仲良くなったりしない? 女子同士でしょー?」

「一緒にしやがらないでください!

 ワタシが上! コムスメが下! なのです!」

「それはそれでぜんぜん良いんだけど……。

 ねえ、ねえ、ブルーメちゃんー」

「なんなのですこのコムスメ、人の話を聞いてないのです……!?」


 ブルーメは心の中で膨大な汗を流す。

 一日が終わった途端、これだ。

 

 ヒナにロックオンされたことをヒシヒシと感じていた。

 なんとしてでも、自尊心は守りきらなければならない。


 ……いや。

『守る』だなんて、面倒なことをする必要はない。


 ブルーメはシュルツに絶対的な勝利を誓ったのだ。

 夢のオペレーターナンバー一桁を手にするのだと。


 ちょうどいい機会だ。いいだろう。ならば思い知らせてやろう。

 どちらが上位者(オーバーマン)であるかを、このすっトロいコムスメに。


「じゃ、じゃあわかったのです。

 しょ、勝負するのです!」

「勝負?」

 

 両手を揃えて首を傾げるヒナに。

 ブルーメは胸を張って告げる。


「今から5分だけ時間を与えるのです!

 その中で、コムスメがワタシに触れやがることができたら、コムスメの勝ち!

 ワタシとお喋りする権利を与えてやるのです!」

「ふむふむ」

「けれど、ワタシが逃げきったらワタシの勝ち!

 コムスメは金輪際、ワタシの命令に逆らってはだめなのです!

 永遠に、この宇宙が虚無へと変わるまで、永遠になのです!」

「なるほどー」

「逃走範囲はこの部屋いっぱい! 

 どうなのです! 受けて立つのです!?」

「いいよー」

 

 迷い一つなくヒナはうなずいた。

 ブルーメは心の中で嘲る。「ばかめ」だ。


 確かに触れればそちらの勝ちだと言ったが。

 こちらから触れないとは一言も言っていない。

  

 両手の爪を操り、勝負(ルール)という名の下にヒナの手をズタズタにしてやる。

 あくまでもこれは正当防衛だ。


 彼女の心と体に、一生消えない傷を刻み込んでやる。

 体の傷はゲームだからすぐに消えるけれど。


 ヒナは相変わらずなにも考えていなさそうな脳天気な笑顔だ。

 きっとこれが遊びだと思っているのだろう。

 もう一度心の中で告げよう。「ばかめ」と。


「じゃあ今から、始める?」

「ならばこの本が地面に落ちた瞬間にスタートなのです!」


 あくまでものんびりとしたヒナに口早に告げる。

 先手を取ることも勝負の世界においては重要だ。


「いくのです!」

「はーい」


 たった5分。だが永遠よりも長い5分を味わわせてやろう。

 その後に待つのは、屈辱の時だ。

 ブルーメは早くも勝利を確信する。

 この鈍くさそうなコムスメになにをさせてやるか――。

 

 暗い笑みを浮かべたまま、ブルーメは本を放り投げた。


「フ――」

 

 ああ、最初からこうすれば良かった。

 いかにファッションセンスと料理の腕前があったところで、なんだというのだ。

 

 ブルーメのメンタルは守るものではない。

 相手を責めて責めて、責め殺すための力だ。


 ――そして、本がぱさり、と。


 床を叩くその音が、部屋に響いて。

 ブルーメは机の上から跳躍する――。


 

 ――360度の立体軌道。

 白猫のぬいぐるみであるブルーメは光の線となり、部屋を縦横無尽に駆ける。


「おおー、ブルーメちゃんすごいね!」


 この世界において、ブルーメの負けは絶対にない。

 間抜けな感想を漏らすヒナの動きは丸見えなのだから。


 人間の反射神経の限界は、0・1秒。

 これは見てから反応するまでの限界数値である。

 

 対してブルーメは人間ではない。AIだ。

 この空間内において、0・01秒の反応速度で駆けまわることができる。

 

 それが一体なにを意味するのか。

 そう、人間の性能では絶対にブルーメを捕まえることはできないのだ。

 

 例えば人は、飛来する矢を切り払うことができる能力を持つものもいる。

 だがそれはあくまでも矢を視認して行動を起こしているわけではない。

 構えの向きや人の視線など、その狙いから軌道を予測しているだけなのだ。

 

 ブルーメは矢だが、自ら軌道を変え、思考することができる矢だ。

 迸る出世欲にその身を灼きながら、コムスメの心に傷を負わせる紅蓮の弓矢なのだ。


 ブルーメは強い。すごく強い。

 だからヒナをひとりでも蹴散らすことができる。



 さあ、狩りの時間だ。

 ブルーメは爪を輝かせた。

 

「イェーガァァァァ――――」

 

 

 ――ヒナの腕が弧を描く。

 

 まるでボールを投げ下ろすようなモーションで。

 しかしひどくゆっくりと、その小さな手が迫り。

 

 視界が遮られて――。


「え」


 次の瞬間。

 ブルーメはヒナの手によって。

 捕まえられていた。


「え」


 うそだ。

 そんなはずはない。

 

 ブルーメの動きは人間には見えない。

 軌道を予測するのだって、不可能だ。

 

 ヒナの動きはすべて見切っていた。

 かわせないはずがない。


 つまり、この事象はありえない。

 どちらにしても、ありえないのだ。


 過程がないのに。

 結果だけは――確実にブルーメの敗北を示している。


 偶然?

 奇跡?

 そんなばかな。

 

 頭脳の回路が焼き切れるような思いがした。


 なのに。

 一体なんだこのコムスメは――。

 


 首根っこを捕まれ、持ち上げられて。

 眼前に、ヒナの顔が。


 彼女は当然のことのような口ぶりで。

 絶対的な勝利宣言をする――。


「――わたしの、勝ちだね」

 

 巨人のようなヒナが、にっこりと笑みを浮かべた。

 次の瞬間――。


「あ、あ、あ……」


 一気に毛を逆立たせたブルーメの顔が、恐怖に引きつってゆく。


 その日、ブルーメは知った。

 人類(オペレーター)巨人プレイヤーに勝てないのだ、と。

 ブルーメより一言:おとうさん、おかあさん、さよならなのです。

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