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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第五章 ウッキウキ☆初めてのデートは死の香り♡
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53限目 生きてオシャレの華を咲かせます

 

 制服のまま部屋を出るヒナ。

 お外で自由行動をするのは初めて――なんせまだ二日目だから――だ。


 またもリビングに親の気配を感じたため、抜き足差し足で玄関を出る。

 お外に一歩踏み出すと、ぴょこんと目の前にウィンドウがポップした。


「わー」


 どうやら自由行動といっても、自由に歩き回れるわけではないようだ。

 さすがゲーム。リアルにするべきところと、簡略化するべきところがよくわかっている。

 まあその現実感を追求するのが葬式というのは少しどうかと思ったけれど。

 それはこのゲームのウリだから仕方ない。


 行き先は七カ所だが、伏せられているらしき箇所が山ほどある。

 それは徐々に増えてゆくのだろう。


 どこを選んでも時間経過が発生するらしいので、慎重に選ばなければ。

 

 カフェテリア。ファーストフード。レストラン。

 学校。図書館。カラオケ。

 そして、大型スーパー(百均、ドラッグストア、本屋、お洋服屋の複合店)。


 以上の七カ所である。

  

「ということは、わたしが向かうのは、大型スーパーだね?」

「ま、そうなりやがるのです。

 休みの日は『駅』を利用できるので、さらに行ける場所が増えるのです。

 街にはさらに上位の『ショッピングモール』がありやがるのです」

「へーへー、すごいすごい、楽しいー!」


 きゃっきゃとはしゃぐヒナ。


 ちなみにブルーメはさんざんおさわりが嫌だと言っていた通り、

 とことことぬいぐるみのまま歩いてついてきたりしている。

 抱きかかえようとしたのだが、結局ウルヴァリン状態で拒絶されてしまったのだ。

 

 ヒナがウィンドウを触れると、周りの景色が移り変わってゆく。


「わ、ゲームスタートのときと一緒だね。

 すごい、テレポートしているみたい」

 

 一瞬だけ耳鳴りがして、気がついたときにはヒナはもう、スーパーの中にいた。

 明るい照明に一瞬だけ目が眩む。

 

「お、おお……」

 

 思わず感嘆のため息。

 辺りにもぼんやりと買い物客が溢れ出した。

 

「ま、それじゃあお洋服屋さんに向かいやがってください」

 

 二足歩行の白猫のぬいぐるみがフロアに立っていても、周りの誰も気にしない。

 軽くチャッキー状態だが、どうやら彼女の声と同じように、見えていないのだろう。


 ならまあいっかと思いながら、ヒナはスーパー内の服屋へと移動する。


 ブルーメはキビキビとした動きで小さなコンパスを動かし、

 ヒナを追い抜きかねないほどの早さでついてきた。あまり可愛くはなかった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「あら、いらっしゃい」

 

 ヒナを出迎えたのは、ニコニコとした大学生ぐらいの女性。

 自作ブランドの服を颯爽と着こなす、背の高いショートカットの人だった。


「こんばんは」

 

 ぺこりと頭を下げるヒナ。

 女性は笑顔を崩さずに、頬に手を当てて。


「かわいいお客さんだこと。

 ここ【プレシャス・ビビッド】へようこそ。

 ゆっくり見ていってね」

「――っ」

 

 ヒナは慌てて顔を背ける。

 人間として失礼極まりない態度だが、気にしてはいられない。

 突然の命の危機だった。


「か、かわいいとかそんな……。

 やめましょうよ、死んじゃいます」

「あらそう? でも、あんまり謙遜もよくないわよ」

 

 ぱちりとヒナに向かってウィンクを飛ばしてくる女性。

 その彼女の胸元に、ウィンドウがポップする。


『ミカ:【プレシャス・ビビッド】の店長を務める21才の女性。

 あなたに様々なコーディネートの指南をしてくれる、この街のおしゃれ番長です』


 危なかった。彼女のハンサムな笑顔を前にしても、『おしゃれ番長』などというひどいネーミングのおかげで冷静さを保つことができた。

 ありがとうおしゃれ番長、ありがとう。

 

 そんなミカは、ニコニコと微笑みながら。

 

「もしかして、デートのお洋服?」

「まっさかぁ!」

 

 ヒナは大仰な身振りで否定した。

 視線を逸らし、がくがく震えながら。


「た、たたただクラスメイトの友達に誘われただけですよぉ……。

 お、男の子で、ふたりでどこか遊びにいかないか、って……た、ただそれだけで……。

 えー、デートぉ? デートってなんですかぁ?

 わたし聞いたことないですぅ。

 あ、確かそういえばラテン語で日付を指す言葉が『data』って言うとかなんとか……」

 

 それがデートの語源に他ならないわけだが。


 シュルツならすかさず指摘してきたであろうそのボケも、

 ブルーメやこの場にいるミカは「?」と煙に巻かれたような顔をしていた。助かった。

 

「ま、いいわ。なら気に入ってものがあったら声をかけてね?

 試着もできちゃうからねー」

「は、はい」

 

 カウンターに頬杖をついて笑いかけてくるミカに、おっかなびっくり猫背でうなずくヒナ。

 勘違いする必要はない。彼女は店主だから優しくしてくれるだけだ。

 ヒナがお金を持っているから、ジャパニーズマネーをたっぷりと持っているから、

 それを引き出すために『愛想』をサービスの一貫として振りまいているだけなのだ。

 もしヒナが文無しだとしたら、彼女の笑顔はすぐに暗黒微笑へと変わるだろう。

 

 もはや客と店員の間にお金の取引以外の感情は存在しないのだ。それがこの世界の条理なのだ。

 レジで「暖めますか?」と聞いてくるイケメンコンビニ店員さんに、

「わたしの心もお願いしますー!」だとか言うような時代は終焉を迎えたのだ。

 さすがにヒナだってそれぐらいの分別はわきまえている。

 

 なるべくお仕事の邪魔にならないよう、可能な限り気配を消しつつ、店内を物色するヒナ。

 少しずつ彼女という存在そのものが周囲に溶け込んでゆく。

 それはブルーメですら「あ、あれ? ご主人様どこに行きやがりました?」と首をひねるほどのステルス能力の一端だったのだが、それはともかく。



 飾られているTシャツをタッチすると、浮かぶウィンドウ。

 一枚2000円。消費税や端数はナシ。

 サイズなどもすべて、ヒナの体型に応じてあらかじめフィットするように設定がされているようだ。

 

「うわぁ、便利だなぁ……。

 これあれば、お洋服が着れなくなったりしないもんねぇ……」

「その代わり服飾産業は大打撃を受けちゃいやがりますけれどね」

「ええ。つまり――常に誰かの不幸の上にわたしたちは立っている、ということですね」


 そうつぶやいたヒナの目は未来を見据えていて。


「う、うん?」

「だからこそわたしたちは、与えられるこの幸せをめいっぱい味わいながら生きてゆく義務があるんだと思います。

 それが少しでも犠牲になった人への、罪滅しとなるのなら」

「あれ? これなんの話? 今なんの話をしてやがります?」

 

 きょろきょろと辺りを見回すブルーメ。

 ついついヒナの舌も滑ってしまった。咳払いでごまかす。


 それよりもだ、今は三日後のデートの服装を品定めしよう。


 店内にあるのは、トップス、ボトムス、アウター、インナー。それに小物の類。

 季節が春ということもあり、淡い色の春めいた暖色スタイルが多く取り揃えられている。


 この中から、すべてのコーディネートを取り揃えなければならない。

 それも一万円以内でだ。


 久しぶりだ。ゾクゾクするこの感覚。

 限られた条件を満たすために全力を尽くす。


「……腕が鳴りますね」


 そうつぶやくヒナの目は、まるで肉食動物のように鋭く細められていた。


 ミカの『おしゃれ番長』の名は今日限り返上だ。

 ここから先は藤井ヒナ。

 ――いや。


『おしゃれ女帝』が君臨するのだから――。



 ブルーメより一言:コムスメのお手並み、拝見しやがるのです(暗黒微笑)。

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