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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第四章 ピッカピカ☆新たな一日は恋の冥土♡
55/103

47限目 生きてもそろそろ限界です

  

 と、いつまでも待たせているのも悪いので、ヒナは指を伸ばし、選択する。

 虎次郎の個性的なスタイルについての回答だ。


B:『センスはいいと思うけど、でも校則には従ったほうが……』


 ヒナの口から自動的にそんな言葉が漏れる、と。

 やはり、虎次郎はあからさまに不機嫌になった。


「……っせぇな。凛みてえなこと言ってんじゃねーよ」

 

 それがまるで彼の決めポーズであるかのように、首に手を置きながら――やはり寝違えでもしたのだろうか、心配だ――顔を歪める。

 ヒナは困ったように眉をひそめながら。


「でも、凛子ちゃんも虎次郎くんのことを心配して言っているんだと思うよ」

「頼んだつもりはねえよ」

「そりゃあそうだけれど……でも」

「ああ、でもでもうっせーな……ったく、これだから女ってやつはよ……」

「まったくもー……」

「ウゼェっつーの」

 

 と、そんなやりとりをしていると……。

 シュルツはなぜか目を丸くしていた。


「え、あれ? 今って喋っているのヒナさん? それともシステム?」

「あ、最初の一言より後ろは、全部わたしですよ?」

「なん……だと……」

 

 なぜ驚愕しているのだろう、わからない。

 カジュアルモードを選んでおきながら自分で話してしまったら意味がないじゃないか、という風に驚いているのかもしれない。

 

 でもこれはこれで、ヒナにも考えがあってのことだった。

 虎次郎と凛子には仲良くしてもらいたいのだ。彼が素直に聞き入れるはずないと思うが、それでも残念なものは残念だ。

 

 再びパラメーターによる選択。今度は『魅力』が消えてしまっている。一度選んだものはもう選べないのだろう。

 次にヒナは『気配り』をチョイスしてみた。


 するとやはり勝手に口が。


『虎次郎くんのお兄さんって、樹先生だよね?

 樹先生ってとっても優しそうだよね、いいなあ』

 

 さすが未だにパラメーター最低の『気配り』である。

 ヒナは「うーん」とうなる。

 

 虎次郎は自分のことを、自分だけを見ていてほしいと思っているはずだ。

 特に優秀な兄と比べられるなんて、まっぴらごめんだろう。

 

 やはり虎次郎はけわしい顔つきになって。


「……まあな。あいつはいつだって外面はいいんだよ。

 家ん中でも小言ばっかりでうっせーぞ」

 

 ほら、やっぱりムード悪い。

 でもだからこそ、ヒナはときめかずに済む。


 選択肢を選ぶヒナ。

 今度も相手の神経を逆撫でするものだ。

 


 C:『でもさ、それってやっぱり虎次郎くんのことを心配しているんだよ』


 

 言うまでもない。

 モラルを押し付けることで、虎次郎は更なる息苦しさを覚えるはずだ。


「……おまえ、さっきからごちゃごちゃうるせえなあ」


 髪をぐしゃぐしゃとかく彼の横に並んで歩きながら、ヒナは微苦笑する。


「うん、ごめんね。でも虎次郎くんのことを思って」

「変わったやつだな……」

「えへへ、そうかな」

 

 頬をかくヒナの前、虎次郎は堅苦しそうに。


「ったく……なんでオレを誘ったんだ?」

「え?」

「一緒に帰ろうって言いかけてきたの、お前だろ」

「う、うん、そうなんだけど……」

「……」


 彼の視線から目を逸らし、ヒナはスカートの裾を押さえる。


「えっと……別に、そんな理由はない、かな?」

「……ふーん」

「ただ、その、なんとなく……」

「凛か?」

「……え?」

「オレの様子を見てこい、とでも言われたのか?」


 ヒナは慌てて首を振る。


「う、ううん、違うよ」

「……そうかい」

「そんなんじゃ……」

「……」

「……」

 

 静寂がふたりの間に沈殿する。

 しばらく経って、諦めたように虎次郎が口を開く。


「……別に、答えたくないんだったらいいけどよ」

「……」

「凛以外の女にに、学校で話しかけられるなんて、久々でよ」

「……うん」

「別に、鬱陶しいだけだけどよ」

 

 まるで言い訳するように付け足す彼に、ヒナは小さくうなずく。


「……そっか」

「ああ」

「……」

「……」


 と、会話が途切れたそのときに。

 何気なく、ふと見やると。

 

「オチもなく、なにをだらだらと……!?」


 鞄にくくりつけられていたシュルツがやはり非常に驚いていた。

 ヒナのほうがむしろびっくりだ。


「ど、どうしたんですか? シュルツさん」

「……い、今のはヒナさんじゃなくてシステムが喋ってたんだよね? そうだよね?」

「いえ、わたしですけど?」

「え、だって、ふ、普通の会話だったよ?

 普通の、日常会話、をしていたよ……?」

「えっと……?」


 どうしよう、シュルツがなにを言っているのかわからない。


「突然変なことも言い出さないし、相手を脅かしたりもしないし、

 キレてボクがツッコミ入れて『なに言ってんの!?』とか言わずとも終わる会話だったよ?

 そんなのヒナさんにできるわけが……!」

「あの……」


 おたおたと慌て出すシュルツ。

 ヒナは思わず言葉に詰まる。


 シュルツは二日目のセーブができたら、少し休んだほうがいいかもしれない。

 ついに論理的におかしなことを言い出してしまった……。


 体を預けてくれるなら、トロけるような夢気分の全身マッサージでも施して、その疲れを十分に癒してあげたい。

 自分がシュルツのためにしてあげられることはなんだろう、とそんなことをヒナが思っていると。


「じゃ、オレはこっちなんで」

「あ、うん」

 

 虎次郎に声をかけられて顔をあげるヒナ。

 グッバイアタックに警戒しつつ、小さく手をあげる。


「じゃ、またな」

「うん、また明日、学校でね」

「……チッ」

「え?」


 舌打ちに疑問を放れば、虎次郎は吐き捨てるように。


「別にそうそうサボんねえよ」

「あはは」

「……んだよ」

「そんな意味で言ったわけじゃないって」

「……そうかい」


 わざと機嫌が悪そうにつぶやく虎次郎。

 ヒナは苦笑い。


「気にし過ぎだよ、虎次郎くん」

「うっせぇな」

「うん、それじゃあね」

「……ああ、またな」

「ばいばい」

 

 ぶっきらぼうに告げる彼に、ヒナは一応目を合わせないようにして、手を振る。

 その後ろ姿を最後まで油断なく見届けて、ホッと胸を撫で下ろす。


「ふー……」

 

 ここまで来れた。

 あとは自宅までもう少し。

 変なイベントが起きない限り、生きてセーブができる。

 油断せずにいこう。


「……あと少し、がんばりましょ?」

 

 拳を握り、ひとりうなずくヒナ。

 二日目の終わりはもう、すぐそこだった。

 

 シュルツより一言:え? ヒナさんが後半、まるでボケてないんだけど? 普通の日常会話を交わしているんだけど? ボクは夢でも見ているのか?

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