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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第四章 ピッカピカ☆新たな一日は恋の冥土♡
54/103

46限目 生きている間に乙女ゲーの話をします

 こんかいのあらすじ:進んでません。

  

 改めて――何度でも言おう。

 藤井ヒナは、乙女ゲーのスペシャリストである。

 

 20XX年現在、発売される家庭用ゲーム機での女性向け恋愛ゲームは、年間80本を越える。

 PCゲームや18禁、BLゲームなどを合わせればその数は100を越えるだろう――だがそちらはヒナの範囲外だ。今は言及をしない。

 

 年間80本。それらすべてを購入すれば一本6000円だとしても、48万円もかかるのだが――。

 ヒナは持ち前の友達ネットワークを駆使し、そのほぼすべてをプレイしている。もちろん全キャラ全ルートの攻略だ。CGも全部埋める。


 たとえゲーム発売が集中する時期――クリスマスシーズンや年度末である3月などだ――の一ヶ月の睡眠時間が、一日平均15分になろうとも、これは欠かせぬヒナのライフワークである。

 ヒナはマグロと同じだ。恋の海を泳がなければ死んでしまう。それが乙女ゲーというバーチャルな恋愛であっても同様に。恋をやめたそのときが、ヒナの最期なのだ。

 

 授業中に幻覚を見始めようが、好きな声優の声の調子を聞いただけでその人の今のコンディションが手に取るようにわかるスキルを勝手に手に入れてしまおうが、それは必然というべきことである。

 女性向け乙女ゲームの存在を知ったそのときから、ヒナの地獄に音楽は絶えないのだ。(幻聴的な意味で)

 

 そんな風に、友達とのおしゃべりの間に相槌を打つ必要がない数秒のタイミングで睡眠する術を手に入れたヒナであったが。

 今までの乙女ゲー経験を思い出しながら、彼女は思考する。

 

「ああ……どの選択肢を選べば、どんな答えが返ってくるか、手に取るようにわかりますっ……!」

「う、うん……」

 

 ヒナの瞳に桃色のハートマークが浮かぶのを見て、シュルツはなぜか引いていたけれど。

 

「ここでもう一度、A、B、C、それらの選択肢を確認してみましょう!」

「は、はい」

 

 ヒナの勢いに押されてうなずくシュルツ。

 こうして悩んでいる間、虎次郎の動きは止まっている。さすがカジュアルモード。時間制限もないようだ。


 改めて選択肢に向かい合うヒナ。

 

 A:『自分を貫くってかっこいいね』

 B:『センスはいいと思うけど、でも校則には従ったほうが……』

 C:『虎次郎くん、そういうの気にするんだ?』


 大きくうなずき、ヒナは笑みを浮かべる。


「正解はCです。間違いありません」

「そうなの?」

「はい」

 

 シュルツは一応女性向け恋愛ゲーム開発する会社の社員だ。

 乙女ゲーについては一家言あるつもりだ。


「素直にAを選ぶのが無難だったりしないの?」

「いいえ、違います。そんなあからさまにミーハーな答えを選んだところで、

 虎次郎くんは『こいつ、オレのなにを知っているんだよ……』ってって感じでちょっと嫌な感じになります」

「それキミの妄想じゃないの?」

「これは統計学的にも極めて正しい判断なんです」

 

 きっぱりと言い切るヒナ。


「Cで、相手の内面にかすかに触れることができるんです。

 虎次郎くんみたいな不良を気取っている男の子は、常に弱さをさらけ出したくてさらけ出したくてウズウズしています。

 外見がトゲトゲしている人ほど、隙あらば母性にすがりついてこようとしている女々しい男子どもです。

 これは乙女ゲー世界の常識です。すっごく可愛いです。

 中には『ちょっとコンビニに寄って行かない?』って誘っただけで、

『こんなオレを誘ってくれるなんて、心を許してくれたのか……?』ってキュンとしてくれる不良の子もいるぐらいです」

「頭おかしいだろそいつ。コンビニでおつりを手渡しされたただけで勘違いしそうだよ」

「というわけで!」


 ぱちん、とヒナは手を打ち鳴らす。


「今、選ぶべきはBです!」

「逆に!?」

「逆に」

 

 驚愕するシュルツの前、ヒナはしっかりとうなずく。


「虎次郎くんは……というか、不良のキャラクターというのは、誰も彼も常識人です。

 芸術家キャラクターみたいにナチュラルに頭がオカシイ人とは違って、実はツッコミ基質なんです。

 なので、彼のように形だけでも不良を装っているなんちゃってな方は、

 校則に従わなきゃいけないってことは百も承知なんです。

 人間は自分で気にしていることこそを人に指摘されるのが一番腹が立つと言われています。

 虎次郎くんが凛子ちゃんを疎ましく思っているのも、そのひとつでしょう。

 だから、ここはあえてBを選びます。

 そうすることによって帰り道は気まずい空気が流れ、好感度も下がり、次第にふたりの間の口数も減ってゆくという良いことずくめです!」

「ああまあ、なるほど……。

 っていうかヒナさんちょっと口が悪くなっている」

 

 ヒートアップしているのだ。

 好きなものについて語っているだけだから、恋愛ブレスレットの数値に変動はないが。


「ていうかなんか、あれだな……。

 そういう会話を聞いていると、ヒナさんも立派なゲーマーなんだな……」

「え? なんでですか?」

「いやなんか、ボクの知っているゲーマー像と、ヒナさんがあまりにも結びつかなくて。

 アウトドアすぎるっていうか、スペックが高すぎるっていうか……

 人間的にアレすぎるっていうか、とてもゲームやりそうには見えないっていうか……」

「よくわからないですけど、お友達同士で語り合うときには、

 大体わたし、いつもこんな感じですよ?

 たいていキャーキャー言ってます。ずっとキャーキャー言ってます」


 そんな風に微笑むヒナを見て、シュルツは苦々しそうにつぶやく。


「その友達ってもしかして他に三人いて、全員が全員ヒナさん並の能力者で、

 というよりもそもそも皆、人間の形をしているけれども人間ですらなく、

 実は世界の終末にラッパを鳴らすために降臨した死天使が、現代で暇を潰すために乙女ゲーを遊んでいて、

 その彼らがいる場所こそが世界でもっとも高い霊山エベレストよりさらに天の階段を登った先にあるカフェで、

 ありとあらゆる万物の恋愛について司る協議を行ないながらも、魂の紅茶を啜りながら、

 サイコロの出目を見守るような感覚で、

『えへへ、ニンゲンさんも良いゲームを開発していますからね~。なら、滅ぼすのはもう少しだけ待ってあげましょうか~』

 なんて微笑みながら言い合っているってことはないよね?」


 とかなんとかシュルツが言うと、

 ヒナはまるで慈母のような笑みを浮かべながら、黒猫の頭を撫でる。


 それから母性に満ちた声で。


「……シュルツさん、ずいぶんと疲れてらっしゃるんですね」

「そうかもしれない」

 

 シュルツは静かに認めた。認めざるを得なかった。

 

 シュルツより一言:ヒナの乙女ゲー友達を妄想してみた。



友達A:吹き鳴らすことにより全宇宙に疫病を撒き散らすラッパを持つ死天使のひとり。普段は優しくておもいやりのあるおとなしい少女だが、ひとたび怒りに身を任せれば誰よりも恐ろしい。その眼から放たれるビームはかつてソドムとゴモラを滅ぼした。


友達B:吹き鳴らすことによって全宇宙の人々が直ちに自らを殺さずにはいられない衝動を加速させるラッパを持つ死天使のひとり。誰よりも強いこだわりを持つ神経質な少女。収集癖があり、気に入った人間の魂を人形に押し込めて保管している。気分次第で首をもいで遊ぶ。


友達C:吹き鳴らすことによって全宇宙の人々の体液を干上がらせることができるラッパを持つ死天使のひとり。物事にはあまり頓着しないマイペースな少女。だからこそ人の命も毛ほども気にしておらず、虫を殺すように人を殺める。


ヒナさん:彼女たちを取りまとめる死天使のリーダー。もはや人間に抗う術はない。

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