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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第四章 ピッカピカ☆新たな一日は恋の冥土♡
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41限目 死ぬぅ……

 

 とりあえずヒナの凶行を阻止することには成功したシュルツ。

 たかが120回程度死んだだけ――シュルツもだいぶ感覚が狂っている――で、目を潰されては敵わない。

 

 そんなバイオレンスな展開になるぐらいなら、

「このヒナ、生来目が見えぬ」とか言い出してくれた方がまだマシだ。


「でも他に方法が……」

「いくらでもあると思うけどっ」


 というか下手に目を潰したら、それ以外の感覚が研ぎ澄まされそうだ。

 匂いだけで死んだり、声だけで死んだりすることは間違いないだろう。


「うーうー……」

 

 膝小僧の間に頭を埋めながらぐりぐりと動かすヒナ。

 今回ばかりは彼女も自信を失ってしまっているようだ。

 

 普段からイケメンに顔などでは負けないと思っていたヒナだ。

 嫌なのに無理矢理感じさせられて、といった状態だろうか。よくわからないが。


 一体どうすればいいのか。

 シュルツも首をひねり……

 

 残る手段と言えば。

 もうヒナ式ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムを解禁するしか手はないのだろうか。

 

 あるいは新たな技、ヒナ式スター・プラチナか?

 かわいい女の子の取り巻きを、もう見えないように叩っ壊してやるのか、光の顔面のほうを。

 

 だめだ。どっちもだめだ。

 すごいだめだ。人としてだめだ。 


 結局。

 

 良いアイデアは出ないまま。

 ヒナはゆっくりと立ち上がった。

 

「……いってきます」

「う、うん。いってらっしゃい」

 

 きっと、736回目の死に向かうのだろう。

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 色々とわかったことは、ある。

 七海光という人物に対して、だ。

 

 彼と出会うことになるタイミングは、大きく分けて四つ。

 

・まずひとつはお昼休みまでの間、ヒナが自ら会いにいくパターン。

 恐らくは初日の時点でも会うことはできたのだろう、と思う。

 

・ふたつ目。お昼休みに廊下を歩いていると七海光とばったり遭遇するパターン。

 これはどこをどんな風に歩いていても、唐突に七海光時空に引き込まれるようだ。

 

・三つ目。前述の七海光時空から逃げ出した場合。

 五時間目の休み時間から放課後までの間、光が教室に押し掛けてくる。これを防ぐのはとりあえず不可能だ。


・四つ目。お昼休みに一歩も出かけなかった場合だ。

 放課後教室から出た瞬間に、七海光時空に引きずり込まれる。これが一番の問題だ。

 お昼休みの時空は逃げ出すことができたが、この場合は絶対に逃げられない。

 なんと見えない壁が出現し、ヒナの行く手を阻むのである。

 ビッチ死すべし。慈悲はない。

 

 とりあえず――これが二日目の七海光の行動パターンだ。


 一ツ橋虎次郎などもはや、敵でもなんでもない。

 七海光。まるで仔猫を可愛がるように人懐っこく近づいてくるあの先輩こそが真の門番だった。

 

 目を瞑って耐えていたらさりげなくボディタッチしてきて、

 耳を塞いでいたら頭まで撫でてくるようなあのチャラ男を、どうにかしなければならないのだ。

 

「やはり目を潰すしか……」

「やめて」

「なら七海センパイを亡き者に……」

「物理やめよう。

 これ乙女ゲーだから。乙女ゲーなんだから」

「乙女ゲーって、『乙女が遊ぶ戦争ゲーム』の略ですよね……」

「ヒナさんお願いだから正気に戻ろう。

 君がある日『こんな世界いらないな』って思ったら、

 この世界はぶっ壊れてしまいます」

「なぜ神はこの世界にイケメンを作っちゃったんでしょうか……」

 

 やばい、重傷だ。

 これほどにヒナが落ち込んだことなど、未だかつてない。

 

 ヒナは登校するやいなや、3年1組へと向かう。

 その足取りは重い。


「ちょ、ちょっとヒナさんどうする気。

 殺生? 殺生はやめようよ。

 ね、そんな殺生な~(笑) って、ね?」

「……」

「え、やだ、無言こわい」

 

 と、久々にシュルツが戦々恐々としていると。

 ヒナは光のいる教室の前のドア近くで立ち止まる。


 そうして、シュルツだけをゆっくりとドア窓に近づけてゆく。

 なんだろうなんだろう、とドキドキするシュルツ。


「……いますか?」

「え?」

「光センパイ……いらっしゃいますか?」

「あ、うん、いるよ。

 例によって女の子と楽しそうに話しているよ」

「わかりました」

 

 ヒナはうなずくと、その場で深呼吸をした。

 一体なにを考えているのだろう。

 

 読めない。このビッチの抱く暗闇は深すぎて、見通せない。

 光も届かぬ深き深きビッチ海の底に沈む深海ビッチ魚だ。


 するとヒナは身を翻し、近くの空き教室へと向かっていく。

 そこから机を引っ張り出すと、二段重ねて持ち上げながら3年1組に戻ってゆく。


 なにをする気なんだ。

 脇に抱えられたシュルツは幻の滝汗を流す。

 

 どんな斬新な殺害方法を試そうとしているんだ。

 机を使った完全犯罪のレシピを持っているというのか。

 

 ヒナは重ねた机を3年のクラスの前に置くと、

 再び戻ってまた空き教室に向かい、やはり机を持ってくる。

 

 朝の登校時だ。ヒナの奇行は周りの人たちにジロジロと見られている。

 それでも彼女はやめない。いつもならこの辺りで羞恥(羞死?)していそうなものなのに。

 

 それほど明確な、漆黒の意志が彼女には生まれているというのか。

 光に一体なにをするつもりなんだ。


 と、四往復ほど繰り返して……

 さすがにヒナはやってきた女性教師――モブキャラだ、たぶん――に注意をされる。


「ちょ、ちょっと……あなた、一体なにをしているの?」

「……」

 

 ヒナは答えない。

 人を無視するような性格の娘ではないはずだが。


「ちょ、ちょっとあなた!」


 さらに強く問いただされると、ヒナはぽつりと答えた。


「……バリケード、なんです」

「え?」

 

 これはシュルツの声だ。

 ヒナは泣きそうな顔で答える。


「バリケード作って、それで、その、

 閉じこめよう、って思って……」

「おいおいヒナさんよ」

 

 シュルツは唖然とした。

 おせっかい焼きのシュルツではないが、言わせてもらう。

 

「ヒナさんが、そんな、なまっちょろい方法でバリケードを作る、だって……?

 大人が何人か手を加えれば、すぐにも壊れてしまいそうなバリケードを?

 おいおいおい、まるでそこらの女子高生みたいなことを言い出すじゃあないか。

 やろうと思えば素手であの扉を溶接したり、空間をねじ切ったり、

 入り口と出口をループするように繋げて、永遠に真実に到達できないようにできるんでしょう……?

 それなのに、なんで……そんな……手間もかかる上に目立つ、普通のやり方で……

 理解不能理解不能理解不能理解不能……」

「だ、だって」

 

 机を運び、教師に止められながら、

 もはや半べそをかいているヒナは、言い訳するように漏らす。

 

「そんな方法したら、一緒にいる人たちまで、

 閉じこめられちゃうじゃないですか……

 そんな迷惑、かけられませんし……」

「だからって、机でバリケードって……」

「うう、うう……」

 

 もはやヒナは自分でもなにをしているかわからないのかもしれない。

 ヒナは完全に打ちのめされていた。

 

 騒ぎが大きくなってゆく。

 周囲の人たちに注目されていると、だ。

 

 3年1組の教室から「なにかあったのかな?」と、

 くだんの七海光がひょっこりと顔を出した。

 

 まずい、とシュルツは思ったが。

 もう遅い。机を持ち上げたままのヒナと目が合っている。


 ヒナは「あ、あ、あ……」と、声を震わせた。

 ぷるぷると唇をわななかせて、その表情も青ざめてゆく。

 

 ヒナの五感は非常に優れている。

 おそらく2キロ先に落ちた針の音も聞き取れるのだろう……とシュルツは勝手に思っている。

 

 そんな彼女だからこそ、生徒の中のイケメンにターゲットを合わせてしまうのは必然だ。

 目の良さが命取りなのだ。

 

 がちゃぁぁんと机をなぎ倒しながら、ヒナはその場に倒れ込む。

 辺りが騒然とする中、ヒナは体をくの字に丸めながら、さめざめと涙を流す。


「うっ、うっ……か、かっこいいよぉ……

 光せんぱい、かっこいい……よぉ……」

 

 それが彼女の、最期の言葉であった……。

 

 

 736回目。

 死因:イケメン力。

 

 シュルツより一言:まだだ……あのヒナさんが、この程度の逆境にくじけるはずがない……

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